愛より淡く
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テレビから、は〜は♪は、来ました〜♪今日も〜来たぁぁぁ♪この岸壁に今日も来た〜♪という哀愁を帯びたメロディが聞こえてきた。 これはもしやあの昭和の名曲「岸壁の母」ではないのか?とテレビに注目してしまった。「知ってるつもり」だった。
戦争でシベリアに抑留された日本人捕虜が、願いむなしく、とうとう家族との再会を果たせぬまま、はるかかなたシベリアの収容所で病に倒れ、その短い生涯を閉じる、というあまりに哀しいドキュメントだった。
日本への帰還が絶望的になってしまった彼は、仲間たちにすすめられて家族へ宛てて遺書を書く。彼はベッドの上で最後の気力をふりしぼって必死に遺書をしたためるのだった。それは実に大学ノート15ページにも渡った。
彼の死後、その遺書を読んだ仲間たちは、その遺書に激しく心を動かされた。それでなんとかしてこの遺書を彼の家族のもとに届けてやりたいと思う。しかし もしその遺書が見つかりでもしたら、スパイとみなされ再び捕らえられ自分たちの帰還もままならなくなってしまうかもしれないという厳しい状況だった。
そこで彼らは、みんなで分担して彼の遺書を暗記したのだ。みんなはそれぞれ自分の担当のところの彼の遺書を一字一句間違えぬよう必死で覚えこんだ。
そして無事に日本へ帰還した後、仲間たちは、彼の妻の家にそれぞれ訪れ、妻の前で、彼の託した遺書を暗唱して聞かせた。
その遺書は
「実によき妻を持ったということを 心から感謝する
さようなら」
で終わっていた。ひとりで見ていたということもあって、嗚咽が止まらなかった。
しばらく現実に戻れなくなってしまった。
余韻さめやらぬ時に、夫が帰ってきたものだから、テレビを見る前にいろいろ考えていたことなどふっとんでしまい、その番組について熱く語ってしまったのだ。
話を聞いた夫も 「オレもそれ知ってる。観たことあるぞ。映画かなにかでやってたんじゃないか」とすぐに反応したので、その話でしばらく大いに盛りあがってしまったのだ。
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