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2002年11月18日(月) 書き写すっていう作業。

●この歳になっても、時々、自分にびっくりすることってある。

 このところチェーホフの「黒衣の僧」という短篇にいれこんでいて、何度も読み返して研究していた。でも、ただ読んでいるだけでは、研究行為としては物足りないというかパンチに欠けるので、思いついて全文書写してみることにした。

 写すという行為は、読むことと全然違う。やってみて発見した。これはもう蕎麦とスパゲティくらい違う。右脳で生きてるわたしと左脳で生きてるわたしが混じりあっていくみたいでもある。
 一語一語を、文節文節を、キーボードに打ち込んでいくうち、ただ読んでいた時とまったく違う世界が構築されていく。同じ物語なのに、自分の中に堆積していくモチーフが、思わぬ呼応をしあったり、なんでもなさそうな細部が大きな意味を持ち始めたりする。今まで当たり前のように読に流していた描写が、特別なものとして鮮やかに像を結んだりする。

 寝食を忘れて没頭。最後まで写し終えると、なんと朝10時になっていた。12時に最初の現場に行く予定だったから、一睡もせずに外出。二つの現場で8時までたっぷりと働いた。でも、すっごい元気だし、集中力もある。
 わたし、どうしちゃったんだろう……。今もまだ、興奮状態。
 
 書写という行為には、何かあるな。今度は手書きで、何か写してみようか。

●しあさってから、これから3ヶ月つきあっていくことになる新作の現場に入る。初日の読み合わせにメインキャストのNGが入っており、アンサンブルで入っている若い女優に、「代役お願いね」の電話をいれる。
「本当ですか? ありがとうございます!」と、浮き立つ彼女の心が、びんびん伝わってくる。
 たった1日の代役でも、彼女には大きなラッキーチャンスであり、喜びだ。
 俳優って、本当に大変な仕事だけれど、こういう時、いいよなって思う。人生をたくさん生きることの出来る、稀有な商売だ。うーん、いいよな。


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