DOTFAMILYの平和な日々
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義母は今月88歳になる。米寿である。今度の日曜日に、子供達とその家族が集まってささやかなパーティをする予定ではあるが、義父の時のように親族一同を招いて盛大にパーティをやる、という計画は無い。理由は、本人が嫌がったし、義父の健康状態が今一歩であるから。でも、母の日も兼ねた米寿祝いというのはちょっと寂しい気もする。
義母と義父は、毎週水曜日に日系コミュニティ・センターのシニア・クラブ(正式にはレジャー・クラブ)へ行っている。暇なダンナが送り迎えしている。そこで皆揃って昼食を食べる時、まんじゅうでも配ったらどうだろうか?とダンナに相談された。それは良いアイデアだ、と返事をした。
義妹(ダンナの上の弟の妻)の従兄弟がダウンタウンで風月堂という和菓子屋さんをやっている。日本の有名な風月堂とは全く関係ないが、こちらでは随分昔からある店らしい。ダンナとダンナの妹が米寿祝いにシニア・クラブに持っていく饅頭について話し合っている時、ダンナの妹が義妹に軽い気持ちで尋ねてみたらしい。すると、何事も仕切らずにはいられない義妹が、はりきって計画をたて始めた。どういう種類の饅頭を、1人何個分用意するか・・・風月堂の従兄弟に電話をして、値段なんかを聞いたらしい。
ダンナとダンナの妹は、自分の母親の米寿祝いであるから、自分たちが決め、自分達で買いに行こうと思っていたらしい。が、ダンナは甘いもののことは全くわからない。どういう饅頭があるのかも知らない。で・・・
愚夫「1人1個じゃ少ないよね?」 愚妻「1人2個じゃない?」 愚夫「どんな饅頭が良いと思う?皆に同じ饅頭を配る?それとも色んな種類を買ってきて皆に勝手に取ってもらう?」 愚妻「お祝いに配る饅頭っていったら紅白饅頭だろう?」 愚夫「紅白饅頭?何それ?」 愚妻「結婚式とか米寿とか、お祝いに配る饅頭。」
今時、紅白饅頭でもないとは思うが、相手は全員日系年寄りである。味がどうのこうのというより、そういうのが懐かしくて喜ばれるのではないかな?とちょっとだけ思ったから言ってみただけである。というか、実は何も考えずに「祝い事=紅白饅頭」という発想であった・・・わたしゃ一体いくつなんだ?
愚夫「紅白饅頭ってどんな饅頭?」 愚妻「白とピンクの皮で、中に普通のあんこが入っているとってもシンプルな饅頭で、二個で1セットになってる。」 愚夫「お花の形して緑の葉っぱがついてるやつ?」 愚妻「そんな饅頭は無い。」 愚夫「あるよ、何回も見たことある。」 愚妻「無い・・・全ての饅頭を知っているとは言わないが、そんなのは無いと思う。どっちみち、それは紅白饅頭ではない。紅白饅頭は円くて、上に寿とか鶴亀の焼印が押してある、普通の饅頭。」 愚夫「僕、そんなの見たことない。」 愚妻「普通店には売ってない。お祝い事がある時に注文して作ってもらう。ちなみに両方白だと葬式饅頭になる。」 愚夫「・・・う〜ん、饅頭って、普通色んな形をしてて、葉っぱとか花弁とかの飾りがついてると思うんだけどなぁ・・・。饅頭屋さんに言ったらわかる?」 愚妻「わかる。」 愚夫「風月堂でもわかる?」 愚妻「絶対にわかる。」
ダンナは今一歩納得しなかった。どういう饅頭か見当もつかなかったらしい。ダンナの妹も同じである。が、風月堂に「紅白饅頭を注文したいんですが。」と尋ねると、一発でわかったそうである・・・当たり前だろうが!
と、実に穏やかに夫婦の会話が交わされたように書いてしまったが、実はこれ、ほとんど夫婦喧嘩だったのである。とにかく話が通じないのだ。で、お互いにイライラして怒鳴り出してしまった。ダンナは私の説明が悪いと言う。私はダンナが説明する饅頭なるものがどうしてもわからない。原因は、ダンナが「饅頭」だと思っていたものは饅頭ではなかったからである。では、彼は何を饅頭だと思っていたのか?
彼が饅頭だと思っていたのは、生菓子であった。
どちらも同じじゃないか、と思います?そう思ったあなた、日本人じゃなでしょう?
饅頭は生ではない!生の饅頭なんか無い!饅頭とは、皮の中に餡子を入れて蒸すか焼くか(揚げるか)してあるものである。皮や餡の材料は様々だろうが、生の饅頭は無い。材料が全く同じで形も同じというものがあっても、それに火を通さずに食べたとしたら、それは饅頭ではなく生菓子だる。
饅頭と生菓子の違いは、一目両全である。ケーキとパイくらい違う!お前らパイにローソクたててハッピーバースディ歌うか?結婚式にウエディング・パイ食うか?あるいは、焼酎と清酒くらい違う!お前ら、結婚式の三々九度に焼酎飲むか・・・って、三々九度なんてしないか。
もう喧嘩腰ですな。
とまぁ、色々あったけど、結局風月堂に紅白饅頭を100組作ってもらって、皆に配った。ダンナと上の弟夫婦、妹もランチに参加したそうである。そして、紅白饅頭は、お年寄り達にとても喜ばれたそうである。何より、紅白饅頭を見た途端、皆が「何のお祝い事?」と聞いたのにダンナは感動したらしい。
皆、紅白饅頭が何か知ってるんだ!
・・・知らないのはお前らだけだよ!
ところで、紅白饅頭100組は流石に多すぎた。で、余った分をダンナ、弟、妹で分けようということになったのだが、自分の意見が受け入れられなかった義妹は異常に機嫌が悪かったらしく、「そんなもんいらない!」と言ったそうで・・・ダンナと妹で分けた。甘いものが大好きな弟は、とっても残念だったらしいが、「僕は食べたい。」なんて言うと後が怖そうだったので、黙って手ぶらで帰っていったそうである。
皆が義妹に「これは日本の伝統らしいよ。僕達が思っていたのは饅頭じゃなくて、生菓子というものらしいよ。」と言ったそうであるが、義妹は・・・
饅頭は日本のお菓子の総称だということは常識でしょう!
饅頭という言葉の意味は、日本からアメリカに入ってきた時、どこかで変わってしまったのだろうか、ミイラみたいに。
(しかし、饅頭が日本のお菓子の総称なら・・・かっぱえびせんなんかも饅頭なのかなぁ・・・ポッキーも。)
そして・・・
「日本の伝統なんてどうでもいいじゃない。一体誰が伝統なんが気にするのよ!」
・・・日本の伝統である米寿を祝う人達が、伝統を気にする人達だと思う。
ところで、ダンナが持って帰ってきた紅白まんじゅうは、懐かしい味ではあったが、とても美味しかった。紅白饅頭の味も時代に合わせて進化しているのだな。ピンクと白のシンプルな饅頭の上には、ちゃんと『寿』という焼印があった。時々「ああ、紅白饅頭が食いてぇ」と思う・・・なんてことは全く無いが、それでも、こういう伝統を私は嫌いではない。何より、米寿である義母とその仲間たちが喜んでくれたのだから、それが一番大事だろう?
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