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2025年06月22日(日)
『プロット 殺人設計者』

『プロット 殺人設計者』@バルト9 シアター2

な、なんか昔のハヤカワ文庫にありそうな話だったな…読者も何を信じればいいのか判らなくなるやつ。香港映画のリメイクだそうですが。ひとを信じるのってホントに難しいですねヨヨヨ皆気の毒 『プロット 殺人設計者』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 22, 2025 at 17:21

全員がひたすら気の毒だった。

原題『설계자(設計者)』、英題『The Plot』。2024年、イ・ヨソプ監督作品。香港の『アクシデント/意外』のリメイクだそうです。ルイス・クーがカン・ドンウォンなのですね、おおお(眼福)。

偶然の事故に見せかけてターゲットを始末する4人のチーム。事故を“設計”するヨンイルにはかつて相棒がいたが、彼は事故で命を落としてしまった。ヨンイルはこの事故を、自分たちを狙う“清掃人”によるものではないか、仲間に裏切り者がいるのではないかと疑い始める。

ヨンイルの証言でストーリーが進むが、その視点が果たして真実なのかは判らない。冒頭、相棒の瞳の色が左右違う、という話が出てきて「ほほう、どんな色なのかな」と注目していたが、画面に映ったその色は左右とも同じ色にしか見えない。いや、光の具合かも、角度によるかも、と彼が映る度に注意して見ていたのだが違いを見つけることは出来なかった。ということは……?

ヨンイルのチームは全員魅力的なキャラクター。トランスジェンダー、ベトナム帰り、少年院帰り。皆訳アリだが、その背景は深くは語られない。家族のような親しげな様子を見せたかと思うと、距離を詰めるとすぐに遠ざかる。うーん、全員がヨンイルのイマジナリーフレンドだったりして? ヨンイルの告白だって全部妄想かも知れないし! えっそれってすごく寂しい! いやでも刑事さんが事故について話してたから実在はしてるのかも! でもあっちはヨンイルのこと知らないかもよ?

……と、ぐるぐる惑っているうちに終わります(笑)。懐かしささえ感じた。昔こういうのよくあったよ、伏線いっぱい引いといてそのまんまのやつ! こっちに投げっぱなしのやつ! いやあ、面白かったですけどね…韓国映画ってほんっと交通事故のシーンが巧いよなー、マジで怖いわとか、マスコミとそれを凌駕する勢いのユーチューバーへの憎悪を感じるなー、でも実際彼らの振る舞いはヒドいもんなー……とか見どころは沢山あって退屈しません。

と同時に、あんな悩める妖精みたいな顔をした頭身の多い子が現場うろうろしてたら目立ってしょうがないんじゃないか、ヨンイルこの仕事向いてないんじゃないのとかも思う(笑)。でもカン・ドンウォンの演技は信頼出来るので観ていて楽しい。演技陣の座組もよかった。保険会社のひとの顔の演技が素晴らしかったな〜ホントに悪いひとに見えるのはともかく、ちゃんと善人にも見える! このひとがいちばん気の毒だったような気もする。

と、これもヨンイルに惑わされているのか、或いは“清掃人”の策略にハマっているのかも知れませんね。疑心暗鬼怖い。陰謀論にハマるひとの心理を垣間見たような気分にもなりました。気をつけよう! やられる前にやれっていう不安を煽るのもダメ! 気をつけよう!(再)

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・プロット 殺人設計者┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。保険会社のひと、イ・ムセンという方なのですね

ところで上映前『TRON: ARES』の特報が流れたんですがNINの主張が強すぎて笑いが出た あんなデカいスクリーンでNINのロゴ観たの初めてだよ!

「トロン:アレス」特報|10月10日(金)日米同時公開!
youtu.be/xPb9oVZeNtU

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 22, 2025 at 17:25

なんなの……トレントとアッティカス、じゃなくてNIN名義でスコアやるのそんなに目玉なの? 今トレントとアッティカス=NINなのに? NINってアメリカではどういう位置付けなの? と今更訳が判らなくなるなど。ビックリした……



2025年06月21日(土)
『脱走』

『脱走』@新宿ピカデリー シアター2

南極好きにはキエーとなるエピソードあり。でも私のひいきはスコット隊なんだ…そんでやっぱいちばん凄いのはシャクルトンだと思うんだ……(そういえば映画化の話どうなった) こういうのをエンタメとして見せる韓国の胆力よ 『脱走』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 21, 2025 at 19:44

スコットは軍人としては立派だが規律と研究を重んじたが故に隊を全滅させ、シャクルトンは時間はかかったが部下全員と生還した“史上最強のリーダー”。でもスコット隊は研究のための試料採取とかやることいっぱいあったんだよ! 極点到達だけが使命じゃなかったんだよ! と本編と関係ないことを熱く語ってしまう。

未開の地と自分の可能性を追求し続けたアムンセン。彼の功績は、自由と未来を自分で切り拓こうとする主人公の目標そのものだったんだ。

原題『탈주(脱走)』、英題『Escape』。2024年、イ・ジョンピル監督作品。2017年に、数十発の銃弾を浴び乍らも走って国境を越えた北朝鮮兵士がモデルのようです。所謂「脱北」ルートは中国経由の陸路か船を使った海路というのが通常のところ、軍事境界線を突破するとは。しかも軍人が(というかこのエリアに入れるのは軍関係者しかいないだろうが)。という珍しいケース。

退役を間近に控えたギュナムは南へ亡命するべく綿密な計画を立て、準備万端で実行の機会を窺っている。心の支えは南のラジオ番組とアムンセンの伝記本。しかし想定外のことが次々と起きる。ギュナムの計画に勘付いた部下が自分も連れていってほしいといいだし、そこへ国家安全保衛省の幹部となった幼馴染みのヒョンサンが絡んでくる。国境迄は約2km、地雷だらけの草原をギュナムが駆ける。ヒョンサンが追う。捕まれば間違いなく処刑されるギュナム、逃せば相当の処罰が待っているヒョンサン、逃げる者も追う者も命懸け。

ホンも演出も巧くて気が休まらないシーンの連続。映画館では他の観客の緊張感もバリバリ伝わってくるのでカラダがガチガチになりました。終盤のあのシーン、あちこちから「あっ」「きゃっ」と悲鳴が漏れてた。あれは声出るわ。地雷、軍事境界線にある電話の使い方も巧いし、伝記本、方位磁石、ラジオ、ペンダントといった小物にまつわるエピソードもエモい。反面、あのひととかあのひとたちはどうなったの!? てのもそこそこある。確かに主人公視点だとその後のことは知らんとなるが、観客としては流浪民の皆どうなったのよ〜! 無事でいてくれよ〜! と祈るばかりだよ……。

あまりにも話運びが巧いので、観ている側もそれに乗っちゃう訳です。ゲームっぽいとでもいおうか、小道具だけでなく人物も「アイテム」にされている感じがする。キャラクターの戯画化も際立っている。音楽をやっていたヒョンサンの耳がめちゃいいというのもゲームキャラクターにおけるLv値のようだし、ってそもそもヒョンサンの登場シーンとかあまりにもキャラ立ってて笑ってしまったもんね。めくるめく男と男の愛憎っぷりもすごくて、めっちゃつかこうへいの芝居を思い出してしまった。男と男の距離が近い! 顔が近い! つか作品好きなひとに是非観てほしいわ〜(ヘンな勧め方)。

すごく「よく出来ている」んです。観ているうちに「面白がってていいのか……?」となんとなく後ろめたくなってくる。南北分断はエンタメ業界からすれば格好の素材でもある訳ですが、一歩間違えばプロパガンダになる可能性がある。『宝くじの不時着』くらいになるとコメディとして屈託なく笑えるし、ホントにそうだったらいいのにねえくらいに思うけど……とモヤモヤしていた終盤、ギュナムとヒョンサンのやり取りにハッとさせられる。

亡命した国が果たして理想郷かは判らない、幸せに暮らせるかなんて判らない。ギュナムの目的はそこではない。彼はあくまで「失敗出来る」「挑戦して、失敗して、また挑戦出来る」ことを目指しているのだ。『不思議の国の数学者』でもそうだったが、南に亡命した数学者は最終的にドイツに渡る。南で全てが叶えられる訳ではない。自国の問題も反映しつつ、しかし「ここから挑戦出来る可能性はある」と伝える。「失敗してこい」は、ギュナムにとっては希望、ヒョンサンにとっては絶望の言葉だ。

夢を叶えようともがくギュナムと、夢を諦めたヒョンサン。家族が皆亡くなっているギュナムと、(おそらく)ゲイであることを隠して(おそらく)政略結婚し、もうすぐ子どもも生まれるヒョンサン。人生で幾度かある選択の末、家族と体制に縛られてしまったヒョンサンは“脱走”の道を失っている。こういうところも周到なホンだった。運命の分かれ道はどこだったのだろう。南北分断という問題から、夢を叶える若者の物語を生み出した1980年生まれの監督に瞠目し、同時にジェネレーションギャップも感じたのでした。

走る姿の美しいギュナムにイ・ジェフン。表情と仕草で語るヒョンサンにク・ギョファン。演技合戦も見応えありました。あのあとヒョンサンどうなったのかなあ……。

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マックィーンの『大脱走』とかは戦争終わってるからああいう終わり方でもはーてなるけどこっちはまだ終わってないからなあ。やるせないものがある。それにしてもクギョファンのツラ構えよ(サインかわいい) ああクギョファンよクギョファンよ

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 21, 2025 at 19:45

ク・ギョファンいいよね〜、舞台挨拶行きたかったよ〜(残業確定曜日だったため断念)

・脱走┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。ソン・ウミンのこと「リ・ヒョンサンの元恋人」と明記されている。まあどう見てもそうだわな。しかしおまえそんなにじっとりした目で見つめるなよ! 誰かが携帯見たらどうすんだよ、「かつて愛した犬野郎」てあからさますぎるだろう! と、ふたりともこっちが心配になる程脇が甘い。せつない

・[コラム] 朝鮮戦争停戦から71年…映画『脱走』があぶり出す南北の若者の‘今’(徐台教)┃Yahoo!ニュース
徐台教さんによるコラム。本国での宣伝バナー画像には少なからず驚いた。日本での宣伝が「止まったら、即死亡──」とかいうコピーで「ゲーム感覚なのか……?」と引っかかったんだけど、本国でもそういう感じだったんだなあ。
この映画を観た翌日、『情熱大陸』で金原ひとみが朝吹真理子と韓国に取材旅行へ行き、南北境界線付近で有刺鉄線がグッズとして売られていることに驚く様子が流れていた。歴史をエンタメとして消費する強かさと後ろめたさ。一筋縄ではいかない歴史

・以前チョコレートケーキが上演した『ライン(国境)の向こう』を思い出したりもしました。戦後日本が北と南に分断されていたらという話。地続きの国境がない島国でも、こうなる可能性があった

・余談、ギュナムがラジオで南の放送を受信して方角を探るシーンを観て思い出したこと。ウチの田舎では、ラジオで半島(南か北かはわからんが、まあ位置からして南かな)の放送が聴けた。間に熊本がある宮崎でそうなのだから、対馬海峡に面している長崎ではもっと、かなり鮮明に聴こえるんだろうな。てか長崎は半島が見える距離だもんね、天気いいと(修学旅行のとき見た憶え)。南北分断はそれくらい近いところで起こっていることなのだ



2025年06月14日(土)
エマーソン北村+宮田岳 SESSION!

エマーソン北村+宮田岳 SESSION!@Shimokitazawa 440

ほぼ急遽のセッションでしたが各々のソロにバンドにインプロ、じゃがたら「みちくさ」(!)にカーペンターズ「We've Only Just Begun」(!)のカヴァーも聴け楽しい夜になりました 清さんの怪我がはやくよくなりますように

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 15, 2025 at 2:20

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エマーソン北村(key, vo)
宮田岳(vo, g, b)
fugasi:宮田岳(vo, g, b)、はまち(drs, perc, cho)
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えーともともとは松竹谷清さんのバンドChocolate Dandiesとヤヒロトモヒロさんのバンド公開車庫の対バンによるイヴェント『GET CRAZY 2025』だったのですが、清さんに災難が降りかかりまして。


なんてことだよー(泣)。手術は無事終わり現在リハビリ中だそうで、早く完治することを願うばかりです。

松竹谷清&Chocolate Dandiesは全員札幌在住につき、バンドメンバーだけ東京に来るのも……となり、そうこうするうちヤヒロさんも別件で東京を離れることに。中止か……となりそうになったところ、エマーソン北村さんが「近所に住んでいるんです。土曜の夜に440の灯りが消えているのは忍びない」と、代替公演として『エマーソン北村+宮田岳 SESSION!』を企画してくれたのでした。出演者が減った分の差額です、とチケット代金も一部返金してくれるという心配りも。いいのにー! 制作さんもたいへんだったよね……。

という訳で1st setは北村ソロ→宮田ソロ→fugasi→fugasi+北村、2nd setは北村さんと宮田さんがそれぞれ出したお題をもとにインプロ→はまちさんが加わって全員セッション、というプログラムになりました。

そもそもはJagatara2020が縁だったそう。そうそう、このときのハコバン素晴らしかったんだよ〜! バンマスを務めた宮田さんのデキる子っぷりに感服したものでしたよ。「どういう経緯で俺のところに話が来たか、今でもさっぱりわからないんだけど」、知り合いから「こういう案件があるんだけど、どう?」と連絡があり、ていゆうさんと会って面接+セッションみたいなオーディションがあったそうです。ご自分のことをオヤジキラーならぬ「オヤジ狩り」といっておりましたが(笑)確かに年長さんからめちゃモテですよね。頭脳警察もやってるもんね。わかる気もする。一方的な印象だけど、演奏にも佇まいにも達観を感じます。

で、上のひととばっかやってないで「いい加減自分のバンドをやらないと」と思い立ち結成したのがfugasiとのこと。てかバンド名最高やん、FUGAZIならぬfugasi。このとき初めてバンド名を聞いたのでスペルが分からなかったんだけど、フガシいうならシは絶対shiじゃなくてsiだろと検索したらやはりそうだった(笑)。gとdrsのツーピース、めちゃめちゃ格好いい! 呻くようなヴォーカルと骨太ギター、ストロングスタイルなドラムと繊細なパーカッション。White StripesやJSBXな雰囲気もあり……そうだギターがジュダ・バウアーを彷彿させるんだ。Jagatara2020ではベースのみだったので、ギターでもこんないい演奏するんだ! とまた感服。こういうところも「若いのに渋いとこ体得してる〜だからオヤジにモテるんだね!」という印象。めっちゃ好みの音だったのでまた聴きたい。イヤイヤ期の3歳児を描いたフランクザッパならぬ「ブランコザッパ」、最高でした。

北村さんは「めっちゃリラックスしています」、とエレピ、オルガン、ポエトリーリーディング(岩波新書を開いて朗読も。タイトルは見えなかった、何の本だったんだろう)に歌と、柔らかく沁み入る演奏。宮田さんとのトークも楽しく、メキシカンパンダの話に大ウケ。穏やかな北村さんが「無茶苦茶かわいいの!」とこのときばかりはテンション高くなっておりニコニコした。気になって帰宅後検索しても全然見つからないメキシカンパンダ、実物を見てみたいよ〜! 最初そういう品種がいるのかと思ったよ〜!

インプロのお題は「縄文人のヲどり」「レゲエベース」「暗号解読」「におい」。「陶芸をやっているので縄文土器も好きで。川も森も豊かな日本では、縄文人はあんな複雑な紋様の土器をつくるくらいのゆとりがあったようなんです。砂漠が続く大陸の方では、ああいう土器は見つからないらしい」。超難解なナチスの暗号がAIで簡単に解読出来たというニュース(エニグマのことかな→・現代AI技術がエニグマ暗号を13分で解読:第二次世界大戦の難題が今やあっという間に┃イノベトピア)から、「当時の人間が寄り集まってウンウン考えて作ったものを、AIは一瞬で解いちゃう。人間ってかわいらしいというか愛しいなって……」「暗号解読の仕事には女性たちが従事していたんだよね」などなど、キーワードにまつわるふたりの話も興味深いものばかり。

北村さんの「Jagataraにはかっこいいベースラインが沢山あったので、そこから何か選んでみて。キーだけ教えて」という言葉のあと、イントロでおお、これは! となったベースライン。瞬時にキーボードが重なる。これなんだっけー、知ってる! でもタイトルが出てこない!(加齢)と思っていると、聴こえてきたのは「口笛を鳴らせ」「お前の考えひとつで どうにでもなるさ」のキラーセンテンス……「みちくさ」だー!!! ギャー、来てよかった!!!

その後「意外に思われるかもしれないけど」(いや、そんなことないよ!)と演奏されたカーペンターズ「We've Only Just Begun」のカヴァーもよかった。ベーシストでしか知らなかった宮田さん、こんなに魅力的なギターと歌を持っていたんだと5年経って知ったのでした。次回こそ『GET CRAZY』で! 待ってますね。

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入場前に隣の251を見て、あー昨日はここで高橋さんだったんだよなあ(ここんとこ悉く日程が合わない)……などと思いつらつら検索していたらこれがヒット、清さんと接点があったのかと驚く。鹿島さんの人脈〜! そうそう、Jagatara2020の「みちくさ」はエージさんとせいこうさんと近田さんでやったっけ。この日いちばんアガったナンバーだったなー


この日の清さん。こだまさんも現在闘病中、ふたりともはやく元気になって

・コード・ガールズ 日独の暗号を解き明かした女性たち┃みすず書房
帰宅後暗号解読の参考文献を探していて見つけた本。読んでみたいー



2025年06月13日(金)
SPARKS JAPAN TOUR 2025

SPARKS JAPAN TOUR 2025@EX THEATER ROPPONGI

SPARKS! MAD! SPARKS! うわーん我らSuburban Homeboysよ〜!😭
こっからJansport Backpackへの流れ〜! いや全部が素晴らしかった〜!

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 14, 2025 at 2:24

いやもうさ……ほんと「愛され続けて半世紀」、大昔の曲から最新作のどれもがクラッシックで瑞々しくて、なんなの! 元気でいて!

ラッセルもいってたけど、何しろスタジオアルバムは28枚ある。お馴染みの曲あり、レア曲あり、最近になって大ヒットを飛ばした(ファンの間ではずっとお馴染みの名曲だけどな!)大昔の曲ありと、レパートリーは盛り沢山。今回はセットリストの1/4、5曲が最新作『MAD!』からのナンバー。これがまー盛り上がる盛り上がる。いつでも最新型のスパークス!

オープニングにぴったりの「So May We Start」からショウはスタート。ラッセルが「ラッセルです、ロンです、スパークスです。行きましょう!」と日本語で挨拶する最高の滑り出し。50年分のレパートリーはめちゃめちゃ多彩。グラム、ニューウェイヴ、エレポップ、ミニマル……その幅広さに対応するバンドにも唸る。演奏は勿論ピカイチ。でも演奏しないでいいパートもまあまあある訳ですよ、シンセのリフとドラムだけで展開する曲も多いので。そのときの彼らの仕事は唄ったり踊ったりフロアを煽ったりすることなのですが、それらがどれも最高。特にコーラス! もやはクワイア! 美しい響きはまるで賛美歌のよう。上手側のギター、イーライのキャラ立ちもすごくてな。左利き用のギターを右で弾き、ハーロドック調のソロをバリバリ弾き、その柳腰で舞いフロアを煽る。森岡賢のようだった。夢に出そう。

日本がこのツアーのワールドプレミアだったので、衣裳も初披露。ラッセルのスーツは和柄のパターンと台湾花布のパターン、それぞれ青と赤が基調のもので、全部で4着くらいあったみたい。これは日本公演に合わせてなのか、このあとのツアーもこれでいくのか気になるところ。ロンはお馴染みシックな黒の上下。アンコールでは松竹映画のTシャツに着替えて出てきました。兄は静かにエレピのリフを弾き続け、弟はステージを端から端迄動きまわって唄い踊る。そしてどちらも(そう、兄も!)手をふったりスマホを構えているオーディエンスのことをちゃんと見ていて、しっかり応えているのです。検索すると「こっち見てくれた!」という喜びと共にカメラ目線の画像をあげているひとの多いこと。曲間に名前呼ばれると「ん?」みたく寄っていったり顔を向けたりしてる。

ステージ上にもフロアにも笑顔が溢れ、イントロが鳴り響く度に歓声が上がり、感極まったり涙ぐんだり。前述したように個人的にうわーーー(泣)となったのは「Suburban Homeboy」〜「Jansport Backpack」の流れ。郊外住まいの男の子が! セックスのことばっか考えてて! 涙の海に溺れて! 彼女は去っていくんですよ!!! 勝手に繋げてしまいましたがドラマティック極まりないじゃないですか!!! 曲調にしても軽快なリフに載せてディレイとタメのライムをかますロン兄、美声で唄いあげるラッセル、手を振り手を叩くオーディエンス、そう、殆どずっと手拍子するんで手を振るタイミングも難しい。ステージのハッピーな空気に反して兄弟も観客もやることいっぱいでたいへんなんですよ(笑)。スパークスのライヴに手拍子は不可欠よね…叩いちゃうのよね……。毎回書いてる気がするが、終わってみれば掌パンパンなんですよ。

曲毎にしっかり水を飲み、次にやる曲について話してくれるラッセル。自身のコンディショニングは勿論、フロア側にも休む時間与えてくれて有難うという思い(笑)。どれだったか、ラッセルが曲のタイトルど忘れしたところがあってロンに聞きに行った場面があったんだけど、口を隠して耳元でこそっと教えてあげた兄が「やれやれ」みたいなみたいな顔をして見せたのがかわいかった。メンバー紹介では弟が兄を「This is すごい」「ビッグブラザー」と呼び、ちょっと後ろ目に立っていた兄の背中を押して前方追いやる場面も。演奏中はクールに鍵盤を弾き続ける兄が、このときばかりは感慨深げな顔になってお辞儀をしていたのにジーン。

そう、ステージ上のロン兄は、演奏はマシーンのようにクールに、自分のヴォーカルやダンスを披露する場面ではニヤリとしてと、ロンというキャラクターを演じているようなところがあるんだけど、ときどき「人間ロン」が顔を出す場面があるんですよね。「All That」でオーディエンスがスマホライトをかざして揺らしたとき、その光景を眺め乍ら演奏するロン兄の表情には「人間ロン」が滲み出ていたようにも感じました。それにしてもこの場面は本当に美しかった。途中で振り返ってみたら、フロアから2階席迄蛍の海みたいに輝いててさ……そしてステージに向き直ってみれば、舞台袖にいたスタッフたちがフロアに合わせて手を振ってて。こんな平和で幸福な場所があるかー! この平和と幸福が世界に拡がればいいのにー! とスケールのデカい願いを抱いてしまいましたよ……。

帰りに入った中華料理店にはスパークス帰りの客がいっぱい。聞こえてくるのは「オープニングが『アネット』の曲(「So May We Start」)でさ、俺あの映画大好きでさ! うれしかった〜」「終わるのが寂しかった!」「ずっと聴ける、3時間くらいやってほしかった」「それな」「でも無理させられない」「ホントすごいよね、70代にはとてもとても」「お兄ちゃんなんか再来月80よ」「ラッセル動けるのもすごいけどあの声はホントすごい。なんであんな声ずっと出せるの?」……ウチらも同じようなことずっと話してましたけど。愛されてる。いつか別れが来るのは知ってる。でもまだまだ元気でいてほしい。ラッセルは次回の来日をベリベリスーンといってくれた。待ってる。


tweet拝借、シェア有難うございます!
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setlist(setlist.fm

01. So May We Start
02. Do Things My Own Way
03. Reinforcements
04. Academy Award Performance
05. Goofing Off
06. Beat the Clock
07. Please Don’t Fuck Up My World
08. Running Up A Tab At The Hotel For The Fab
09. Suburban Homeboy (Ron version)
10. All You Ever Think About Is Sex
11. Drowned in a Sea of Tears
12. Jansport Backpack
13. Music That You Can Dance To
14. When Do I Get to Sing "My Way"
15. The Number One Song in Heaven (Ron intro)
16. This Town Ain't Big Enough For Both Of Us
17. Whippings and Apologies
18. Lord Have Mercy
encore:
19. The Girl Is Crying in Her Latte
20. All That
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有難う有難う。ステージから見た「All That」の動画を上げてくれてます。綺麗(涙)

・スパークスが2025年6月、『MAD!』ワールド・ツアーを日本から開始。日本への想いを語る│Yahoo!ニュース
「あらゆる口実を見つけて日本に来ようとしているんだ」って。前回の来日くらいから日本のクリエイターとのコラボグッズが出ているし、公認グッズも元々はファン発信だったもの。個人で招聘した岸野社長に始まり、日本のスパークスファンの「好き」の気持ちと行動力が、バンド側にちゃんと伝わっているのが素晴らしい。制作側もしっかりシーンを見ているし、いい関係ですよね。
インタヴュアーは安心と信頼の山崎智之。ロン兄から「『オーディション』や『殺し屋1』が大好き」のコメント引き出してくれて有難う〜

余談。昔の職場の社長が来ててヒッとなる。しかしそのひと「ブリティッシュロックがいちばん、アメリカのバンドなんか聴きませーん」とかぬかしてたイギリス人なんだけど、スパークスは聴くんだな…そんでやっぱスパークスってイギリスで愛されてるんだな……と妙なところで再認識。50年やってきて最新作がキャリアハイの全英2位だもの。確定2日前くらい迄は1位だったんだよねー惜しい! でもThis is すごい!(©ラッセル)すごいよスパークス!



2025年06月07日(土)
『昭和から騒ぎ』

シス・カンパニー『昭和から騒ぎ』@世田谷パブリックシアター

ア゛ーーシェイクスピアのロマコメってイライラする〜〜(笑)それは何故か? というのを昭和という時代を通して丁寧に腑分けして見せられた気分。また役者が揃って巧いもんだからも゛ーーー ナレーターも豪華! 『昭和から騒ぎ』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 7, 2025 at 21:38

ロマコメというかラブコメか。

あれよ、シェイクスピアくらいになると「あー、当時の価値観はそうだったんですよね。大昔だもんねー」で笑って済ませられるんですが、それが昭和の設定となると、微妙〜な昔なのでその変わってなさに余計イライラ度が増すんですよ(笑)。令和の今観たからこそ、かも知れません。つまり観る側の価値観はアップデートされている。『から騒ぎ』の初版は1600年、つまり425年前。今作の舞台設定は昭和25年とのことなので75年前。ちなみに今年は昭和100年だそうです。

三谷幸喜による翻案上演。舞台は鎌倉となっています。昭和の鎌倉といえば小津安二郎。美術(松井るみ)、衣裳(前田文子)、ヘアメイク(佐藤裕子)もそれを意識したと思われるテイスト。これは眼福でした。白いブラウスに白いスカート(照明によってはセピア寄りのアイボリーに見える)、原節子のような佇まいの宮沢りえの美しいこと! その宮沢さんが堂に入った阿波踊りを披露する衝撃! ここでいちばん笑った。つまり台詞によるものではないシーンがいちばん面白かった。あとカーテンコールの大泉洋の話芸ね。本編関係ないやん。

舞台設定はうまいことアレンジされている。屋敷の縁側と客間でストーリーが繰り広げられ、花火大会がハレ、縁側がケというシチュエーションになっているのが素敵。少し大仰に聴こえる言葉のやり取りも、昭和30〜40年代の映画を意識したのかなと思えば違和感はない。大泉さんのリアクション芸とボヤキ芸、高橋克実のボケ芸、山崎一のスットボケ芸、竜星涼の天然芸。そして素晴らしかったのは峯村リエの間の巧さ。若手ふたり(松本穂香、松島庄汰)も汗臭さを感じさせないスマートさ。役者が揃いも揃って巧い。

作品紹介にある「聞き耳、立ち聞き、盗み聞き…/虚実が飛び交い、騙し騙され振り振られ」を楽しめるかどうかでも好みが分かれそうです。あとゴシップ好きかどうか。立ち聞きするなよ。盗み聞くなよ。と思ってしまうひと(私だ)は終始イライラしっぱなしになります。そうね、私『家政婦は見た!』を観るとうんざりするもん。『家族八景』も「七瀬早くお暇もらって!」って感想がいちばんに来るもん。

皮肉として楽しめるところもありますが、素直にドッカンドッカン笑うには引っ掛かりが多過ぎた。身体的特徴をあげつらうところとか、本人も普段自虐ネタとしていることではあるけどやっぱり気持ちのいいものではありません。「しょうがねえなあこのひとたち」という笑いが憐れみを帯びるようになってくる。憐れむ笑いって虚しいんですよね。この家に母親が不在なのは何故か、という説明が舞台上ではされないところにすら含みを感じてしまう程でした(ニッコリ)。

これで「あーやっぱシェイクスピアって、三谷幸喜って面白い!」「昭和っていい時代!」と思える観客がどのくらいいるだろう、という疑問が残ります。これだけのキャストを揃えられるプロダクションは決して多くない。それなのに……? と首を傾げてしまう。なんか勿体ないなー、恋にときめく大泉さんと宮沢さん、とても愛らしかったんだけどなあ。役者を堪能する、という意味ではいい公演だったのかな。

導入のナレーションが昭和のテレビ番組の──これも30〜40年代辺りのものに限られるかな──テイスト。観る側を昭和気分にスイッチングするいい効果になっていました。ちなみにこれ、最後の最後にナレーターが誰か明かされて場内がどよめいた。ニュース読むときと全然声のトーンが違う! お見事でした。

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河合祥一郎さんによる新訳なんでこんなチラシも入ってました

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Jun 7, 2025 at 21:49

KADOKAWAから河合さんで全訳出す予定があるようです。近年シェイクスピア作品だと認定された4作品中2作も本邦初訳されるとのこと。
「河合祥一郎訳(KADOKAWA版)はこんなにすごい!」という圧強めの文言もあり、「新刊を出すには、既刊をたくさんの方々に読んでいただかなくちゃ!」「新作を読みたいと思ったあなた! ぜひともご購読ください」とも書かれていたのが昨今の翻訳出版事情を反映していてせつない。いやホントこの業界苦しいですよね……(悲)