アルの日記
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2001年11月12日(月) 友人T

今日、家の電話の留守電に変な声が入っていた。
何か、助けを求めているようなうめき声が一分くらい続いているのだ。
日本語なのかどうかもわからない。
完全に舌が回っていないし一つの単語も聞き取れない。
まったく何を言っているのかわからないのだ。

十五秒くらい聞いたときにふと衝撃が走った。
「もしかしてTか・・・?」
一瞬聞こえた独特で微妙な息使いがTの顔を思い起こさせた。

Tとはしばらく会っていなかったが共通の知り合い(Tの親戚)から
原因不明でほとんど植物状態で入院していると聞いていた。
植物状態といっても脳死というわけではなく、ただ寝たきりでまったく動かないので点滴で栄養を送っているということだった。
言葉もほとんど発することがなく、ごくたまに一言二言意味のわからないことを言ったりするらしい。
その共通の知り合いが一度、御見舞いに行った時は一瞬Tの口元に笑みが浮かんだらしいがそれ以外は言葉も発することなくピクリとも動かなかったらしい。

「とうとうそこまで行ってしまったのか・・・」
かなりショックだったがそれが俺の正直な感想だった。
Tとは幼なじみで家も近かったのでちょくちょく彼の家に遊びに行っていた。
精神分裂病という診断を受けて初めて入院してから入退院を4、5回繰り返していたのだった。
初回以降は分裂病という診断ではなかったらしいが退院してきてもすぐに調子が悪くなってしまって息使いも常に荒く「薬が合わない、薬が合わない・・・」、それがTの口癖だった。

Tの部屋に入るとTはよくごみ箱を抱えていてそこに吐いていた。
吐き終わるとすぐにテーブルの上に置いてある飲みかけのビールをゴクゴク飲み、またすぐにごみ箱に吐く。
それをずっと繰り返していた。
入院前の2、3ヶ月は酒はやめれていたみたいだが、ひどいときは朝5時に起きた瞬間に酒を買いに行って飲んでいたらしい。

俺にはどうすることもできなかったがせめて話をして少しでもよくなってくれたらと思い、ちょくちょく遊びに行っていたのだ。
っていうかまあ自分も友人が少なく寂しかったので話相手が必要だったのだ。
調子の良いときはそうでもないが、調子の悪いときは話しかけても「あ〜」とか「う〜」というような返答しか帰ってこないし、正直に言って俺自身も精神に問題を抱えていたため何度も引き込まれそうになっていたのでたまに怖くなった。

「君といると不快だ。もう来ないでくれ」
っていうメールを突然Tが送ってきたのでびっくりしたが頭に来てそれ以降絶縁状態だった。
俺の態度や発言がTに不快を与えていたのか・・・確かに幼なじみで腐れ縁ということもあり、Tのためになるかもしれないと思いながら少々きついことも言ってしまっていたかもしれない。
そしてしばらくしてから共通の友人にTが植物状態だということを聞いたのだ。

今日留守電に入っていた声がTのものであるということがまだ確実にはわからないが、もしそうだとすると、植物状態からは抜け出すことができたのだろう。
あの「何か助けを求めているような」うめき声から判断すると俺に対してかなりの罪悪感を感じているのかもしれない。
御見舞いに行こうかと思うがまた同じ事の繰り返しにならなければ良いのだが・・・。
でも、ある意味行くところまで行ってしまったような気がするので後は上昇してくれるのを祈るのみ。
もっと行くとすれば死しかないのだから・・・。










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