ボクハウソツキ  -偽りとテレコミの日々-
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2002年10月19日(土) 風景

古いビルの屋上、いや、低く感じた建物はビルでなく
教会のような天井の高い建造物だったのかもしれない。
とにかくその屋上を歩いていた。

赤茶けたトタンのようなフロアは人がいるべき場所ではなく
屋根としての機能をかたくなに守ってきた佇まいだ。
いるべき場所ではなくても人はやってくるようで
その周囲にはやはり赤錆びたフェンスがめぐらせてある。
金網越しに見る街は子供の頃に見た街の風景だった
低い建物が連なり、そのむこうには午後の陽射しにきらめく
お世辞にも綺麗とはいえない海が覗いていた。

踏み抜かないように支柱が通っていると思われる場所を選んで
慎重に端まで歩いたボクはそれを立ちすくんで見ていた。

「坊や、なんで泣いているんだね?」

坊やなんて呼ばれる歳はとうの昔に、
そう、この風景があった頃に通りすぎてしまっているというのに、
老婆と思しき声はあきらかに自分に向かっていた。

金網を握り締め立ちすくんでいたはずが
いつのまにかヒザが汚れるのも構わずに座り込み
声をあげて泣いている子供の頃のボクがいた。

なにが哀しいのかは判らないが、涙は止め処も無く流れ続けた。
振り向いても老婆の姿など無いのは判っていた。
嗚咽はしばらくの間、途切れる事はなかった。









誰にも従わず傷の手当もせず

ただ 時の流れに身をゆだねて


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