こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2005年02月22日(火) 三題話『ORANGE』(邦題【雪/ユキ】)第1話 夏ノ日

雪ガ降ッテイタ


夏ヲ思ワセルヨウナ青イ空カラ雪ガ降ッテイタ


太陽ノ光ガ反射シ、
希望ガ持テソウナ光ヲ放チナガラ雪ガ降ッテイタ


ソノ雪ニモ
微々タル重力ガカカリ
地球ノ表面ヲ覆ウ街並ミニ引キ寄セラレテイク


引キ寄セラレタ雪ハ
ビルノ最上階カラ1階マデノ窓ヲ伺イナガラ
アスファルトニタドリツキ着キ
雪トイウ称号ヲ奪ワレル



三題話『ORANGE』(邦題【雪/ユキ】)



第1話 夏ノ日


『別に一攫千金狙って欲しいわけじゃないんですよ。
 年金の支給は60から65歳になり、
 30年勤めた会社は退職金を減額、
 ペイオフは解禁、
 いまの日本経済で、老後を国に任せるなんて
 自殺行為でしかありません。
 
 ポートフォリオとは、
 利率の高いもの低いもの、
 様々な金融商品を組み合わせ、
 効率良く運用し、ご資産を増やす方法です。
 
 その利率の高い商品として
 私がご紹介しているこの商品先物を、
 お客様のポートフォリオに
 加えていただきたいのです。
 
 もちろんリスクはございます。
 先物に対する不信感もあるでしょう。
 だからこそここ一番の絶好のタイミングを
 逃して欲しくないんです。

 お客様のご資産の一部、
 ほんの一部だけでいいんです。 
 うちの会社に、
 っていうより私にお任せしていただけませんか?
 私に任せていただければ
 来年のお孫さんへのお年玉、かなり期待持てますよ。

 お孫さんの笑顔、見たくはありませんか?』


目の前の老人は、契約書にハンコを押した。

ファンドの買い情報もあるし、
これ以上の底値は考えられない。

市場に【絶対】はなくても、
あと2ヶ月もすれば
この老人は俺に感謝するだろう。

まあ仮に値段が下がって老人が大損しても
俺には関係ないこと。

あくまでリピーターを増やすために
良い条件のものを紹介しているが、
結果的に一回きりならまた別のカモを探せばいい。

売買手数料さえ入れば、
うちの会社は文句言わない。

契約して俺の成績がまた上がれば、
その後のことなんてどうだっていい。


今月の成績はまた俺がトップだ。
ほかの奴らが能ナシってこともあるが、
この調子なら来年の課長のポストは確実。
20代後半での課長は最短記録だ。


まあでも、
こんなもんで満足するような俺じゃない。
【課長】なんてこれから昇る長い階段の一段に過ぎない。

野心家と思われようが、
俺はトップを狙う。


取締役?
【会社】なんて小さいカテゴリーじゃない。

業界のトップ?
先物業界なんて将来が目に見えてる。


俺が狙うのは、【現代の神が座る椅子】。
【金融業界】だ。


数々の人間の血で汚れきった【金融】。

ただし、この真っ赤に汚れた【金融】が、
日本を、そして世界を動かしている。

【金融】でトップに君臨するということは、
つまりは世界を牛耳るということ。


どんな手を使っても、
俺は神の椅子に座ってみせる・・・。



老人が契約したのは、暑い夏の日だった。

今年は特に暑い。

無秩序に建てられたビル群は、
海からの風を妨げ、
気が狂うほどの暑さを供する。


世界を動かす一握りの人間は、
きっとこの暑さで頭がおかしくなったのであろう。

いまの私のように・・・。


管理人:吉田むらさき

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