こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2005年02月25日(金) 三題話『ORANGE』第2話 ORANGE

第2話 ORENGE

『究極・・・ですか?』
3年前、俺が旅先で出会った老人は、語り始めた。



そう。
わしらの部族で【オレンジ】とは、
【究極】を意味する。

その昔、
人々は最強の戦士を目指し
自らの肉体を鍛え抜き、互いに力を競い合った。

強靱な肉体と不屈な精神を兼ね備えた戦士たちは、
死をも恐れず、ただひたすらに目の前の相手と戦った。

勝者とは目の前の相手より強く、
敗者とは目の前の相手より弱いということ。

ただそれだけのこと。
それだけのことを、ただひたすら繰り返した。


褒美があるわけでもない。
地位と名誉が与えられるわけでもない。

それでも人々は競い合った。

自分の力を証明するため、
自分の力を誇示するため、
【最強】という称号を得るために。


戦いによって負けた者の多くは命を失い、
たくさんの尊い命が犠牲となった。

そしてついに、一人の若者が勝ち残った。
長きに渡り続いた戦いは、終わりを告げた。


誰もが認める【最強の戦士】。
その強さに人々はひれ伏した。

これでもう、誰一人として命を失うことがないと
そう思われた。

しかし、本当の戦いはこれからだった。

あそこに大きな山が見えるだろ?
ある日、若者は突然あの山に登り始めた。

頂上に登り詰め、
拳をかかげ、咆哮することで、
天に自らの強さを見せつけるためだった。

めったに人が入らない山、
若者は道なき道を突き進み、ひたすら頂上を目指した。


そしてついに頂上へたどり着き、
若者がその強靱な肉体から伸びる腕を天にかざしたとき、
突然若者の前に【何か】が立ちふさがった。

全身が【オレンジ色の何か】が。

若者は戦いに挑んだ。

しかし、岩をも砕く拳でさえも、
多くの強者の返り血を浴びた剣でさえも、
その【オレンジ色の何か】には、
全く歯が立たなかったという。

結局、若者はその【何か】を倒すことが出来ず、
自らが最強ではないことに絶望し、
泣き崩れたという・・・。



老人は山の頂上を見つめ、
カップに注がれた茶を飲み干した。

『若者が最後に挑んだ相手は、人間ですか?
 それとも神・・・?』

老人はうつむき、答えた。


さて、どうじゃろう。
わしにはわからん。

神だったのか、あるいはもののけの類。

いずれせよ、
頂点になりたいという思想は
人間しか持ち合わせていない。

【一番になりたい】という野心は
【自分がいまだ一番ではない】と認めていること。

その時点で、
若者が負けることは決まっていたのだろう。


それ以来、わしらの部族で
【オレンジ】とは【究極】を意味する。

決してたどり着けない【境地】と言ったところかのう。



老人は遠くの空を見つめた。
若者が登った山より、ずっと遠くの空を。


管理人:吉田むらさき

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