 |
 |
■■■
■■
■ ��
(01.おはよう)
+++ 見知らぬ、天井 +++
神なんていないさ。救いなんて無い。
ぬかるんだ湿地、死体が腐敗する臭気を漂わせた湖沼に、生温い風が吹き抜けた。霧の中僅かに差す光によって緑色の水面は鈍く反射する。 此処が地獄だとしたらあまりにも陰気だ。 空気は、鼻孔や口内から体の中を蝕んでいく。内側から圧迫し、絡めとり、脳までもが気怠い。 何かに誘われるように沼へと足が運ばれる。踏み込んだ途端、澱んだ緑色をした其れは、白く透き通った足を銜えて放さない。丘に戻ろうと踵を返そうとすると、足は石のように重くなり、びくともしないのだが、前へ、奥へ行こうとすると流れるように歩が進むのだった。 段々と進んでゆくに連れて水位が上がり、何時の間にか水は腰まで達していた。更に進んで肩まで浸かっているというのに、水中での浮遊感は全く感じられない。水底から足が離れることはなく、吸盤があるかのようにしっかりと、それでいて氷の上を滑るように緩やかに沈んでいく。否、下っていく。 体は、水に溶けだしてゼラチンに成る。 息苦しさも、水圧もない。水の濁りや汚れに動じず、常にクリアな視界を保つ視覚だけが全てだ。 延々と続いた緑の、バクテリアと塵の世界に漆黒の渦が現われた。闇とも言い難い黒は、何もかもを持っていそうで、又、何も有りはしないのではと思う程禍禍しく其の存在を主張している。取り憑かれたように目を大きく見開いて凝視した瞬間、ぴくりと目頭が疼いたのを切っ掛けに、全身の肌が粟立ち、手足の指先まで神経が通う。波が岩場に打ち寄せる激しさを持って、凄まじい勢いで痛みと恐怖に侵された。血が血管を循り、脈打つたびに熱い。心臓は早鐘だ。 感覚が、戻る。 不確かな違和感と共に細胞が悲鳴を上げた。足元から崩れるようにして水底に沈む。変だ。何故、何故。 何故、腕が無い。足が無い。正確には右腕と左足だがパニック状態に陥っている自分には失っている暗部がそれこそ自分の全てだといわんばかりに世界の片隅で咆こうする。自分がユダだとも知らずに。恐れと痛みと焦りが己を構成して、既に自分ではないようだ。 空気を切り裂き、振動させるほどに泣き叫ぶ己とは別に、狂った自分に視線を注ぎ続ける闇を冷静に見ている精神が在った。目も、体も、肉体は存在せず、物質すら所有しない闇と、目が合ったのだ。 途端に理解し、悟った。此れに喰われたのだと。 どうしようも無い絶望に愕然としたのだろうか。そんな事は無い。有り得ない。だって光は見えている。 縋る物が無いと立てもしない自分の体。全身の力を振り絞り、這いながら一心不乱に手を伸ばす。 千切れても構わない。 届け!!!!!!
続。
2004年03月25日(木)
|
|
 |