見つめる日々

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2005年06月22日(水) 
 明け方まで眠れず、部屋の中でうろうろしていた。そして気がつけばもう昼時。時間の過ぎ方が曖昧で、あっちにいったりこっちにいったりしているようで、私はなんだかふわふわと宙を歩いているような気分に陥る。
 激しく樹々に葉々に降りつけるかと思うと、ぴたっと止んでみたり。今日の雨はまさに気分次第といった具合。窓を全開にしていつものようにいつもの席に座って仕事をしてみる。私の首筋や肩あたりを撫でて過ぎる風に、私は少しほっとする。
 再会と別離。それらがいっぺんに堕ちてくる。親しい友人の突然の海外転勤、一方では電車の中で二十年ぶりの再会を果たす友人。中学の頃、よく一緒に学校に通ったものだった。何時何分のバスに乗るんだよ、と約束をし、ぎゅうぎゅうづめになるバスの中、体を寄せ合って何とか凌いだ。あの頃は毎日が繰り返しだなんて思ったことはなかった。いつだって新しい発見があった年頃だった。喧嘩をしたりかと思えば毎日のように一緒にいたり。そして、同じように先日二十年ぶりに再会した友人が、近々海外に転勤になると。ようやく再会し、毎週のように会っていたその友人がいなくなる。考えただけで肩ががっくり落ちてしまう。だからむしろ、考えたくない。だから私はまた窓の外を見やる。プラタナスの樹の葉が、強い風に煽られ、ひっくり返ったりもぎ取られそうになったりしている様子を、ただじっと、見つめる。
 そしてふと、私は反対側を向く。壁に貼り付けた幾枚もの写真。ほとんどが娘のもの。まだ赤ん坊だったころの彼女の足の写真、歩行器に入ってにかっと笑っている写真、友達が撮ってくれた、わたしと娘が一緒に写っている唯一の写真…。そうだ、私はおたおたなんかしていられないんだ。娘を早くここにつれて帰ってこれるように、そのための努力を怠ってはならない。ぐるぐると渦を巻く薄黒い気持ちを、ぶるんぶるんと首を振ってちりぢりにさせる。こんなことで落ち込んでいる暇はない、私は早く元気になるんだ。
 私の左腕には今、友人がくれた緑色の腕輪がはまっている。左腕を切りそうになったらこの腕輪を見て私を思い出せ!と、心友が先日プレゼントしてくれた。手作りのそのブレスレットは、確かに効力を著し、私はここ数日、リストカットをせずに一日を乗り越えている。
 ただそれだけのことなのだけれども、きっとそれは、一歩一歩、ゆっくりでも前に進んでいる証なのだと私は信じたい。いや、信じる。そして早く、この一歩一歩をスキップするように歩いていけたらいいと、自分に言い聞かす。
 サンダーソニアはこの雨の中、可憐な橙色の花でもって辺りを照らしている。突然思う、この花のようになれたら。
 私にとって大切な誰かが夜道に迷ったら、ぽっと点る明かりになって、その足元を照らしたい。誰かが明かりをつけるのも苦しいほど泣いている夜には、彼女の枕元でぽっと点る明かりになりたい。別に誰に何を頼まれたわけではなく、ただそこにそっと添えられる、そんな存在に。
 まだまだだ。まだまだそんな域に達することはできていない。じゃぁ私に何ができるのか。まずはこの毎日をひとつひとつ越えてゆくこと。そしてうつむいたままになっている顔を上げて歩けるようになること、そしてその手で幼い娘の手を握り締めて歩くことができるようになること、そして・・・
 課題は山積みだ。落ち込んでいる暇なんかこれっぽっちもない。
 そして今一瞬、突然に風が止む。多分きっと誰かがどこかで、小さく縮こまって声もなく泣いている。その彼女へ、心の中で呼びかける。ファイトッ! 踏ん張れ!
 私も、踏ん張る。


遠藤みちる HOMEMAIL

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