水野の図書室
Diary目次|過去を読む|未来を読む
皆さま体調に気を付けて今日も良い一日でありますように。
| 2002年05月24日(金) |
辻仁成著『グッバイ ジェントルランド』 |
思い出が、強くやさしく、あるものとの訣別を促すことがあります。
思い出の場所、特に自分が育った家がこころ休まる場所だと感じるのは、 そこで過ごした日々そのものが、穏やかな時間だったからなのでしょう。 そして、安らぎの空間に身を置いたとき、今までの生活が、自分にとって 相応のものかどうか、見えてくるのだと思います。
前作『オープンハウス』で、「僕」は、吠えることができない犬のエンリケ と売れないモデルのミツワとで、彼女のマンションで気を使いながら暮らし ていました。続編『グッバイ ジェントルランド』では、エンリケを捨ててきて ちょうだいとミツワに言われ、自転車のかごにエンリケを乗せて、捨て場所 を捜すうちに、いつしか、生まれ育った街を目指していきます。
工場街の小さなアパートでひっそりと暮らす父母に、張り詰めていたこころ をほぐしていく「僕」がいました。そして、分身のようなエンリケは……。
エンリケの捨て場所を捜しながら挟まれるエピソードは、ラストをより一層、 ほろにがく仕上げています。
『グッバイ ジェントルランド』は短編集「オープンハウス」(集英社文庫) に収録。エンリケの賢さにも、ホッとしました。
P.S. オープン⇔グッバイ で連想したのは「冷静と情熱のあいだ」。 読みながら泣きましたー。。
|