こしおれ文々(吉田ぶんしょう)
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| 2012年03月31日(土) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第13話『大学生が殺された日その�Α� |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第13話『大学生が殺された日その�Α�
振り下ろしたバットが彼の後頭部に当たり 私の手首に いままで受けたことのない衝撃が走る。
私が殴ったというより 逆に私の手首が殴られた感じ
この重くて鈍い衝撃は しばらく手首からなくならなかった・・・。
ゴム製品を捨て 服も着ないままタバコに火をつけた彼が、 私に言い放った一言。
『もう来ない』という私の意思表示に対する一言
だらしない背中から聞こえてきた一言に 私は立ちくらみのような感覚に襲われたじろいだ
しだいに速くなる鼓動。
慟哭とともに私の肺に入ってくる酸素は タバコの煙とセックスの臭いに汚されていた
彼と出会い、最初は【興味】だった彼への気持ちは 【慈愛】へと変わり、 体を重ねた分だけその深みを増していく。
騙されていたことに気づき、 それでもまだ【同情】で踏みとどまっていたのに この一言によって 少しずつその風貌を変えていく。
背中を小刻みに震わせケラケラと彼が笑い、 品のない声が部屋中に広がる
顔を向けていないのに、 背中しか見えていないのに、 彼の薄ら笑いが私には見えた
そのとき私の中で何かがはじけ、 傍にあったバットを手にする。
手首に衝撃を受けたあと、 彼の背中はゆっくりと横へ倒れ込む。
左に90度傾いた体は 床の上でヒクヒクと痙攣していたが しばらくして動かなくなった。
笑いながら小刻みに動いていたあの背中 部屋に充満する薄汚れた空気の味 セックスを終えたあとの独特の臭い そして彼の一言
この部屋に漂うすべての薄汚れた感覚が 私の五感にこびりつく。
アンタガヒーヒー喘イデル画像ヤラ動画ガ 高ク売レタトコダ アンタカラモラワナクテモ シバラク不自由シネーヨ
世ノ中ニハ イロンナ趣味ガアルカラ アンタミタイナオバサンデモ マダマダ利用価値アルンダヨナ
ストックナクナッタラマタ撮ラセテヨ アンタモソレデ気持チ良クナレルンダシ ツギカラハ分ケ前ヤルカラサ ケラケラケラ・・・ ケラケラケラ・・・ ケラケラケラ・・・ ケラケラケラ・・・。
| 2012年03月30日(金) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第12話『大学生が殺された日その�ァ� |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第12話『大学生が殺された日その�ァ�
私が見てしまったことを告げると 彼は明らかに動揺した。
いろんな理由で正当化していたけれど それがつじつまの合わないことは 彼が一番わかっていた。
私は彼に告げた。 全てを終わりにしたいと。
貸していたお金もいらない。
二人の関係が知られないうちに このまま誰も傷つけないうちに終わらせなきゃいけない。
彼は私を引き留めた。
本当に必要なのは 遊びで付き合っている高校生ではなく私の方だとか、 不倫でも家族には決して迷惑かけるつもりはないとか、 心から感謝し 私のことを本当に必要にしているとか・・・
とにかく女性が喜びそうな言葉を 思いつくだけ並べているようだった
でも結局私には 彼が必要としているのが私自身ではなく、 私が持つお金であることを拭いきれなかった。
いつまでたっても折り合いは付かず、 彼はしだいに言葉ではなく、 体で説得し始める。
たくましい腕が私の体を包み込む。
抱きついた腕は私の体を囲むのに十分な輪を作り 必死に離れようとしても 決して逃がしてはくれない。
網にかかった魚のように 私は自分の意思とは無関係に床に押し倒される。
彼の口唇が鎖骨から首筋に沿って 耳の方へと這っていく
何十回と体を合わせた結果、 彼が学んだ私の弱い部分。
彼にとって 【別れさせないための説得】は 【私の弱い部分】をひたすら責め続けること
【弱い部分】が【喜ぶ部分】だということを知っているから。
言い方を変えれば 【喜んでいた部分】を責めれば 【気持ちがなくても喜ぶ】と勘違いしているということ。
これが、 私が経験したなかでも 【2番目に気持ちの良くないセックス】となる。
私はただ天井を見上げていた。
私と天井との間にいる彼は ひたすら前後に動いていたが、
彼の目を見る気にもなれず、 天井にある模様を数えていた。
しばらくして、 ゴム製品の中で果てた彼は、 形式張った口づけをしてそそくさと抜き取ると ゴム製品を外してゴミ箱に捨て、 服も着ないままタバコに火をつける。
私に見えるのは だらしのない男のだらしのない背中
出会った頃はそのだらしなさが可愛かったのに いまはただ悲しく見える。
タバコの煙と セックスの臭いが充満する狭い部屋で 私はもう一度彼に告げた。
『もう来ないから・・・・ごめんね。』
| 2012年03月29日(木) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第11話『大学生が殺された日その�ぁ� |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第11話『大学生が殺された日その�ぁ�
今月また遠征あるんだけど バイト代が学費で消えちゃったんだよね お願いしてもいいかな・・・10万くらい
『今月3回目だよね さすがに私の貯金もなくなってきたし・・・ 先月だって返すって言ってたけど まだだよね』
来月になればバイト代入るから返せるし なんとかお願いできないかな 先月分もまとめて返せるんだよ〜 ね?だからお願い
『しょうがないな〜・・・わかった。 いつまでに用意すればいいの?』
こうしてまた、 私は彼の甘えに負けてしまう。 本当に返してくれるなんて思ってない きっとまた甘えた声で 彼は返済を先延ばしにするのだろう
性的な欲望を解消させ、 必要なときに必要な分の資金を与える。
彼にとって都合のいい存在
もうそろそろ この関係も終わらせなきゃいけない時期かもしれない。
いまならまだ戻れる。 いまならまだ 誰にもバレずに 私だけの秘密で終わらせることが出来る。
裏切った事実は消すことが出来なくても、 夫に知られずに、子どもを悲しませることなく 彼と出会う前の生活に戻ることが出来る。
そんなことを考えていたある日、 買い物途中の私は偶然見てしまう。
仲良さそうに歩く若いカップル。
女性の方は今どきの高校生。 体格のいい男性の腕に寄り添い 楽しげに会話しながら歩いている。
男性の方は髪は短めで 顔は少し日焼けしていて いかにもいまどきの大学生。
野球部に所属していて 今日は私があげたお金で遠征に行っているはずの男性・・・。
そう。彼だった。
彼は高校生との会話に夢中で、 後をつけられていることにまったく気づかない。
二人はお店に入り 彼女のものと思われる服を買い、 食事をして、 ホテルへ入っていく。
ホテルに入るまでの買い物や食事は 見覚えのある財布から支払われている。
いつも私が手渡したお金を入れるあの財布。
今日だけのことなのか これまで渡したお金が全てこんな使われ方をされてきているのか
どちらにしろ 私が騙されていたことに変わりはなく、 それでも なんの疑いもなく彼に援助していた私にも 当然非があるわけで、 彼が素直に謝ってくれるのであれば、 これまでのことを全てなかったことにして 彼との関係を終わりにすることが出来るのかもしれない。
そう思っていた。
そんなとき私のケータイが1件のメールを受信した。 【夏美さん】からだった。
なんてことない内容だったけど、 私が落ち込んでいるとき、 いいことがあって誰かに教えたいとき、 私の喜怒哀楽の境目に いつも夏美さんはタイミング良く現れ、 そして私の気持ちを共感してくれる。
極端な言い方をすれば 私のことを監視しているのかと思うくらい 彼女はタイミングが良かった。
今日見てしまったこともきっと相談してしまう。 ほかに相談相手のいない私にとってとても大切な人。
それが夏美さんだった。
| 2012年03月28日(水) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第10話『大学生が殺された日その��』 |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第10話『大学生が殺された日その��』
『毎日練習あるとなかなかね・・・。』
あるとき 彼が私に弱音を吐いたのがきっかけだった。
彼は大学で野球部に所属していた。 ただ、特待生として入学していない彼は、 遠征費やその他用具の費用を自己負担しなければならない。
ご両親からの仕送りだけでは間に合わず、 とはいえ夜遅くまで練習するのでバイトするヒマもない。
『これ、少しだけど足しにして』
最初は驚き、受け取ろうとしなかったが 最後は私の押しに負けて受け取ってくれた。
その日を境に、 私は定期的に彼に援助していく。
これといった趣味もなく、 学生時代の友人とも いまとなっては1人か2人ぐらいしか 付き合いのない私にとって、 自分自身へのお金の使い道はほとんどなく、 へそくりという名目で ただただ貯め込んでいるだけ。
そんな面白みのない私より 彼に役立てた方がよっほど有意義だと思う。
夫の稼いでくるお金で 何不自由なく、 なあなあに生きている私より 一生懸命野球に情熱を注いでいる彼の方が よっぽどこのお金に値する人生を送っているように思えた。
ときどき彼のアパートで料理を作ったり、 彼の誕生日には 欲しいと言っていた金属製のバットを買ってあげ、 遠征に行くときは、その旅費を援助した。
私は彼に出来るだけのことをした。
彼の役に立っている。 彼が私を必要としてくれる。 彼が私に笑顔を見せてくれる。
私はそれだけで幸せな気持ちになれた。
何も見返りを求めず、 ただ野球に専念してくれればいい。
それだけでよかった。
これが一生続かないことなど 私にだってわかっていた。 一生続かないにしろ、 本当に彼の役に立っているのなら、 私はそれでも良かった。
けれども彼は私を騙していた。 最初から私を騙すつもりで近づいていた。
役に立っていたには違いはない。 ただそれは 彼が遊ぶ目的のお金として役立っていただけ。
彼の野球への情熱が本当であれば、 きっと何も起こらなかった
きっと彼は死なずに済んだ。
きっと私は犯罪者にならずに済んだ。
そう。
彼の野球への情熱が本当であれば、 私が買ってあげた金属製のバットは 彼を殺すための凶器にはならなかった・・・。
| 2012年03月27日(火) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第9話『大学生が殺された日その�◆� |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第9話『大学生が殺された日その�◆�
○○さんですよね?
待ち合わせ場所で私に声をかけてきた男性は どこにでもいる普通の大学生だった。
正直ホントに来てくれると思ってなかったんでうれしいっす
髪は短めで 顔は少し日焼けしていて いかにもいまどきの大学生だったけど 体は服の上からでもわかるほど引き締まっていた
『はじめまして・・・よろしくお願いします』
よろしくお願いしますって そんな緊張しないでくださいよ こっちまで緊張するし
『えぇ・・・すいません。 こういうの初めてでどうしていいのか』
こちらこそよろしくお願いしますね べつに悪いことしてるわけじゃないんだし 普通に楽しみましょうよ
とりあえず飯でも行きません? 俺、朝からなんも食ってないんで
こうして私たちは出会い、 そしてその日のうちに関係を持ってしまう。
世間で言うところの【不倫】であり 出会ったきっかけが ケータイの【出会い系サイト】であることで 最初は夫や家族への罪悪感にさいなまれる。
そもそもケータイの【出会い系サイト】を利用する人なんて 一般人とはまったく別の汚らわしい人種をイメージしていた。
ただ私の前に現れた人はどこにでもいる普通の大学生。 見た目どころか、考え方も行動もまったく普通の大学生。
退屈なほど自由な時間があり、 社会に対して責任がなく、 有り余るほどのエネルギーを持ち合わせている。
主婦である私がこれまで失ってきたもの、 【若さ】という言葉に要約される全てを彼は持っていた。
そして、そんな彼と一緒にいるだけで、 私は失ったものを取り戻した気持ちになれた。
私の中で、【罪悪感】が【罪悪感】ではなくなり、 緊張感から生じる【冒険心】と変わっていく。
年下の男性が持つ可愛らしさは みごとに私の母性本能を刺激し、 彼のわがままに困りつつも、 それに応えていくことに私は幸せを感じてしまう。
彼の求めるもの・・・ それが体であってもモノであってもお金であっても 私の出来る精一杯のものを与え続けた。
求めるものは次第に大きくなっていて 気づかぬうちに私は深い沼の底へと落ちていった。
口の中に泥水が入り込んで はじめて自分が溺れていることに気づき はい上がろうとする頃には 掴めるところはなくなっていて もがき苦しみながら 自分の過ちを悔やみながら沈んでいく
深い沼の底にあるもの まっ黒な闇の中にあるもの
それが、私が人を殺したという事実。
| 2012年03月26日(月) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第8話『大学生が殺された日その� � |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第8話『大学生が殺された日その� �
それはもちろん悪い夢なんかではなく 決して逃れられない現実だった
今日私は人を殺した。
ふと気づけば 彼の後頭部から流れ出した血は私の足元まで広がっていた。 私にはその血液が津波が迫っているように見え 逃げようとしても体が言うことを聞かず 2、3歩たじろぐだけだった。
手にはまだあの鈍い感触が残っていた。 彼に言われた一言に逆上し 思わずそばにあったバットを手に取り、彼の頭に振り下ろした。 私に背を向け ケラケラと品のない声で笑っていた彼はそのまま横に倒れ、 スリッパで叩かれたゴキブリのように少しの間体をヒクヒクとさせたが、 時期に動かなくなった。
『逃げて。この部屋にある私の指紋をすべて拭き取って逃げるの。 私と彼をつなげるものはないの。 逃げればきっと誰にもバレずに済むから』
動揺する私に冷静な私が逃げろと言う。
下着のままだった私は自分の服を着て、 凶器となったバットはもちろん、 自分が触った家のモノから指紋を拭き取り、 布団の上やベッドのまわりにある自分の髪の毛を拾い ティッシュにくるんだ。
最初は動揺していたが髪の毛を拾っている頃には 思った以上に落ち着いている自分がいた。
『大丈夫。私と彼の関係がわかる訳ない。』
自分にそう言い聞かし、 洗面台の鏡でボサボサな髪をクシでとかした。
最後に、彼がゴミ箱に捨てたコンドームを取り出し、 またティッシュにくるんで、 髪の毛をくるんだティッシュとともにバッグに入れた。
私は玄関の扉を開け、外に誰もいないことを確認すると、 彼の部屋から出てエレベーターを使わずに階段で一階まで降りた。
そして平静を装いつつ足早に駅へ向かって歩き出した。
ホームで5分待ち、 到着した電車に乗り込むと30分程度でいつもの駅に着いた。
駅前にあるいつものスーパーで買い物し、 いつもの道を通って自宅へと向かう。 途中バッグから丸められたティッシュを取り出し コンビニの自動ドアの横にあるゴミ箱に放り投げた。
自宅に到着し玄関を開けたとき、子供が私に笑顔で駆け寄る。 『ママ、おかえり』
その屈託のない笑顔を見たとき暖かい安堵感に包まれ、 今日私が背負った大きな罪が少し軽くなった気がした。
きっとバレやしない。 いいえ。この子のためにもバレるわけにはいかない。 きっとあれは悪い夢。私はいつもの生活に戻ったの。
そう言い聞かし、子供と戯れながら、買い物した荷物を片手に台所へ向かった。
でもそれはもちろん悪い夢なんかではなく 決して逃れられない現実。
今日私が人殺しとなった現実。
| 2012年03月25日(日) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第7話『しなやかな景色』 |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第7話『しなやかな景色』
太陽から降り注ぐ光は海を黄色く染めようとする。波はしなやかな動きで黄色を飲み込み、また深い青を取り戻そうとする。繰り返される海と太陽の駆け引きは私の中に渦巻く収拾のつかない感情をほんの少しでも和らげてくれる気がした。憎悪、恐怖、絶望、悲嘆、後悔、憎悪、恐怖、絶望、悲嘆、後悔、憎悪、恐怖、絶望、悲嘆、後悔。大きな渦の中でもがき苦しむ私を、目の前の景色は慰めているように思えた。もう十分苦しんだよね。こっちにおいでよ。そう言ってくれている気がした。シートは今ごろ真っ赤に染まってて、それを見た瞬間、きっと私は死ぬことをためらってしまう。臆病な私はきっと誰かに助けを求めてしまう。だから海を眺めていた。このしなやかな景色をぼんやりと見つめている。 カミソリの刃が皮膚を貫いたとき、筋肉の繊維一つ一つを切り裂いていくとき、そして体温より温かい液体が溢れ出したとき、私は不思議と痛みを感じなかった。痛みが生きていく上で必要不可欠なものであるとするなら、私はもう『人』であること、『生き物』であることを否定されたのかもしれない。仮に否定されていないとしても、私は【人間】として【してはいけないこと】をしてしまった。
一週間前、彼を殺していなければ
二ヶ月前、彼をこの車の助手席に乗せていなければ
三度目のチャットサイトで夏美さんに出会っていなければ・・・
この中の一つでも欠けていれば私は前と変わらない幸せな生活を送っていたのかもしれない。
もう時間は戻せない。
もう引き返すことは出来ない。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんな…
薄れていく意識の中で、 私は何度もこの言葉を繰り返した。
海と空の境目がわからなくなっていく
景色の中にあるたくさんの色が一つになっていく
死ぬとは色を失っていくことだと知ったとき
右手に握っていたカミソリが 小さな音をたて足元へと落ちた
| 2012年03月24日(土) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第6話『必要なもの』 |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第6話『必要なもの』
大学生殺害の重要参考人だった35才の主婦は 容疑者となり書類送検されることとなった。
その後の捜査で 死体解剖により大学生の性器から 別の人間の体液が検出され、 主婦のDNAと99.98%の確立で一致した
家族は最後まで無実を訴えたが 犯行現場となった大学生の部屋から多数検出されたの指紋、 99.98%同じDNAの検出、 この2点から結果を覆すことは困難であった。
結局二人の関係はわからないままだが、 テレクラにデリヘル、 素性を知らない者同士が出会い、 性行為に及ぶルートはこのご時世ではいくらでもある。
警察の見解は以下のとおり。
被害者は自宅に容疑者を招き入れ性行為に及ぶ。
行為後、何らかのきっかけにより主婦が逆上し、 被害者は鈍器のようなモノで後頭部を強打され、 まもなく死亡。
容疑者は逃走し、いつもどおりの生活を送るが、 罪悪感にさいなまれ事件から一週間後、 自ら命を絶った。
状況証拠ではあるが特段筋道に問題はない。
また、主婦の保有していた口座を調べた結果、 最高で二百万円程度あった残高が ここ2ヶ月の間に数回にわたり数十万円単位で引き落とされ、 残高がほとんどなくなっている。
ギャンブルもしくは衝動買い等により貯金を使い果たし、 困ったあげくに風俗もしくは売春で工面しようとしたが、 客として出会った大学生を殺害してしまった。
筋は通っている。 筋は通っているのだが、 今ひとつ腑に落ちない。
言い方を変えれば、 筋が通りすぎているのだ。
警察の見解では突発的で無計画な殺人となっているが、 まるで主婦が大学生を殺すためのストーリーが 事前に出来上がっていたかのようだ
【誰かが主婦を殺人犯に仕立て上げた】という可能性も 決して否定できない。
現に大学生の後頭部を正確に2回殴った謎は いまだ明かされてはいない。
しかし、主婦と大学生を繋ぐ糸が見えない以上、 その糸を繋いだ【誰か】を見つけだすのは到底不可能である。
結局いまの私に出来るは、 主婦が犯行に及んだ経緯を 【筋が通りすぎている】と思わないことだけである。
なぜなら、 私を含めた『警察という組織に必要なもの』は、 犯行に及んだ経緯に【論理的に問題のない犯人】だけなのだから。
| 2012年03月23日(金) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第5話『重要参考人』 |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第5話『重要参考人』
友人から大学生殺人事件の話を聞いてから 数日たったある日、 私は再び友人に呼び出された
『忙しいところ悪いな』
彼の顔を見てすぐ、 明らかにいつもと状況が違うことがわかった。
『いきなりどうした?今月は負け込んでるから金ないぞ』
借金の話じゃあない この前話した大学生が殺された事件覚えてるか?
『あぁ、不思議な事件ってやつだろ。 犯人は見つかったのか?』
犯人とは決まっていないんだが、 重要参考人であることは間違いないな 『ふ〜ん 俺を呼び出すことと関係あるのか? そういや指紋があるんだよな 重要参考人ってのはその指紋の持ち主か?』
あぁそうだ 警察本部のデータにしっかり残ってたよ ただしすでに死んでるんだよ
『なんだ 生き返って殺したとでも言いたいのか? まだホラー映画の時期じゃないぞ』
都内に住む35才の主婦だよ この前○○海岸で自殺してるけどな
『おい!それってまさか・・・』
そのまさかだよ 犯人だとしたら大学生を殺して一週間後に自殺ってことか
『主婦とその大学生につながりはあるのか? 知り合いなのか?親戚って事はないだろ? そもそも大学生を殺す動機はなんだ?』 いいから落ち着けよ それを今から調べるんだろ 被害者が持っていた携帯電話に主婦の番号は登録されてないし 電話会社に問い合わせたところ電話かけた履歴も残ってない 現時点で被害者と主婦のつながりはわかってはいない
『その辺の主婦がなんらかの衝動で殺したとすれば 指紋がベタベタ残るような素人くさい犯行現場の状況も つじつまが合うってことか』
なおかつ衝動的で無計画な犯行であるからこそ 犯行後精神的に追いつめられ、挙げ句の果てに自殺した あくまで状況証拠でしかないけどな
昨日まで普通の生活を過ごしていた主婦が 理由もなく面識のない大学生を殺すわけがなく、 そこには必ず両者をつなぐきっかけと 大学生殺すに至った動機があるはずである。
この国の1/4の人口が住むこの街で いままで交わることもなかった糸が 突然何らかのきっかけにより交わることがある。
その交わりが引き起こす犯罪は 結局は私利私欲から生まれる憎悪や遺恨がもたらす。
つまり、一見すればただの偶然でしかない事由は 私利私欲からの必然的な結果でしかなく 神がかった【運命】とはまったく別次元なのである。
ただし、その必然性の中で 初めから二人の行く末を全て操っていたとするならば 【夏美】とはある意味神に近い存在であるのかもしれない。
| 2012年03月17日(土) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第4話『同業他社』 |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第4話『同業他社』
管轄外の事件なんて【同業他社の営業活動】でしかない。
よっぽどの凶悪犯罪や 人手不足による協力要請でもなければ 殺人事件であってもニュースで知る程度である。
要するに管轄外の事件に対しては 私も一般人となんら変わりないのである。
ただ、隣県で起きた大学生殺人事件は 古くからの友人が担当していることから少しばかり情報が耳に入っていた。
【どこか不思議な事件】
それが事件に対する友人の感想である。
犯行現場に争ったような形跡はない まあ大学生にありがちの汚い部屋だ いかがわしい本やDVDが散乱してた それも全部女子中高生モノ 被害者は相当なロリコンで制服が好きだったようだ
犯行時間に大きな物音がなかったのは 隣の住人が証言している。
つまり被害者が犯人を自ら招き入れていることになり、 犯人は被害者の顔見知りである可能性が大きい。
通帳やクレジットカードは残されていることから 犯人の目的は金銭ではない。 そもそも通帳の残高見れば犯行を犯す気もなくなるしな
『恨まれてたってことか?』
そう・・・だよな
『なんだ。もったいつけやがって ほかに何かあるのか?』
鑑識が言うにはな 致命傷となった後頭部が どうやら2回殴れた可能性があるらしいんだよ
『2回?別に不思議でもないだろ 1回で死ななかったからもう一度殴った。』
その2発目が寸分の狂いもなく1発目の傷に当たってるんだよ ただ【息の根を止める】という目的だけなら そこまで正確なヒットは必要ないだろ?
『マメな性格なんだな』
それがそうでもない。
犯行現場の状況からすれば計画的ではないだろうな 多少指紋を拭き取った形跡はあるものの 全てを拭き切れてはいない それはそれはお粗末なもんだ
そもそも殺すつもりがなかったから 自分がどこを触ったかを把握していない 素人の衝動的な犯行の典型だろ
だからこそこの正確な2発目が矛盾してくるんだよ パッと見じゃあ専門家でも見逃してしまいそうなくらい 正確に殴っているらしい
『まぁ確かに不思議だな でも指紋は出てるんだろ 被害者の近辺当たればすぐ見つかるだろ』
まぁ、それならいいけどな
そのときはまだ気にもしなかった 寸分の狂いもない2発目の本当の意味。
その後の捜査で被害者の近辺から指紋が一致する者は現れなかった。
近辺からは出なかったのだが、 その指紋の持ち主は意外なところで判明する。 しっかりと警察のデータベースに登録されていたのだ。
糸の両端は 大きな暗闇のなかで繋がっていた。
いや・・・ 正確にはいままで独立していた2本の糸が 何者かに意図的に結ばれたという言い方が正しいのだろう。
そしてその結び目に【夏美】はいる。
| 2012年03月16日(金) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第3話『助手席』 |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第3話『助手席』
『少し疲れてるのかなとは思っていました。』
ソファに座る夫は、顔を伏せながら答えた。
でも・・・前にもこういうことがあったんです。 元々、真面目というか、思い詰めるタイプというか・・・ ちょうど1週間くらい前からひどくなってきて 夜、うなされていたり・・・よく眠れていなかったようです。 それでも子ども達にはいつもどおり接していましたし 気にはしていましたけど、 僕にはそっとしておくぐらいしかできないんで・・・・
まさか・・・こんなことになるなんて・・・
『遺書には一言【ごめんなさい】とありますが ケンカとかあったんですか?心当たりは?』
仕事が忙しくて育児を手伝えないってことで 最近何度かもめたことはあります。 と言っても私自身は夫婦げんかというほどの感覚はありません。 口論というか・・・ましてや自殺する程のこととは
主婦が死ねば、 たとえ自殺が明らかであっても まずはその夫を疑ってかかる。 しかし、夫には確固たるアリバイがあった。 ちょうどそのとき、会社で打合せをしており、 一歩も会議室から出ていない。
証言しているときの夫の落胆した様子から見ても けっしてウソには聞こえない。
その日、 亡くなった主婦は実家の母親に子ども達を預け、 その足で現場の海岸に向かい、 車の中で手首を切ったものと思われる。
車はロックされ、カギは車内に残されているため、 スペアキーがなければ犯行は不可能。
手首を切ったとされるカミソリには 本人以外の指紋は検出されていない。
99%自殺だろうと思われるこの事件、 しかし、私には一ヵ所だけ気になる点があった。
『旦那さん、ここ最近あの車に乗りました?』
いや・・・乗ってません。 最近忙しくて疲れているんで 休みの日も妻と子ども達だけで出かけて 私は家でゴロゴロしてることが多いです。
『仮に旦那さんと奥さんが一緒に乗るとき、 運転するのはどちらですか?』
私が一緒のときは運転するのはほとんど私ですね 妻は運転が下手とは言いませんが 知らない道の運転は敬遠しますから いつも買い物するスーパーとコンビニ、 あとは彼女の実家とぐらいだと思います。 それが・・・なにか?
『いや、たいしたことじゃないんですけどね 知らない道を敬遠する奥さんが よく現場の海岸まで運転したと思いまして』
あそこは妻の思い出の場所なんです。 学生時代に付き合っていた彼氏とよくデートしたと 聞いたことがあります。 車で行ったことがあるかはわかりませんが 彼女の実家からもそう遠くありませんし・・・。
『わかりました。ありがとうございます。』
私が気になっていたのは、 事件が起きた場所のことではなく、実は車の助手席だった。
現場に残された車の助手席は、 運転席から見て少し後ろの位置に下がっていたのである。
普段、夫が一緒に乗るときは運転するのはほとんど夫であり、 助手席の位置が運転席より後ろにある必要はない。 奥さんが運転するとき同乗するのは子ども達のため、 なおさら後ろに引く必要はなくなる。
つまり、【亡くなった主婦よりも体格のいい人間】が 事件当日もしくはその前に助手席に座った可能性がある。
【亡くなった主婦よりも体格のいい人間】
無論、男性・女性どちらの可能性もあるし、 たまたま大きな荷物を運ぶために 助手席を後ろに引いた可能性もある。 子どもが助手席に座っているときイタズラに動かした可能性もある。
あらゆる状況が考えられる中で、 直接事件に関わっているとは今の段階では言えない。
今の段階では、 ただ【運転席より助手席が後ろにあった】という事由でしかない。
| 2012年03月15日(木) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第2話『小さな機械』 |
吉田サスペンス劇場【夏美】 第2話『小さな機械』
国民の二人に一人が持っている携帯電話。
電話でありながらも その機能は電話にとどまらずメールやインターネットも可能である。
また、各社の競争が激化したことは料金面への影響が大きく、 小中学生でも所有者が増加。 さらなる普及率の増加をもたらした。
いまや携帯電話は【ケータイ】という 電話機とはまったくかけ離れた 別の機械としてその地位を確立している。
ただし、それにより ケータイを使用した犯罪も増加の一途を辿ることになる。 機能面の充実化は犯罪の多様化をもたらし、 急速な犯罪進化に法律が追いつかないのが現状である。
コードがなくどこにでも持ち運べるケータイ。
その小さな機械に 使用者のプライバシーの全てが含まれていると言っても 過言ではない。
一見、自分が持っている限り そのケータイに盛り込まれているプライバシーが 外部に漏れることはないと思いがちであるが、 それは大きな間違いである。
容易に所有可能となり、 大多数の人間が手にしているケータイは、 実は目に見えない糸でつながっていて、 個人のプライバシーなんてものは あっけないくらい簡単に 外部の人間が手に入れることができるのである。
ケータイ自体がなくしてしまったとしても、 使用した履歴はハッキリと刻まれ、 一本の糸を引くことにより 芋づる式につるし上げることが可能。
たかが履歴と思うかもしれないが、 その履歴こそが、 その人の人間関係はもちろん、人格や社会性、 さらには潜在意識に眠る本人すら気づいていない欲望さえも 鮮明に表してしまう。
2つの事件・・・いや、亡くなった主婦と大学生の二人も その見えない糸で繋がっていた。
少し引っ張っただけでは全く手応えがなくとも その糸は確実に二人を結びつけていた。
| 2012年03月12日(月) |
吉田サスペンス劇場【夏美】第1話『赤色の光』 |
この世に神様のような存在があり 全ての人生が彼の手により導かれた【運命】であるなら 私は彼に神ではなく映画監督を職業として勧めるだろう
様々な人間と様々な欲望・・・
偶然の中で必然的に交わり合い 必然の中で偶然的な結果が導かれた
【運命】という言葉で片づけられることなのか
いや・・・ 【運命】なんて 人間の自分勝手な責任逃れでしかない
【運命】という陳腐な小説があるならば 尊き生命を彼自身が軽視することになる
【運命】なんてない
だからのこそ 私はこの事件を生涯忘れることはないだろう
数年後には 誰もが忘れるであろうこの事件を・・・
吉田サスペンス劇場【夏美】 第1話『赤色の光』
都内に住む35才の主婦が 死体となって発見されたのは3ヶ月前のこと。
さらにその1週間前、 隣県に住む21才の大学生が何者かに殺された事件。
2つの事件は 当初まったく関係性がないものと見られていた。
というより、 この国における事件の発生頻度から見て たとえ隣県で同時期に死体が発見されたとしても、 まったく不思議なことではない。
管轄も違うため、 それぞれに捜査本部が立ち上げられ それぞれ捜査が進められていく。
主婦の死体に関しては 形式的に、自殺・他殺の両面から捜査することとしているが、 遺書もあり自殺と見て間違いはないだろう。
仮に自殺に至った経緯が明らかにならなかったとしても、 半年もすれば捜査がうち切られることは分かり切っていた。
意味もなく人生に落胆し、成り行きで自殺するケースは多々ある。 不可解な自殺を念入りに捜査するほど、 犯罪都市東京を管轄する警察はヒマではないのである。
しかし・・・ 捜査が進むにつれ、 次第に【糸】は見え始める。
普段は目に見えない赤外線が タバコの煙の中ではその存在をしっかりと示すかのように、 神々しい赤色の光は 確かに二人の人間を結びつけていた。
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