ボクハウソツキ  -偽りとテレコミの日々-
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2002年10月06日(日) アンブッシュ

ぱき

体を捻った拍子に枝を何本か折ったようだ
どれぐらいの時間を伏せた姿勢で過ごしてきたんだろう?
状況は見事なまでに膠着していた。

ああ、タバコがすいてぇ

身を潜めているこの茂みから立ちあがれば
50mも離れていない場所から飛来するAK47の7.62mm弾が
全てを終わりにしてくれるのは明らかだが
それを選択するほど精神的にまいっているわけではない

旨いタバコを吸うには、あと何人かの犠牲の上に
戦線を突破し、後方の敵ベースを制圧することが条件だ
だが俺はその捨石になるつもりはない
だからこうして不自然な姿勢に耐えているんじゃあないか

がささ

左前方より不穏な音がする

まずい!側面に回り込まれたら全滅の恐れさえある

右側15mほどで同じ苦痛に耐えている戦友に
前方警戒と援護を手で合図して、
匍匐で左方に備える位置にポジションを取る
構えなおしたM16のフラッシュハイダーが細い枝にかかり
また音を立てる。ここではタイミング次第で小さな音さえ命取りだ

ちくしょう!なんだってこんなに取り回しが悪いんだ

しかも古臭いヴェトナムバージョンときたら
いまどき誰も使っちゃいないじゃあないか。
吐き捨てるように声無き声でつぶやくと、茂みから音がした。敵だ。

奴は少し腰高な姿勢で回り込んできた
まだ若い、へたすると10代じゃないだろうか
奴にも家族はいるだろう。ひょっとして帰りを待つ彼女もいるかもしれない
でももう逢うことはできない。今夜の温かいスープさえ飲むことはできない。
だが、そんなことにかまっちゃいられないんだ
一瞬、こちらを向いた奴と目が合う。
驚愕の表情でAKの銃口を必死にこっちへ振ろうとする。
だが、射撃姿勢でアンブッシュしていたアドバンテージに追いつけるわけも無く
俺は照準しなおすほどの余裕をもって、フルオートにセットしたトリガーを引く

タタタタ

渇いた音と共にM16の5.56mmNATO弾が
奴の体と背後の茂みに吸い込まれていく

この瞬間は何度経験してもいいもんだな

サディスティックな喜びに浸れたのは1秒も無かったと思う。

パラララ

M16のそれより、さらに甲高い音と共に左脇腹に何かが喰い込む

(まさか!なぜ後方から弾が・・・)

振り返る視界の隅に、今日が初戦闘だと言って震えていた
M4A1を構えて驚愕の表情を浮かべている新兵が映った

味方撃ちでの被害は少ない数字ではない。

そんな統計が思い出されても、全ては終わりだ。
これでもう藪を這いずり回ることも無い
左脇の痛みの中にほっとしたものを感じながら俺は










ヒット!

安全地帯までM16を掲げながら堂々と歩く
セブンスターに火を着けるまで、あと45秒だ。

神奈川某所、午後2時の日差しは柔らかだ。


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