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2003年06月07日(土) 奨めたくなる本を読む。

●池内紀さんの、「二列目の人生 隠された異才たち」という本を読んでいる。世評にこだわらず、世に隠れて終わった異才たちを池内さんが訪ね歩く。まかりまちがえば、歴史に名を残すはずだったのに、一列目には出てこなかった人たち。
 池内さんはかつて仕事をご一緒してからというもの、いつもわたしの心の片隅に人生の師としていてくださる人だ。わたしが必要とすれば、いつでもデートに誘っていいという許可も得ている貴重な先生。そんなこと言うと、池内さんは、「わたしなんかを師匠にしたら大変ですよ」と、やわらかーな関西弁で笑うだろう。偶然にも、同じ姫路市出身、同郷なので、言葉さえ懐かしい。はじめてお会いした時は、名産の素麺、揖保の糸の話で盛り上がったっけ。
 池内さんは、仕事に追われるわたしが必ずや忘れていく視線を持っている方だ。広い視界で大きくとらえ、細やかな愛情で細部に興味を持つ。いつものびやかでおおらか。少年のように自分の興味に素直。そして最も大事なのは、池内さん自身が、すべての特権的な視線から離れて、当たり前な、在野のこころで、世の中を見つめていること。

 そんな池内さんが探しだした、二列目の人たちの人生は、実に面白い。その人生も、池内さんの視線も。
 進路に行き悩んでいる若い人がいたら、一読を奨めたくなる本だ。

●思えば、たくさんの本を人に奨めてきた。わたしが本読みだということはよく知られたことなので、久しぶりに会った友達は、必ずわたしに聞く。「なんか面白い本ある?」。
 何かプレゼントとなると、まずいなと思いつつも(好き嫌いがありますから……)本をついつい買ってしまうし、悩みをもちかけられると、お話するついでに必ず一、二冊の本をみつくろって薦める。まだあんまり売れていない、知られていない本を読んで「面白い!」と思うと、棚から引っ張りだして、目立つところに平積みされた本の上に置き、個人的促販活動をしてしまう。こうなると、もう、変な人だ。
 それでも、奨めてきた本たちは、どうやら奨められた人たちの心の中で生き続けることが多いらしい。教えてくれてありがとうという言葉が、よく返ってくる。
 自分で書いたり、創ったりが、この歳になってまだ出来ないでいるわたしの、せめてもの恩返し、といったところか?
 休みのうちに、そんな本のリストを作ってみてもよいな、と思っている。しかしまあ、その暇があれば次の本を読みたくなるわたしであるから、実現するかどうか。

●象のはな子さんのことを、HPのEtceteraにアップした。


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