日々雑感
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2002年01月09日(水) 海からはもう灯台は見えない

夜、友人たちと三人でドライブ。運転は6月に免許をとったばかりの友人である。夏にも乗せてもらったが、今回は雪道、それも気温が低いせいで凍っている。さらに「夜、雪道運転するの初めてなんだけど。」走り始めはさすがに緊張。後部座席にいるこっちも集中してしまう。けれども、だんだん慣れてくると、車内は暖かいし、低い音で音楽が流れているし、うとうとしてくる。誰かが運転する車の後部座席に乗って、ぼんやり外を眺めているのはいい気分だ。「いい気分になってきた。」と言うと、「じゃ、峠行ってみるか」と返された。雪の峠を行く初心者マークの車。おそろしい。

ぐるりと走ったあと、夕食。「ちょっとだけ」といって一口ビールを頼んだら美味しく、結局おかわりする。全然一口じゃない。窓から、野良猫が歩いているのが見えて「猫だ」と騒いでいると「猫ですね」と微笑みながら店員さんが通り過ぎた。

帰宅後、NHK・BSで「北欧トレッキング紀行」を見る。今回の舞台はデンマーク・ユトランド半島。内陸部は、植生もどこか日本に似ていて穏やかなのだが、西海岸に出たとたんに風景は一変する。西海岸は北海に面しているため烈風にもろにさらされ、海岸には砂が堆積しやすいのだという。かつては原野だった場所が、今はひたすらに広がる砂丘となっている。

風によって移動する砂山のために、埋もれそうになっている村がある。何軒もの家が既に砂に呑み込まれ、村でいちばん高い建造物である灯台も、土台は埋まり尖塔だけが砂の中からのぞいている。村人はもう誰もいない。砂に埋もれかけた建物が残るばかりだ。

今は灯台を改造した観光客相手のカフェに人がいるが(絵葉書も売っていた)、やがてここも砂に呑み込まれるだろう。誰もいなくなるだろう。そして、すべては砂の中に消えるだろう。そして、それを知る者が誰もいなくなったとき、そこに何かあったという印は何もなく、ただ茫漠とした砂丘だけが残るのだ。砂の下に埋もれた村の記憶。そんなふうにして埋もれていった村や町や文明や生命が、地球上にはきっとたくさんあるのだ。そして、私たちもいずれはその層の一部となる。

砂からそびえ立つ灯台は、もう光を放って船を導くことはない。夜の海からは、ただ砂山の影だけが見えるだろう。そこにかつて人が暮らしていたと思いもせず。



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