2003年07月22日(火) |
月曜日は病院、火曜から金曜は仕事、土曜日は娘を実家につれていき私は買い出し、日曜日は洗濯に掃除に娘の相手。当たり前のことなのだろうが、毎日はそうして瞬く間に過ぎてゆく。いつのまにか私の神経は磨り減って、触ると指先にあっちこっちささくれが引っ掛かるというような具合。でも、それに気づいたからとて、癒す間もなく、日々は過ぎる。
病で立ち枯れたと思っていたあの大樹には、今も、人が傷口に包帯を巻くように、薄茶色の幅広い布が巻かれている。全身に。これからこの大樹はどうなってしまうのだろう、と、その姿を見上げるたび思っていた。いつか切り倒されてしまうかもしれない、それだけはあってほしくない、なんて、身勝手なことを願っていたりもした。 それが、つい先日、あの大樹の傍らを娘と二人手をつないで通り過ぎようとした時。 布と布の僅かな割れ目から、萌黄色の葉がくいっと顔を出しているのを見つけた。ねぇ、ほら、あそこから葉っぱが出てるよ、思わず私は声に出していた。立ち止まって、じっと見つめる。夢じゃない、幻でもない、確かにそこから葉が萌え出ているのだ、しかも何枚も。 気づいたら、ほろほろと涙が零れていた。 ママ、泣いてるの? 悲しいの? ううん、泣いてるけど悲しいんじゃないの。 ふうん? 嬉しいの、とっても。 全身に茂らせていた葉の全てがからからに乾き、幹もぼろぼろになったあの大樹は、全身を布で巻かれ、それと同時に大枝は全て切り落とされた。私は病を煩った樹にどんな手当てが施されたのか全く知らないし、分からないけれども。そうしてどのくらい時間が経ったろう。そう長い時間じゃなかったはずだ。 その樹が。今、再生しようとしている。 なんて力なんだろう。なんて力を持っているのだろう。泣きやもうとしてもどうしても涙が止まらなかった。私はしばらく、娘の手を握りながら、その場に立ち尽くし、そして泣いた。 そうだ。そうだった。人も樹も、みんな、こうした力を持っているのだ。その存在の奥底に。どんなに弱々しく儚げに見える存在であっても。もちろん誰かしらの手助けがあって布が巻かれたわけだけれども、それでも最後芽吹くのは、己の力だったはず。
短い間にいろいろあり過ぎた。この数ヶ月間、怒涛のような毎日だった。娘と二人で生きていくことを決め、それにまつわっていろんなことを自分の意志で選択し、実行し、あちこちを走りまわり、いくつもの書類にサインし、そして片付けてきた。その間、様々な思いが交錯し、耳を覆いたくなることもあった。失うものの大きさにばかり慄き、眠れない夜もあった。胃がひっくり返るほど嘔吐し、便器によりかかって放心することもしばしばだった。それでも。 私は後悔していない。
ママねぇ、あの大きな樹が大好きなの。 ふぅん。あの木は病気なのよね。 そうね、でももう大丈夫だよ、きっと。 ふぅん。よかったね。
そうだ。どんなになったって、生きていけるものだ。もうだめだと思うことが何度あったって。これまでもそうだったようにこれからだってきっと。 生きようとする力は、どんなになっても私の奥底にちゃんと、在る。 |
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