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2003年01月21日(火) 劇場での出会い。

●本を読みたい。新しい物語を読みたい。そんな風に毎日思いながらも、本屋が開いている時間には帰れず、また、ベッドに入ると、すぐに眠ってしまう。ちょっと早く帰れても、すぐにお酒のある場所に走ってしまう。こんなこと今までなかった。本を読まない生活なんて。
 毎晩、ベッドで、かつて読んだ本をちょっとずつ読み囓りながら、1日が終わる。ああ、ずぶずぶと物語の世界に入り込みたい、時間を忘れて……。でも今は、自分たちが創りあげる世界と出会うのを待っている観客のために、ただひたすら働く。

●貴乃花関引退。一昨年末、わたしたちの劇場を訪れてくれたことがある。それはちょうど、マッサージ師との関係で親方やお兄さんと反目しているとマスコミにあげつらわれている頃。
 一般客席では目立ち過ぎるのと、座席が小さすぎるため、スタッフが本番を見る音響ブース席で、一緒に観劇した。開演直後、まだ客席は静かなのに、一人で声を出して笑い、自分の声が劇場に響いてしまって、わたしたちに「笑っていいんですよね」と顔を赤くし、小さな声で話しかけてきた。礼儀正しく、観劇中は姿勢正しく、終演後の楽屋では、目をきらきらさせて、「面白かった!」「あれはどういう仕掛けになってるんですか?」「どきどきしました!」と、感動を露わにしてみせる。なんて素敵な青年なんだろうとわたしは思った。
 劇場を去る時、彼にとっては見知らぬ人間であるわたしたちスタッフに、深々と頭を下げ、「ありがとうございました」ということばを、その場に残していった。劇場という場所が、わたしたちにとって神聖な場所であるということを、知っているかのような、ことばの響きだった。
 勝つことのために邁進してきた青春。勝つことのために、どれだけのものを捨ててきたんだろう? そこには、わたしみたいな凡人には到底想像しつくせないものがある。
 引退。そして、新しい道。きっと、彼はまた闘い続けるんだろう。
 ああ。
 わたしに出来ることは、やっぱり舞台を創ることだ。ただそのことにおいてのみ、わたしはこうして、色々な人と出会っていける。
 


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