水野の図書室
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皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。
2001年11月30日(金) |
鈴木光司著『乱れる呼吸』 |
小説に、面白い小説とつまらない小説のふたつがあるだけだと考えるなら、 書き出しで、緊張して構える小説とのんびり活字をなぞっていく小説のふたつが あると思います。面白いかどうかは、別にして。
鈴木光司さんの短編集『生と死の幻想』は、生と死に関する六つの短編を 収めたものですが、その中の『乱れる呼吸』は、ギリギリの緊張感を 書き出しからぶつけてきました。
「集中治療室の分厚い窓ガラスによって、外気は完全にシャットアウトされて いる」 ・・・日常で生と死が隣り合わせな場所、病院の中で、病室でも霊安室でも なく、生と死が共にある集中治療室から始まる物語です。
集中治療室に平行に置かれている二床のベッド。 片方のベッドには、クモ膜下出血で意識不明の妻が。 もう片方のベッドは空になったばかり。 妻の口につけられたチューブは、人工呼吸器につながり、妻の右肩には 完全栄養の管が差し込まれ・・ 人口呼吸器の音だけの部屋にいる妻と自分。 妻のお腹には七ヶ月に達した胎児が・・ やがて、不思議なことが起きるのですが・・
妻の様態を見守り、一瞬たりとも見逃すまいとする男の様子は、読む側の 心までをも、じっと見据えているかのようです。
鈴木光司著『生と死の幻想』(幻冬舎文庫)収録の『乱れる呼吸』は、 わずか17ページ。張り詰めた緊張感から始まった5分間。 息を止めたまま、クロールで泳ぎきったような疲れが・・ これが長編だったら耐えられないでしょう。
怖いものがひとつ増えました。それは、人口呼吸器・・
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