水野の図書室
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2001年12月09日(日) |
宮部みゆき著『八月の雪』 |
世の中、矛盾だらけです。それが、世の中なんですね。 いきなり、こんなことを言いたくなったのは、この物語を読んだから。 今日、ご紹介するのは、宮部みゆき著『人質カノン』から『八月の雪』。
いじめグループから逃げるため大通りに飛び出したところを四トントラックに はねられた充。彼はこの事故で右足を失い、自分の部屋にひきこもる毎日を 送っていました。事故後の処理は「事故」で終り、誰にも責任はない、と いうことに。
文中に「不公平」の文字が何度もでてきます。 充がこの事故に合うきっかけになったのは、同じクラスの飯田君の自殺が あったのです。いじめに苦しんでいた飯田君は、長文の遺書を残して鉄道自殺 しました。飯田君も彼の両親も、再三、学校に善処を求めたのですが、学校側 は、力にならず、転校をしてはと持ち出す始末だったのです。
「これから先もずっとこんな不公平なことばかりなら、僕はもう生きていたく ない」・・この飯田君の残した言葉が充の心を打ち、いじめグループを挑発する ことに。その結果、充は事故で右足を失い、いじめグループは罪を問われず、 楽しく遊んでいる・・
やりきれないです。 早く元気になって、などと励ましたところで、充の心身に受けた傷は大きく、 「不公平な世の中にかかわるのはやめるよ」と言いたくなる気持ちはわかります。
そんなある日、入院中だった祖父が亡くなり、遺品の中から遺書めいたものが 見つかります。充は祖父の意外な面を知り、遺書について調べていくうちに 祖父が歴史的事件に関わっていたことを知ることに・・・
祖父の遺書を通して、生きていくことの意味と価値を見つけていこうと 立ち上がる充の姿はすがすがしく、力強いものが伝わりました。 短編のわりには重いテーマです。
宮部みゆき著『人質カノン』(文春文庫)に収録の『八月の雪』は49ページ。 不公平な世の中にため息ついた14分。
世の中で公平なものは、時間と降り積もる雪・・
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