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2002年03月05日(火) |
内言語で見る夢 ●不穏の書、断章(フェルナンド・ペソア) |
ポルトガルの詩人、フェルナンド・ペソアは孤独な環境で育ち、幼い頃から自分の分身たちに囲まれていたと言う。それが、ある日突然創作中に忘我の状態に襲われ、まったく別の人格が憑依したようにして、30篇の詩ができあがった。その架空の詩人はアルベルト・カイエロと名付けられ、詩作上の彼の生涯の師となった。以来彼は、たくさんの架空の詩人たちを産み、なんとその分身たちは勝手に動き出してお互いに交流をもったりする。それぞれが固有な身体的特徴、人格、経歴、思想、作風をもって独立した詩人となり、それぞれに作品を発表し始める。
思考するというのは、発音しない言語活動だ。心の中で自分と対話し考えを進める「内言語」は、多少の違いがあるが、どんな人の中にもある。ペソアの場合、その言語の発し手が人格を持ち、固有の夢を見、現実に対処していったのかしら? 終生たくさんの人格と共に暮らしたペソアを思い、わたしは想像する。 この特異なる詩人ペソアに取り憑かれた芸術家は多く、タブッキの小説「フェルナンド・ペソア最後の三日間」では、死を目前にしたペソアを異名の分身詩人たちが訪れる様子を描きだしている。
一年半ほど前、「不穏の書、断章」を読みペソアを知ってから、時折読み返し、彼の生涯の精神生活を思ったりする。個の世界に埋没することの、深い深い喜びと哀しみを感じたりする。
*HP/Etceteraに「フェルナンド・ペソアのことばから」をUP
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