EscapE
柚樹



 邪な想い。

あやうく、口走ってしまうところだった。


「私と付き合っちゃいませんか?」


アタマの中で想像するだけにとどめておいたけど。



先週の金曜、前店長も含めてバイト仲間と飲み会だった。
でも、私は決して強くはない。むしろ弱いほう。
生中1杯で、腕まで真っ赤。
思考回路はいたって正常だと思っているけど。
……思ってただけなのかなぁ。
よくよく考えたら、マトモに飲んだの2杯程度?


それなのに。




男性陣にからみまくり。
その中でも、いちばんの被害者。
背もたれ代わりにされたり
頭、ぐしゃぐしゃにされたり
抱きつかれたり、逆セクハラされたり。
(その節はご迷惑おかけしました……)

でもね、あったかかったの。
いま、他人の体温に飢えてるから。
頭撫でてくれてうれしかった。
おっきい手でぽんぽんって。
何度も何度も。
それがすごく嬉しくて、ずっとくっついてた。
店をでてからも、抱きついてた。

酔ってる振りをして。



帰る方向は、反対なのに。
一度くっついてしまったら離れられなくて。
終電の時間を忘れてしまうところだった。



翌々日、シフトが2時間弱かぶってて
私は勝手に気まずかった。

それでもよっぽど弱ってたみたいだ。
2行目の台詞を、頭ん中で何度も何度も呟いてた。

私のあがりと、彼の休憩が一緒で
事務所に2人きりの時間がもう少し長ければ……

とは思うけど、結局は言わなかっただろうなぁ。


一応、スタッフのなかでは彼氏がいることになってるし。
そして彼は、私のタイプでもなければ、「好き」なわけでもない。
ただ、「他人の温度」が欲しいだけ。


ただ、それだけ。




でもあんなに楽しく酔えたのなんて、久しぶり。



2004年07月22日(木)
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