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2004年02月14日(土) この地の思い出。浮浪者まがいの女とミカンと深夜コンサート。

●今滞在中の街には、ちょっとした思い出がある。
 酒によって夜の街をふらふらしていたとき知り合ったストリートミュージシャンと過ごした場所を、今日散歩していたときに通りかかり思い出す。3年半前のことだ。当時の日記を開いてみると……。

【10/2/Mon 浮浪者まがいの女とミカンと深夜コンサート】

 ばたばたで開けた初日よりも2日目はリズムのある良い出来。これがこの地の千秋楽でもあるので、2日落ちもない。観客は1回目のカーテンコールからスタンディング。6回で止めてキャストを楽屋に戻した後も拍手が鳴りやまない。とにかく大盛況で幕を閉じたのでした。
 終演後、残務を終えて、はじめてキャストの宴席に顔を出す。出した時にはもう席は盛り上がりの山を3つくらい越えていて、さすがのわたしもノリについていけない。ビールと日本酒をクイクイッとおとなしめに飲むと、酔いのまわるのの早いこと。
 3時過ぎに先に席をたち、ホテルを目指した。目指して歩いたものの、方向感覚のないわたしは目的地に向かって歩くということが苦手。ふらふら夜の街を徘徊しているうち、自分がどこにいるかわからなくなる。仕方なくタクシーに乗ったら、新米の運転手さんで、2メーターほど走ったあげく、そのホテルは知らないと言う。納得のいかないままお金を払い、また知らない場所に降り立った。自棄になって再び歩き始めた時、男の人に呼び止められた。わたしの顔に「迷っています」と書いてあったのか。行き先を聞かれて、親切にも送ってくれると言う。とても悪い人には見えなかったので(わたしはこういう自分の勘を信じていて、間違った例しはない)話をしながら夜なお明るい街を歩き出す。
 彼は近くの目抜き通りにあるロイヤルホスト前で毎夜歌い続けているストリートミュージシャンであるらしく、近くに止めてあった車からチラシなど持ってきてくれて自己紹介をしてくれる。
「歌を聴く?」と聞かれ、「聴きたい」と答える簡単な流れで、ホテルの前の公園に於いての深夜コンサートが始まった。コンビニで仕入れたアイスクリームだのジュースだのカップラーメンだのを囲んで。客はわたしのほかにもう一人。彼のファンであるらしい夜の飲食店勤め風の男の子。黒いズボンに白のカッターシャツ。胸ポケットには赤と黒のボールペン。前歯が一本抜けている。ファンが高じて彼の手伝いを仕事の後にしているらしく、「ピック!」「ハープ!」「(カップラーメンに)コンビニで湯いれてくれよ!」などといった言葉にかいがいしく応えている。彼がギターでイントロをかき鳴らし始めるたびに、「これ、好きなんすよ!」と、まだ子供っぽい目を輝かせる。
 風貌からロックを想像していたら、曲は真っ直ぐなフォークロック。伸びのあるしゃがれ声に力があって、歌声にうるさいわたしが満足して聴き始めた。水商売の外人ばかりが目立つ薄汚れた公園だったけれど、彼が背負っていた噴水が時折水しぶきと音を立てて噴き出し、ちょっと悪くなかった。
 何曲くらい演奏してくれたのだったか。途中で心地よく地べたに寝転がって聴くうち、浅い眠りに落ち、夢の中で、最近発売したCDのタイトルソングというのを聴いたのが最後だった。
 コンサートが終わると、ホテルの場所が分からないままに歩いていたわたしのことを「さっき歩いてる姿、浮浪者みたいだったよ」と彼は言った。「眠ってない顔してるし、疲れた顔してるし、行き先知らずの歩き方してるし」とも。そして「そういう時はビタミンCをとった方がいいな」とコンビニに入り、青いミカンを買ってくれた。
 
 ホテルに着いたのが6時半。11時にチェックアウトして劇場入り。バラシ終了を待って大阪に移動。今は梅田のホテルの一室で書いている。
 明日からまた眠れない日々の始まり。繰り返しの毎日。
 それでも、昨夜のようなちょっとした事件が生活に紛れ込んだりする。面白いものだ。

+++

●うーん、これは実に楽しい夜だった。あとで周りの人間に話したら、知らない男について行ったこととか、公園の地べたで平気で朝まで寝たこととか、さんざん馬鹿にされたけれど、そうかなあ……?
 初秋の気持ちの良い夜に、気のいいシンガーと彼に憧れるヤンキー坊やの3人で、カップラーメンをすすりながら夜通しコンサート、そのまま夜空の下で眠り、朝日の下で目覚める。……最高じゃない!

 彼はもうその場所では歌っていない。HPをのぞいてみたら、もうCDデビューして、地元のライブハウスとかラジオで活躍しているらしい。あの場所でまだ歌っていたら、訪ねていくのだけれどなあ……。


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