日々雑感
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2001年12月21日(金) 耳をすます

みぞれが降る。雪ならば傘なしでも歩けるけれど、みぞれではそうはいかない。傘を持つ手が濡れて冷たい。

昼までに用事がすべて済んだので、午後は部屋の中で掃除などして過ごす。部屋は2階の角部屋で細い通りに面している。車がやっと通れるかどうかというくらいの道だが、人通りはけっこう多い。音楽もかけず、テレビもつけずに部屋の中にいるといろんな音が聞こえてくる。

傘にあたるみぞれの音、大家さんと近所の人の庭先での立ち話、飛行機の音、学校のチャイムの音、「宅急便でーす。」、ドアが開く音、新聞配達の自転車の音、ポストに夕刊が入れられたらしい、練習中のピアノが繰り返す同じフレーズ、向かいの家の犬が吠える声、食器の音、そして、ときおり鈴の音を鳴らしながら大家さんの猫モモちゃんが行く(ちりちりと)。

昼は空気がなんとなくざわざわしているが、夜が更けてくるにつれてしんと静まってきて、通りがかりの人の気配が際立つ。携帯電話でのおしゃべり、足音、酔っ払って大声で歌うおじさん(お酒が入ると歌いたくなる人が多いのはなぜか)、遠く救急車の音、ひとり「バカヤロウ」などとぶつぶつ言いながら歩いていく人もいる。

夕飯も終えた頃、遠くから拍子木の音が聞こえてきた。「火の用心!」子どもたちの声に、ひとり低い大人の声も混じっている。拍子木の音はよく響く。特に冬の空気は音をよく伝えるような気がする。「火の用心」の声は近づいてきたと思ったら、またすぐに遠ざかっていく。街のどのあたりにいるのだろう。みんな自分の家の中で、あるいはどこか他の場所で、この響きを耳にしているだろうか。

世界は音で満ちている。意識しなければただ流れていくけれど、じっと耳をすましていると、いろんな音が聞こえてくる。耳を傾けてみる。いろんなものの存在を確かめているみたいだ。世界が息づいている証である。

NHKの佐々木昭一郎氏のドラマでは、ピアノ調律師のA子が音を探して世界中の川のほとりを旅した。バイオリンケースの中に音叉を入れて。「私、いい音を探しているんです。」

音を探す。音を聞く。世界が発する音に耳をすます。





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