愛より淡く
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2003年05月24日(土) 傷跡

その、世にも美味なる水の場所に、その人の社用車に同乗して向かう途中。

助手席にいた私は、その人が運転している間、その人の首筋にある魅力的な傷跡ばかり見ていた。首を少し動かした拍子にYシャツからちらっとだけ見えた。それがまたなんとも艶めかしくて、ぞくぞくっとした気持ちにさせられた。

できれば指で傷跡をなぞってみたい。でもできない。いきなりそんなことされたら、きっとびっくりするだろうなあ。

思い切ってなぞったとする。

びくっとしてその人がこちらを振り向く

「ごめんなさい。つい」

と、とまどいうつむく私。


そのことがきっかけで二人は一気に恋の炎を燃え上がらせる。


なあんて展開はやはりありえなかっただろうか?




だろうね・・・・




その水はほんとうにおいしかった。ひんやりしていて、その昔祖母の家にあった井戸水を飲んだ時のことを思い出した。


ごくごくささやかだけど、二人の秘密の場所が出来たような気がした。


だけどその秘密の場所に二人して行くことは二度となかった。

それからその人とは、ある出来事をきっかけに、気まずくなってしまった。



それでも何度か私はひとりで、その場所に行ってみようと車を走らせたことがある。

なんだか無性にその水に触れたくなったのだ。

でも一度行ったきりだったし、しかも助手席でぼーっとその人の傷跡ばかり見ていた私は、ほとんど途中の景色を覚えていなくて、その場所にたどりつくことができなかった。


いつも途中で道に迷ってしまった。





で、結局最後まで言い出せずじまいだった。


「あの水の場所に何度か行ってみてんけど見つからんかった」

ただそれだけのことだけど言い出せずじまいだった。


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テキスト庵さん