(数年前の、シーズン中の一日。試合前の甲子園球場にて)
金 「おいイガワぁ、ちょっと来いや」 井 「ああカネさん、なんスか?」 金 「こっちこっち、こっちやねんて」 井 「なんスか、なんスか? 嫌ですねェ、ベンチ裏なんて。なんかヤキ入れられるみたいで」 金 「まあそんなようなもんや」 井 「え?」 金 「いやいや、こっちの話」 井 「怖いなァ」 金 「いやな、じぶん(注:関西弁の二人称の一種)もすっかりエースになったなあ思うてな」 井 「なんスか、急に」 金 「年俸も2億超えたもんなァ」 井 「ええ……、まあ……」 金 「それでや。じぶんもそろそろ実力に見合ったモノを持ったほうがええと思っとんのじゃ、ワシとしても」 井 「モノ、ですか」 金 「せや、ごっつー“上モノ”や。じぶん、コレ、知っとるか?」 井 「ああ、チタンネックレス! 知ってますよ、磁気が出て肩凝りに効くとかっていうやつですよね?」 金 「おお、おお、ヨシャヨシャ。知っとるなら話が早いわ」 井 「そういやカネさん、いつの間にかそれしてましたよね」 金 「せやせや。これがな、じぃーつにええ。肩凝りなんかスーッと消えていくねんて」 井 「へぇー」 金 「それだけやないで。朝がちゃう、朝が。二日酔いなんて『アラ、どこ行ってしもうたのん?』てな感じやし、快便カイベン今夜はホームランや!てな具合や」 井 「ネックレスで快便、ってどうなんスかね」 金 「だまっとけ」 井 「でも使ってるの、カネさんだけなんでしょ?」 金 「何を言うとるのかね、キミは。これだから野球バカは困りますね、まったく。世の中知らなくて」 井 「なんで急に東京弁なんスか」 金 「じぶん、シンジって知っとるか?」 井 「シンジ……、ああ、あのウクレレの」 金 「そうそう、♪ア〜アやんなっちゃった、ア〜アアア、ってドアホ。驚いてどないすんねん。サッカーや、サッカー。オランダのロンドンで活躍しとるやろうが!(注:本当はロッテルダムです)」 井 「はあ。で、そのシンジがどうしたんスか?」 金 「あいつも付けてんねん」 井 「へぇー、そうなんスか」 金 「ワールドカップでつけとった。ワシ見た」 井 「カネさんがサッカー観るんですか」 金 「社会勉強です」 井 「だからなんで東京弁なんスか」 金 「で、どや? 欲しいやろ」 井 「ええーっ!? 要りませんよー」 金 「欲しいやろ」 井 「だから……」 金 「欲しいんやろ?」 井 「……いくらスか?」 金 「ヨシャヨシャ、ちょい近く寄れや」 井 「なんで周り気にしてんスか?」 金 「コレでどや」 井 「え、三本? なーんだ、そんなもんなんだ。もっと吹っかけられるのかと思いましたよ、ビックリしたなーもう」 金 「人聞きの悪いこと言うもんやないで。かわいい後輩のためやないか」 井 「はあ、ありがとうございます、ってなんで俺、お礼してんだろ。ま、わっかりました。ナイターの後に払いますよ、三万円」 金 「ドアホがっ! ボケッ。ツェーマンで買えるわけないやろが! さんびゃくまんじゃ、さんびゃくまん」 井 「えええ゛ーーっっ!? メチャメチャ高くないスか、それ?」 金 「かわいい後輩やから特別価格やで。しかも、今なら二本で五百万」 井 「勘弁してくださいよー、ジャ●ネットじゃないんスから」 金 「さらに! 今ならもれなく、プロが使用した『カネモトモデル』のスパイク付き」 井 「それってカネさんが履きつぶしたゴミじゃないですか〜」 金 「じぶん、年俸いくらやったっけ」 井 「に、におくちょい。『推定』ですけど」 金 「だったらええやないけ。これつけて投げれば、ええ球いくで〜。直球なんか、ビシーーッとインコース決まるで〜」 井 「ウソだ〜」 金 「チタンやからね」 井 「理由になってないし」 金 「買うてくれはりますね」 井 「げっ、今度は下手からですか」 金 「買うてくれはるんですね」 井 「分かりましたよー、買いますよー。でも一本でいいスよ。ったく、ひどいなァ、もう」 金 「まいどおおきに。ほな、黒やるわ」 井 「赤がいいですよー、俺」 金 「赤はワシんじゃ」 井 「色も選べないんですかー、三百万なのに……」 金 「よーしイガワ、準備せい。試合じゃ、試合じゃ〜! やっぱり甲子園は燃えるのー!」
(数週間後の東京遠征中。試合前の神宮球場にて) 金 「イガラシー。どや最近、肩の調子は?」 五 「あ、カネモトさん。ちーす。それがですね、イマイチなんスよ、ここんとこ。今晩あたり、カネさんにホームラン打たれちゃうかも、なんて」 金 「ちょっと来いや」 五 「は? なんですか」 金 「ええからこっち来いや……」
(お断り:この物語はフィクションです。登場するすべての人物名・商品・金額などは実在のものとは一切関係ありません)
2004年06月15日(火)
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