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2003年03月17日(月) ああ、市民たちよ。

●雨の中、自転車を繰って、税務署へ。通り道の公園は、白梅紅梅がほぼ満開。暖かい日には、さぞ芳しい香りをふりまいて人々の嗅覚を喜ばせているのだろう。
 なんとなく、去年の日記を見ていたら、3月13日には、わたしはもう初桜を見、梅がすっかり散ってしまったと書いている。
 去年の11月から毎日、朝から晩まで稽古場か劇場にいたものだから、わたしはこの冬をちっとも肌で感じていなかった。
 ああ、今年の冬は寒かったのだな、と、ようやく思ったりする。

●税務署は、表向き確定申告の最終日なものだから、大混雑。まだ諸々の計算をすませていなかったわたしは、喫茶店へ。テーブルの上に領収書の山を積み上げて、端から整理していく。2時間の算数作業の末、税務署に舞い戻り。さらに混雑きわめた申告所で、さくさくと書き上げ。
 隣に坐ったおばさんが、説明に駆り出された税理士から「違うでしょ、それ。ちゃんと計算した? ここからこれ引いて、なんでこれになるのよ。機械でやってもらいなよ。いつまでかかってんの?」などと言われている。
「こういう高飛車な言い方、ありがちだよな。」と、同情したが、まあこの1日彼がやる作業を思えば、仕方ないよな、と思う。それでお金をもらっているとは言え、そんなに我慢強く教えたり、相手の立場になってものを考えたりできる人は、そうそういない。サービス業でもないし、大体はそういう高飛車さをもって、「素人ばっかりでいやになるよな」とか「毎年のことなんだからもうちょっと自分でやれよ」とか思っているものだと想像する。
 しかし、そのおばさんも負けてはいなかった。別の税理士をつかまえてきて、高飛車な人の名前を訊いている。
「名前教えてちょうだい。投書しますから。忙しいのはわかりますけどね。あんまりにも失礼ですよ。あんな人はいちゃだめですよ。訴えますよ、わたしは。」とキイキイした声で、小鼻をふくらませながら。
 また、詰問された新しい人の方の答えもすごい。
「ああ、そうですか。色んなタイプの人がいますからね。あの人は○○さんですけど、わたしの名前は出さないでくださいね。わたしはちゃんとやってますから。」

 なんだろうなあこの人たちは、と、悲しくなってくる。そのおばさんは、わたしの収入とか必要経費とかが、よほど気になるらしく、わたしの申告書をずっとのぞきこんでいた。「見ないでね」とわたしがチラと視線を向けるとあっちを向いてそらとぼけるのだが、またのぞきこんでいたりして。
……おばさん、あなただって失礼よ……と思いながら、記入し終えて、席をたった。
 ああ、市民たちよ。(って、何度も呼びかけたのは『ジュリアス・シーザー』のブルータスだったか、アントニーだったか……?)

 人々は、わたしを感動させたりがっかりさせたり。
 世界は、美しかったり嘆かわしかったり。
 
●こうして一息ついて1日をのんびり過ごすと、忙しかった時の自分のことが思われる。やることが余りに多すぎると、仕事を優先順位で区切ってこなしていくので、とりこぼしていく人間的な仕事が、たくさんある。
 ついぴりぴりして、まわりに声をかけさせない雰囲気をたたえていたこともあると思う。
 忙しくっても時間がなくっても、ゆとりのある心を保つ道はきっとあると思うのだが、なかなかそれができない。
 人間が小さいんだな。所詮。でも、小さいなりに、ちっとは大きくなろうとしてみてなんぼだぞ、と、自分に言い聞かせたりして。
 
●さて、明日もお休み。大掃除でもしてすっきりするか、お布団にくるまって物語の世界にどっぷりつかるか。


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