ボクハウソツキ -偽りとテレコミの日々-
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古いビルの屋上、いや、低く感じた建物はビルでなく 教会のような天井の高い建造物だったのかもしれない。 とにかくその屋上を歩いていた。
赤茶けたトタンのようなフロアは人がいるべき場所ではなく 屋根としての機能をかたくなに守ってきた佇まいだ。 いるべき場所ではなくても人はやってくるようで その周囲にはやはり赤錆びたフェンスがめぐらせてある。 金網越しに見る街は子供の頃に見た街の風景だった 低い建物が連なり、そのむこうには午後の陽射しにきらめく お世辞にも綺麗とはいえない海が覗いていた。
踏み抜かないように支柱が通っていると思われる場所を選んで 慎重に端まで歩いたボクはそれを立ちすくんで見ていた。
「坊や、なんで泣いているんだね?」
坊やなんて呼ばれる歳はとうの昔に、 そう、この風景があった頃に通りすぎてしまっているというのに、 老婆と思しき声はあきらかに自分に向かっていた。
金網を握り締め立ちすくんでいたはずが いつのまにかヒザが汚れるのも構わずに座り込み 声をあげて泣いている子供の頃のボクがいた。
なにが哀しいのかは判らないが、涙は止め処も無く流れ続けた。 振り向いても老婆の姿など無いのは判っていた。 嗚咽はしばらくの間、途切れる事はなかった。
誰にも従わず傷の手当もせず
ただ 時の流れに身をゆだねて
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