こしおれ文々(吉田ぶんしょう)
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2005年07月11日(月) |
虚構【燃やしたいゴミ】ケース1 亡骸(ナキガラ) |
深刻な環境問題。
文明の発達は、 人々に便利さ、豊かさ、快適性、 そして大量のゴミをもたらした。
いれものに注がれた水が 一定の容量を超えると溢れ出すかのように
日本に積み重ねられた廃棄物は いままさに表面張力の限界を超えかけている。
こうした現状を是正すべく、 都内某区にて新たなゴミの分別規定が設けられた。
可燃性、非可燃性、リサイクル品等・・・ 一般的な分類のほかに設けられた新しい区分。
【望燃性廃棄物】、 つまり【燃やしたいゴミ】である・・・。
吉田虚構【燃やしたいゴミ】 ケース1 亡骸(ナキガラ)
ある日、望燃性廃棄物処分センターに 小さな段ボールを抱えた親子がやってきた。
母親らしき女性は 左腕にバックを通し、 左手と胸でうまく支えながら段ボールを抱え、 右手で6歳ぐらいの男の子の手を引いている。
記名台で氏名、住所、年齢、電話番号など 必要事項を申請用紙に記入したあと、 受付に座っている女性に手渡した。
『ペットに子犬を飼っていたんだけど この前死んじゃって、 息子があんまり悲しむもんだから この犬の死体と、 息子が子犬を可愛がっていた記憶、廃棄したいんですけど。』
と言い、段ボールを受付の女性に差し出した。
すると受付の女性は言った。
『動物の死体は可燃性ですので、 焼却処分に3000円いただきます。 また、お子さんの記憶は 非物体扱いとなりますので、 焼却費はかかりませんが、 記憶消去の証明書を発行致します。 発行料金は通常2000円ですが、 記憶の場合、国の補助が適応されますので、 半額となります。 焼却費と証明書代あわせて4000円になりますね。』
4000円を支払い、 証明書を受け取ると母親は言った。
『証明書があると息子がまた思い出しちゃうから この証明書も廃棄してもらっていいかしら?』
すると受付の女性は言った。
『記憶の復元を防止するための廃棄は 望燃性扱いとなりますので、 別途1000円いただくことになりますが よろしいですか?』
『まあ、仕方ないわね』
そう言うと母親は、 財布から1000円を取り出し、受付の女性に渡すと、 子どもの手を引いて処理センターを後にした。
帰り道で子どもは母親に言った。
『お母さん、帰りにペットショップ寄ってよ。 僕、子犬が欲しいの。』
こうして、 この親子はペットショップで子犬を購入し、 楽しそうに帰っていった。
そして半年後、 この親子はまた処分センターを訪れる。
ろくにエサも与えられず、衰弱し、 最終的に餓死してしまった子犬の亡骸を段ボールに入れて。
ケース1 〜終了〜
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