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2026年03月28日(土)
『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』

『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』@TOHOシネマズ日比谷 スクリーン12

舞台挨拶でトモロヲさんが「言葉に出来ないから映画にしました」といってて、そんなんこっちだって言葉に出来るかよー😭二度と起こらなくて二度と手に入れられない時間を捉えた青春映画でした! あとじゃがたら好きは観るといいです! 『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Mar 28, 2026 at 21:17

舞台挨拶で峯田和伸が「感無量です」といってたんですけどこちらも胸がいっぱいです。情緒が乱れ切っているので以下とっちらかったままおぼえがき。ネタバレ全開。

・「世界を変えたのは、才能だけじゃない。音に賭けた、名もなき若者たちの衝動だった。」半世紀前、日本のパンクロックシーンを創り上げた若者たちの物語。インディーズも、スタンディングライヴも、ロックフェスも、全ては彼らから始まった。地引雄一による原作はこちら↓

STREET KINGDOM The Final – Tokyo Rockers & the 1980’s indies scene by Yuichi Jibiki/ストリート・キングダム〈最終版〉 東京ロッカーズと80’sインディーズ・シーン – 地引雄一┃SLOGAN


・監督は田口トモロヲ、脚本は宮藤官九郎。音楽は大友良英。『アイデン&ティティ』以来のタッグです。『アイデン&ティティ』はエキストラ参加もしたりしていろいろと思い出深い作品
・『アイデン&ティティ』に影響を受けたキャストが集ったというのもうれしいこと

以下ややこしくなるので便宜上ホントの名前で書いてます。

・当方東京ロッカーズには間に合わず、S-KENがらみでいえばカメレオンナイトからが実体験
・S-KEN視点でいうと、70年代=東京ロッカーズ、80年代=TOKYO SOY SOURCE、90年代=カメレオンナイトとなります
・DRIVE TOシリーズは2000からで、これはもう今のLOFTでの開催でした
・小滝橋の旧LOFTにはギリ間に合った世代

・で、ここからちょっとややこしくなるんですが、そもそも「東京ロッカーズ」は後述のインタヴューにある通りS-KENとRECKがNYで出会ったことから始まります
・なのでNYのパンクシーンがなければ……となるんですが、今作はUKのSex Pistolsがきっかけになってるんですね
・ここら辺がんん? となりましたが、ストーリーはユーイチ=地引さんの視点で、トカゲ=LIZARDを中心に進むので仕方がないか……
・そもそも日本ではピストルズの存在が大きく、パンク=UKという認識が多いように思う

・というとなんかネガティヴですけどそうではなくて、同時多発的にそれぞれが自分の道を切り拓くなかで一瞬交わった一年間のことを描くにはこうするのがベストの選択だったのだろうなと。トモロヲさんも「苦渋の決断」で出てくるバンドやシーンを絞ったといっていたので納得してます
・それをいったら、それよりちょっと後の世代のじゃがたらを出してああいうシーンを入れたところにトモロヲさんとクドカンのじゃがたら愛を感じましたね。胸がいっぱいよ〜アケミーーー
・「おまえはおまえの踊りを踊れ」! FUJIYAMA!

・それにしても中村獅童がじゃがたらとアケミを知らなかったことに驚いたし
・何あれ……最初にキャラクターフォトが出た時点でギョッとしたし、予告編見てもギョッとしてたんですけど……
・知らなくてあれなのか! 役者って怖い!
・トモロヲさん曰く「そっくりショーにしたくはなかった」ということで、実際似てる似てないという基準は忘れて楽しめるんですが、それにしたってさ
・あれは見てくれが云々というよりやはりキモというか魂の演技なのだろうなあ……

・それをいったら仲野大賀のミチロウもな、輪郭とか身体の線とか明らかにミチロウとは違うのにミチロウだったんですよ。すごいなあれ
・ミチロウが全裸で暴れて峯田くんが怒られるシーンが二重の意味で面白かった。かつて同じことをやった峯田くんが……(笑)
・ボカシの処理(エフェクト)がオシャレでしたね(笑)
・そういや新聞記事のとこ、一箇所前貼りの紐消すの忘れてない?(どこを見ている)

・似てるでいえばRECKが見てくれからしてイメージ通りのRECKだった。ああいうイメージでした! 間宮祥太朗最高!
・あとラピス+恒松正敏(twitterの方でラピス=恒松正敏と書いてしまったがひとりのひとが両方演じてるという意味ですーややこしい)がさ……確か台詞なかったんだけどもう目が行く行く。あ! 恒松さんだ! とひと目でわかるという……


モーサムのももくんがこう書いてた意味がわかった。100点満点

フリクションは間に合ってない世代で画家としての恒松さんが大好きなもので今回バンドマンとしての姿を見せてもらえて嬉しかったな 演じたのはタカハシシンノスケさん最高

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Mar 28, 2026 at 21:34

そうなのよ……余談ですが恒松さんといえばこんなことがありまして↓

『恒松正敏 新作展『墨・彩』@ポスターハリスギャラリー』




すごい素敵な方だった〜一生の思い出です
・てかFRICTION、皆さん揃って格好よくてな…舞台挨拶で仲野さんが嫉妬してましたけども(笑)
・その格好よさがあったから、銭湯のシーンがより活きた(笑)

・で、ここ迄くると若葉竜也のモモはもうモモヨなのだという揺るぎない確信が
・同時にモモはモモでしかないという確信も。若葉さんのモモなんだよ
・今作に出てくるバンドで、個人的にいちばん疎かったのがLIZARD。モモヨさんのこともあまり知らないのです。だから若葉さんのモモがどれだけモモヨを投影しているかは判断がつかない
・なのでモモのシーンはドラマとして観ることが出来た。これがまたよかった
・若葉さんのモモは自分の音楽を追求し、「売れる」ことに悩み、環境の変化に戸惑い一度潰れるけれど、「ちゃんとする」ことにして再起を図る。音楽を愛しているからこその「ちゃんとする」だ
・この「ちゃんとする」「ちゃんとしてる」は、「おまえはおまえの踊りを踊れ」と並ぶ今作のキーワードでもあると思う
・若葉さんの揺れ、ホントよかった。若者の悩みだよ……『アイデン&ティティ』の「大人の悩みに子供の涙」だよ(涙)
・普段キメキメなのに、ワンシーンだけオーバーオール着てたとこかわいかったなー。実家ではあの服着てくつろいでるのねって
・アジフライのとこもよかったな。実家! いい!
・そうそう、モモの母ちゃんがまた素敵でさ……神野三鈴最高! かわいい! やさしい! 強い!

・峯田くんが撮る側というのも興味深くて。でも登場人物のなかでちょっと年長さんで「ちゃんとしてる」視点を持っている、というユーイチ役はぴったりだった
・何しろ目がいいもの。対象者を見るあの目。発見と、羨望と、憧れがないまぜになったような目で、ユーイチはバンドを、シーンを記録する
・音は消えてしまう。でも、写真をその場面を残すことが出来る
・といいつつミチロウがやらかして峯田くんが怒られるシーンが二重の意味で以下同文。「ちゃんとしてる」の定義とは自分に正直であることだよね!

・吉岡里帆のチホもよかったーすごい重要人物
・今作、恋愛要素を削ったのもよかったところでした。「バンドとカメラマンと印刷屋の娘がいればレコードがつくれる」。仲間なのよ
・「印刷屋の娘」というけれど、彼女はミニコミを刷るだけでなく、記事の執筆、編集、デザインにレイアウト、そして成果物の発送を一身に担ってた。好きな音楽を知ってほしいという思いに溢れ、それを実行していた。そのうえバンドも始めた。常にパワフルで、前を見続け歩み続けるチホさんの姿を見せてくれて有難うという思いでした
・三人で自主制作したレコードを袋詰めしてるシーンもよくてね……昔KERAさんがテレビのドキュメント番組かなんかで取り上げられて「ヒットスタジオ(だったかな)に出て帰ってきたらこうしてる訳でね……」とナゴムで出したソノシートの袋詰めしてるとこあったんだけど、それを思い出したわ

・山岸門人も印象的な役でよかったなー。「ちゃんとしてる」レコ社のひとで、彼の言葉はひとつひとつがご尤も。あの立場でイヤミにならないところがよかったよ。ああいうひとたちも確かに業界にいたのだ、と感じさせてくれた
・対照的にギョーカイドップリのお調子者ライターを演じたハマケンも面白かった(笑)。今はどうしてるんだろって思うよね。でもああいうひとってなんだかんだで風見鶏だから生き残ってるかもなあ
・そしてマギーがいきなり出てきてビックリした(知らなかったので。マギーも『アイデン&ティティ』に出てたもんね)。ライヴハウスが町内会で認知されてるという風景がまたよくてさ…不良の溜まり場! とかいう偏見なく接してくれてさ……

・で、おーもりさんのS-KENにはやはり笑ってしまった。あれは笑いを禁じ得ない…いや、あれは元の方がああいう、素からしてダンディな方ですのでね……
・スタジオにワイングラスあるんや、と笑ったが、いやS-KENなら用意しててもおかしくない、とかな
・サさんも指摘してたけど、喋るとおーもりさんの声なんだけど振る舞いがな! タバコ吸ったり肩いからせて歩いてる姿とかな! S-KENでした!

『アイデン&ティティ』を愛するキャスト/スタッフが集ったように、いつかきっと『ストリート・キングダム』を観た若者が集う映画がつくられる。「自分の音を鳴らせ。」「おまえはおまえの踊りを踊れ」。DIYの精神は引き継がれていく。そうなってほしい。

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・峯田和伸×若葉竜也×田口トモロヲ×大森南朋がばちかぶり「オンリー・ユー」熱唱!世代を超えてパンクが共鳴した試写会をレポート┃ぴあ音楽
このイヴェントあったの、終わってから知った。「オンリー・ユー」ぎぎだがっだ

・アーカイブ【出演:峯田和伸/若葉竜也】映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』3.16ライブ&トークイベント生配信@豊洲PIT┃SPACE SHOWER TV┃YouTube


アーカイヴ感謝感謝

・映画『ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。』舞台挨拶レポート!仲野太賀のエピソードに峯田和伸、若葉竜也、吉岡里帆がもらい泣きするシーンも┃ぴあ音楽
いい話〜(泣)。これ初回のレポートですね。私は観た舞台挨拶は2回目だったので皆さん憑き物が落ちたようになってて和気藹々、という感じでした。これはこれで楽しかった。こっちで話していないところで面白かったのは、
仲野「(ミチロウのヘアメイクチェックをしてもらったとき)トモロヲさんが『うーん、もっと、三角なんだよね』っていったんです。三角!? って」
田口「三角なんだよね〜」
わかる(笑)
そうそう、若葉さんが「映画館に映画を観に来てくれて有難うございます」っていったの。いつもそういっていたあのひとのことを思い出してしみじみした

・映画『ストリート・キングダム』田口トモロヲ×峯田和伸対談「バズじゃなくてバグを」┃NiEW
田口:性別や職業関係なく、このムーブメントに共感して、自分の引き金を引く。誰も脇役じゃなくて、一人ひとりが自分自身になれる。それがパンク / ニューウェーブのムーブメントだと思うので、そこをきっちり拾い上げることは意識しました。
峯田:バズった方がいいみたいなことになってるじゃないですか。みんなバズらせようとしますけど、僕はバグった方がいいと思います。いかにバグれるか。どんどんシステム化されていく中で、はみ出るものが面白い。
田口:この映画で描いたシーン自体が娯楽じゃないんですよね。お金を払って楽しむんじゃなくて、一緒に考える。「僕らはこう思うんだけど、君らはどうだ?」って。
うう、ううう(頷くばかり)

・S-Kenインタビュー┃Record Shop BASE┃note
思い返えせば東京ロッカーズはニューヨーク時代、セントラルパーク西76丁目のアパートにレックが訪ねてきた時に始まっているんです。(中略)凄い運命だよね、僕の人生のターニングポイント、出会いの瞬間ですよ。
PUNKというのを政治的反逆とか反体制とかそういうイメージだけを増幅して捉える傾向あるよね。それが固定化されたイメージになって、様式化していたら創世記にのめり込んでいったPUNKの美学とはかけ離れものなっちゃうよね。その様式をそのままやるというのもPUNKのココロとは思わない。
ジャンコクトーも言ってる”ユーモアを失わないように戦うんだ”と。ユーモアが無いものにはどこかに嘘があるって思っているんだ。プーチンにしても習近平もトランプにしてもね。
飯嶋俊男さんによるインタヴュー。金言だらけです。S-KENと「東京ロッカーズ」、シーンはこうして始まった

・1978年4月15日 日本のパンクロックが始まった――s-ken┃昭和マイルド
僕の人生であれほどみんなと喧嘩したことも、感動を分かち合ったこともないんですよ。(中略)東京ロッカーズはそれぞれの価値観をぶつけ合いながら火をつけることができた。みんながどう思っているかはわからないけど、それはその後の自信や行動様式にも繋がっていったよね。ささやかながらもシーンを生み出し、そのなかの演者の一人でもいるということ。やれば、少なくとも自分の歩む時空においてはエキサイティングを実現できるんだ、っていう。
内本順一さんによるインタヴュー。金言だらけです(再)



2026年03月21日(土)
『oasis』

『oasis』@サンシャイン劇場

かなり映画に忠実だったけど、あのシーンどうやるんだろうと思っていたシーンが舞台ならではの演出になっててよかったな…ぞうさんのとこね。土岐研一さんの美術がよくて😭それにしてもイ・チャンドン作品は信仰に厳しい。そこが好き 『oasis』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Mar 22, 2026 at 1:18

イ・チャンドン監督作品『oasis』を世界初舞台化。脚本・演出は□字ックの山田佳奈。前科者のジョンドゥに丸山隆平、脳性麻痺障碍者のコンジュに菅原小春。以下映画版が大好きで、「あれを舞台で? どうやるんだろう?」と興味を持ち観に行った者の感想です。

前述したように、映画にかなり忠実。殆どのシーンが再現されていた。入場してまず目に入る光景に感動。ジョンドゥの住処、コンジュの部屋、“あの”木とそのシルエットが舞台に収まっている。コンジュの部屋には“あの”オアシスのタペストリーが客席に面して飾られている。色のトーンもイメージのままだ。美術誰だ! とチェックすると流石の土岐研一だった。数々のシーンが一場で成立するように設られてあり、尚且つ映画版への敬意が感じられる。“あの”木のシルエットは、開演前からずっと微かに揺れていた。木の本体は動いていなかったようにみえたので、照明でシルエットを動かしていたのだろう。コンジュの怖さの象徴として、とても効果的だった。鏡の光が鳥へと姿を変えるところも、最後の部屋を掃除するシーンもちゃんとあった。うれしかった。

そう、そして祝祭感溢れるぞうさんのシーン! ここ、いちばんどうするんだ? と思っていたので……映画ではホンモノのぞうさんが出るから(笑)。舞台版はパレード仕立てになっており、ぞうさんがホンモノでなくても違和感がない。お祭りの山車とかねぷたみたいな感じで。いやー、ここをパレードにしたアイディアはめちゃくちゃよかったな……舞台の大きさに合わせたリボン(©鈴木裕美)だ。実際にはあり得ない、だからこそより切なさが増したシーンだった。

コンジュの名義で借りられている部屋等に視察が入るところなど、再現されない箇所は台詞でさりげなく説明。その塩梅も上手い。反面コンジュの部屋で隣室の夫婦がおっぱじめる場面はしっかり演じられ、お、おう、ここはやるんや……えっこれレーティングどうなってるんだっけ? 大丈夫? と大人は若干面喰らう(今回の舞台版は未就学児童入場不可、映画は15歳未満鑑賞不可)。まあ見えてはいないから……(笑)生々しいシーンだけど、あれはコンジュがセックスは怖いものではないのだと知る重要なシーン。あの夫婦、楽しそうだったもんね。カットされなくてよかった。

ジョンドゥが出所してからの移動や、ジョンドゥがコンジュを連れて街に出るシーンは舞台ならではの小道具の見立てでスピーディーに展開。丸山さんと菅原さん以外の出演者は複数の役を演じ、ふたりに“社会”を見せつける。ひとつだけ気になったのは、何故駅構内のアナウンスが韓国語だったのだろうということ。台詞は全編日本語で、地名や人名、固有名詞は韓国のものだったので、翻訳物として自然と受け入れて観ていたところ我に返った。ジョンドゥに疎外感を与える狙いの演出だったのだろうか。

コンジュの身体が自由に動きだすシーンは鮮烈だった。菅原さんがコンジュというキャスティングからして身体表現に期待する訳で、実際それは素晴らしいものだった。ふわりと椅子から離れた瞬間、「来た!」と目を瞠る。ペットボトルでジョンドゥを叩くコミカルなシーンで笑いが起こる。ジョンドゥの腕の中で、身体が柔らかな線を描き起き上がる。介助がハグになる。するりと車椅子に戻った瞬間、身体に重力が戻る。シームレスな回転と上下動で、想像と現実を切り替える。菅原さんと、彼女の動きをサポートする丸山さんのリレーションシップあってこその美しいシーンになっていた。

しかし何より今回の菅原さんに魅了されたのは、その声。胸にズドンと刺さったのは歌だった。ジョンドゥへと唄うあのシーンに息を呑み、そして涙した。少しハスキーな声で口げんかをしたり、拗ねたりするコンジュのかわいらしさも素敵だった。

で、丸山さんですよ。はぁ〜めちゃめちゃジョンドゥだったよ〜あれすごい難しい役ですよね…ずっとヘラヘラしてるって体力いるし、それにも増して気力がいるよ……。犯罪履歴があれだし(交通事故は違うけどな!)、特に女性からは共感を得にくい役どころ。そこに「なんかある」、コンジュと出会って「何か変わった」、という気配を感じさせなければならず、「それでも自分を変えられない」、というところ迄見せなければならない。人間は多面的なもので、どんなに暖かで優しい一面を持っていても、他の一面があることで社会からは疎外されてしまう。丸山さんはそれを伝えてくれた。

観に行く一因になっていた出演者、水橋研二はコンジュの兄役。実は「主演のふたり以外はヤなやつばっかじゃん! 水橋さんどの役でもきっとヤなやつじゃん!」と思ってました(…)。コンジュの兄は妹を利用して住居を手に入れ、挙句示談金も手に入れようとしている。反面、彼女への接し方には優しい兄の一面も感じられた。今作に出てくる人物って揃ってこすいひとばっかなんだけど、皆さんそんな中にもうしろめたさがあるんだなというのが滲み出ててよかったです。自分もこちら側の人間だろう? と突きつけられるようでもあった。ニンゲンって、社会ってほんとに悩ましい。あと映画ではリュ・スンワンが演じていた弟役の方が印象的でした。

音楽はオレノグラフィティ。クライマックスのそれはDavid Bowieの「Modern Love」…オマージュにしてもあまりにも……まあこれはご愛嬌。レオス・カラックスの「汚れた血」に代表されるように、疾走する愛にピッタリの曲調でした。開演前から流れていたアンビエント調の曲もすごくよかったな。オレノくんでこういうの聴いたの初めてだったので新鮮でした。

なかなか映画の舞台化って身構えてしまうのですが、『oasis』という作品に惚れ込んだ山田さんの熱意と、映画や小説等、原作ものを数多く手掛けているNAPPOS PRODUCEの蓄積が結晶になったような好作品でした。観られてよかったです!



2026年03月11日(水)
『しあわせな選択』

『しあわせな選択』@kino cinema 新宿 シアター 1

なんて話だよ…こんな気が沈むコメディあるかよ……(面白かったの意)そんで映像がもういちいち美しすぎる。なんだあの冒頭の空の色。あと音楽最高 『しあわせな選択』

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Mar 12, 2026 at 1:18

ほんとこの監督、奇妙。いつもなんだ? 何を見せられている? と動揺しつつ目が離せず最後迄観てしまう。観終わっても、なんだったんだ……と混乱しつつ、でもあたたかい余韻が胸に残ったままふわふわ家路に就く。『JSA』が異色というかいちばん“普通”らしいのだが、未見のままなんですよね……やっぱ初見はスクリーンで観たいのでなあ。

原題『어쩔수가없다(仕方がない)』、英題『No Other Choice』。2025年、パク・チャヌク監督作品。原題は台詞で何度か語られますし、英題はリストラに来た外資の連中の台詞ですね。ここに「しあわせ」を入れてくるかと邦題のセンスにある意味唸りました。25年勤めた製紙会社をリストラにより解雇され、再就職もうまくいかない。よし、ライバルを減らしていこう! 主人公は自分と同じポジションの就職を目指している人物をひとりひとり消していくことに……。

手札の出し順が巧い。娘の挙動、何故コーラを飲むのか、温室。さりげなく「?」を示し、その後「!」を出してくる。盆栽の針金かけの技術があんなところで活きるとは……って感心している場合じゃない、その技術何に使ってんだよ! てかそこ迄の技術持ってるんなら製紙業界の再就職に固執することもないじゃないかよ! ガーデニングの講師とかじゃダメなのかヨ! と茶化したくもなるが、それらは笑いを通り越して哀切にすら映る。必死はいつも喜劇になりますね。それは妻にカフェ開業を勧められているのに「俺には紙しかない」と呑んだくれている主人公のライバルも同じこと。あれ程オーディオに凝る音楽好きなのに……彼は主人公の鏡のようでもある。ふたりともリストラされる前から断酒が必要だったくらいなのに、環境を変えられない。

そんな悲喜劇を彩る映像と音楽。鮮やかな光と色彩はチャヌク作品の真骨頂ですが、自然の美しさをああも際立たせられるとどんなに笑えるシーンでも涙が出てしまう。冒頭のバーベキューの背景にある空の色からして凄まじいものだったし(幸せな家族の風景が空の色ひとつで不穏を孕む)、そんでなんだよあの林の、紅葉の色! 覗き見してるとこなのに! 蛇と取っ組み合いしてるのに! 主人公の妻のニットとブラの線、浮き出る乳首の陰影も笑いを通り越して瞠目しましたよね。神は細部に宿る。チョー・ヨンピルの歌のとこもリスニング出来るひとはかなり笑えたんじゃないかと思います(字幕は出てたけど、あのシーン映像ともに情報量が多すぎて追いきれなかったよ・笑)。

登場人物の表情の捉え方も、必死な形相(にならない)の瞬間やちょっとした視線の動きを観客が見逃さないよう誘導している。こちらも神は細部に以下同文。演者も巧い。いや、そこで惚れなおすんかい、そこで信頼を築くんかい、と笑い乍らも気持ちはどんどん沈む。ニンゲンって本当に単純で複雑。家族のハグはまるでスクラムのよう。いや、あれはモールではないか。何故かラグビーを連想する。

何故そっちへ行く? という方向へとどんどん舵を切る主人公とその家族。それは家族の絆とか生活を守るためとか、そんな単純なものでは括れない覚悟がある。彼らは家族を共同体と決めている。血縁は関係ないということも示されている。おおきくて賢い犬は眩いばかりの幸福の象徴。2匹ともいい仕事してた! てかあの犬の様子も、家族が慈しみ育てたのだなあとわかるひとつの要素になっている。いい家族なんだよね。その家族は大きな罪を負った。妻が、息子が、揃って家長と運命を共にしようとしていくなか、娘だけがまっすぐな瞳でチェロを弾く。犬が娘のチェロを静かに聴いている、なんて美しくも哀しいシーンだったことか。彼らはまた離れ離れになってしまうのだろうか、それとも。

イ・ビョンホンとソン・イェジン、イ・ソンミンとヨム・ヘランが演じた二組の夫婦。前者は表情で、後者は台詞のやりとりで関係性を見事に表現していた。てかビョンホンさんは表情が読めない表情するのほんと巧いな……。イェジンさんも「裕福で堅実な男性と再婚したシングルマザー」といったステレオタイプに収まらない複雑な人物造形が素晴らしかった。打算が見えない、愛溢れる妻だった。だからこそ事態はややこしくなり、物語に余韻が残るのだった。

それにしても。チャ・スンウォンは殺さなくてもよかったのではなんて思った…再就職してたしいいやつだったじゃん……。あ、でもやっぱり紙業界に戻りたくて応募してたのか。あの靴屋のシーン、短いけどすんばらしかった! 紙への愛が溢れたふたりのやりとり。やがて失われてしまうであろう職業への未練と執着。せつない。

原作はドナルド・E・ウェストレイクの『斧(THE AX)』。『お嬢さん』がああだったし、今回もかなりアレンジしたんだろうな……こうなるともうチャヌクには絶対『虐殺器官』の映画化実現してほしい。ずっと待ってますよ。

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・輝国山人の韓国映画 しあわせな選択
詳細クレジット、いつもお世話になっております!

・伊藤計劃「虐殺器官」実写映画化、今も企画中 パク・チャヌク監督認める「概要は執筆済み」┃シネマトゥデイ

・パク・チャヌク「しあわせな選択」と映画の未来語る「絶対にAIは俳優に勝てない」┃映画ナタリー
マンスは道徳性が堕落してしまっていて、父親から息子にそれが受け継がれてしまう。(中略)結果的に彼の行動によって家族が変わっていくのです

・イ・ビョンホン「あまりにも自分のアイデアが採用されて怖くなりました」。パク・チャヌク監督新作の現場を振り返る┃ananweb
あのシーンでは転ぶことに現実味があるかなと思って転んだんですけど、実際に、あの現場でそうやって転んだ人がいたんだということを後で聞きまして
今作で滑ったシーンはト書き、『KCIA 南山の部長たち』で滑ったのは現場でのアイディアだったとのこと。どちらも演技だった訳ですが、それはそれでビックリする。滑り方巧すぎる(笑)



2026年03月01日(日)
『ロビー! 4000億円を懸けた仁義なき18ホール』

『ロビー! 4000億円を懸けた仁義なき18ホール』@シネマート新宿 スクリーン1

『ロビー!』観た〜軽妙なのに骨太、辛辣コメディ、『1987』のキムギョンチャンとハジョンウの共同脚本だったんですね。『1987』ではハジョンウ演じる検事の「俺の大本営発表だ」が名台詞すぎて未だに忘れられないのだが今回もシビれる台詞があった そしてエラい豪華キャスト。監督の人望✨

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— kai (@flower-lens.bsky.social) Mar 1, 2026 at 19:24

『1987、ある闘いの真実』の「俺の大本営発表」、日本ならではの皮肉の効いた字幕で感心したんだけど、原語ではどういったのか今でも気になってる。

原題『로비(ロビー)』、英題『Robby』。2025年、ハ・ジョンウ監督作品。ハジョッシの監督作は3作目なんですが、観るのは初めてです。優れた研究に根差した質の高い技術を持っているのに、どうにも交渉下手。借金もかさんでいよいよやばい。ハジョッシ演じる中小テック企業の社長が、巨額の国策事業に参入すべく接待ゴルフに挑みます。ゴルフやったことないのに。

登場人物とそのキャラクター紹介がテンポよく描かれ、接待ゴルフのノウハウが説明され、あっという間にゴルフ場。登場人物めちゃ多いから集中して見ないと混乱するんですが、その辺の交通整理が巧い。『1987』も群像劇でしたが展開しっかり追えましたもんね。ゴルフにおけるルールやマナーを叩き込まれる社長の数日間も、コメディならではのスピーディーな流れでクスクスしつつ楽しめます。勿論付け焼き刃の知識なんで、いざコースに出てみれば何でもかんでもナイスオーン! ていっちゃうとかのやらかしもあり、それがまたいちいち面白い。

ライバル会社社長を演じるパク・ビョンウンのダメな英語とか(素人耳にも「それビジネスで使ったらアカンやろ」と判る喋り方)、接待ターゲットを演じるキム・ウィソンのジンプロ(接待に呼ばれたプロゴルファー)ヲタぶりとか、皆さん小技が効いてておかしいおかしい。社長の従弟役のオム・ハヌルもいい仕事してたなー。何あれ! めちゃデキるやつ! そして汚職長官を演じたカン・マルグムもいい仕事!(『チャンシルさんには福が多いね』)のチャンシルさんとはガラリと違うはすっぱっぷり、素晴らしかったです!個人的にはお調子者の記者役イ・ドンフィがお気に入り。なんでジンプロと一緒に吐いたのだけがわからないけどな。「そこで!?」ていう。なんだったんだあれ……もらいゲロしちゃうタイプだったんですかね(笑)。

そういう「なんだったんだあのシーン」がまあまあ多く、ちょっと冗長かなーと思ったところもあったのですが、その辺は集った役者皆に見せ場をつくりたい監督のやさしさかもしれません。楽しめる範囲ではあった。SUPER JUNIORのチェ・シウォン演じる魔性の国民的俳優とか、あまりのムンムンぶりにウケたウケた。

とはいうものの、社会情勢をチクリと刺す針は鋭い。正直者が馬鹿を見る世の中であってたまるかという気概も。そう、真っ当なんですよね。利益のために何かを犠牲にしていないか? と気付く、おかしいよな、これ? と思ったら流されずちゃんと立ち止まる、間違いがあったらちゃんと謝る。ひととして! だいじ!!! 会社の部下たちと社長の関係性もよかった。皆がいいものをつくろうとしている。いい会社に、いい社会にしようとしている。それが感じられる映画でした。むちゃくちゃな世界情勢を前に、厭世観が募る一方の今観ると尚更沁みました。

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・ロビー! 4000億円を懸けた仁義なき18ホール┃輝国山人の韓国映画
いつもお世話になっております。パンフ販売なかったので助かる! といえば、今回パンフを作らなかったからかフライヤーに『韓国映画から見る、激動の韓国近現代史 歴史のダイナミズム、その光と影』の著者・崔盛旭さんのしっかりしたコラムが載っていてよかった。接待ゴルフとは〜!

・といえば、『大統領暗殺裁判』で全斗煥がゴルフしてたわね……

・笠松将が観た、ハ・ジョンウ監督&主演作「ロビー! 4000億円を懸けた仁義なき18ホール」 韓国俳優たちの本気に笑いが宿る、てんやわんやな“接待コメディ”┃映画ナタリー
俳優ってすごく変な職業なんですよ。(中略)かっこよくなることが作品の邪魔になると判断すれば、自分がどう見えるかを捨てて、役に全力で集中できる人もいるんです。ただ、そんな俳優は世界的に見ても多いわけではないと思っています。ハ・ジョンウさんは、そうやって役に全力でフォーカスできる人であり、そこにただ存在しながら、ただ強烈なインパクトを残せる人。
笠松さん、『グッドニュース』『模範タクシー3』出演であちらでもめちゃめちゃ話題になってるんですよね。韓国語ペラペラで、授賞式やバラエテイに出ても殆ど通訳なしで対応出来てる。言語対応に身体づくりと、しっかり準備して作品に臨んでいる。「評価っていうのは花びらですからいずれ散って枯れていくものです。」も名言。是非ハ・ジョンウともカン・ドンウォンとも共演してほしいな