お堂のまん中にすわったのっぴきは、とくいになっていいました。
「おいらは村で一番の力もちなんだ。とくでんさんのとこの大きな石だってもちあげられるんだよ。だからおいらが一番つよいのさ」
おしょうさんは、湯のみのお茶をごくりとのんでからいいました。
「いいかい、のっぴき。よくおきき。たしかに男の子はつよくなきゃいけない。でもつよいってのは、大きな石をもちあげることだけじゃないのさ。 ぬきさしをごらん。おしょうさんはね、あの子のほうがおまえよりもつよいとおもう」
のっぴきは、目をくるくるして、まっかになっていいました。
「一番つよいのはおいらさ。だってあの子は体が大きいくせに、いつもおいらにはかなわない。お祭りのときだって、おいらが一番にたわらをはこぶよ。だからおいらが一番つよいんだい」
おしょうさんは湯のみを床において、のっぴきの目をみていいました。
「ぬきさしは、のっぴきが頭をぶってもなにもいわないね。それはどうしてだかわかるかい?」
のっぴきは、口をとんがらせて、ぶるぶると首をふりました。
「ぬきさしはね、ぶったらいたいってことをしっているのさ。のっぴきは人をぶつばっかりで、人にぶたれたことがないね。だからおまえはぶたれたときにどれほどいたいかを知らない。 ほんとうにつよいのはね、ぶたれたいたみを知っていてぶちかえさないことさ。男の子はね、ぶちかえさないゆうきをもたなきゃいけない」
「ぶちかえさないゆうき……」
のっぴきにはなんのことかわかりません。ぬきさしのほうがつよいというおしょうさんがきらいだと思いました。
風がひゅうとふきこんできて、おせんこうのけむりがゆれました。のっぴきは、おせんこうのにおいもきらいだと思いました。
2004年02月05日(木)
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