こしおれ文々(吉田ぶんしょう)

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2012年04月18日(水) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第30話(最終回)『雑木林』


吉田サス劇【夏美】(第3部)

第30話(最終回)『雑木林』



事態は急変した

探し求めていた少女は
変わり果てた姿となって
私の前に現れた

後輩の捜査員の話はこうだ


都内から数十キロ離れた雑木林で
山菜を採っていた地元の男性が
2体の遺体を発見し警察へ通報


一部白骨化して
顔の判別は出来ないものの
歯形を警視庁のベータベースで検索し
少女と父親のものと一致したため
うちの署に連絡が来ました


鑑識の結果では

その・・・。


後輩は説明をためらっていた

なんだ?
なんか問題でもあるのか?




問題・・・
はい、明らかにこれは問題だと思います。



なんだよ
もったいぶらずに教えてくれよ


わかりました・・・。


鑑識の結果を
後輩は渋々説明しはじめた



【運命】なんてない


様々な人間と様々な欲望・・・

偶然の中で必然的に交わり合い
必然の中で偶然的な結果が導かれる

【運命】という言葉で片づけられることなのか


【運命】なんてない

いや
仮にこの世に【運命】という事象があったにせよ


大学生と主婦の事件に限っては
【運命】とは言えない


全てが計算し尽くされ
全てが操り人形のように糸に繋がれ
その中で人形はどう動くかを決められていた



それが神によって作られた
道筋なのであれば
【運命】と呼べるのかもしれないが

この事件は
運命と呼ぶほど神々しいものではない


【運命】ではなく
【完全犯罪】なのだから



後輩は言った


鑑識の結果ですけどね
あの二つの遺体
死んでから確実に3カ月経っているそうです



はい そうです

彼女が警察署から自宅に戻ったのは
2週間前でしたね


わかりません


私たちが任意同行した少女は
一体誰でしょうね




吉田サスペンス劇場【夏美】  


〜完〜


2012年04月16日(月) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第29話『残務処理』




吉田サス劇【夏美】(第3部)

第29話『残務処理』



彼女が警察署を立ち去ってから
2週間が過ぎていた


依然として
彼女の足取りは掴めていない


両親は数年前に離婚しており
父親と二人だけで暮らしていることに
なっているのだが

住民票に登録されているアパートを訪れても
部屋の中は生活感がなく
数か月以上
人が出入りした形跡もない


【夏美】
そして本名は○沢○子という人間は
本当に実在しているのだろうか


私は諦められずにいた

実在していたとして
殺人の証拠がなく逮捕できない少女を

私は諦められずにいた

季節はもうじき冬になる
街並みを抜ける風は
薄手のコートでは頼りないくらい
冷たくなってきている


仕事でたまたま外出していた

大学生と主婦の事件は
明らかな行き詰まりを迎え
マスコミでも取り上げることがなくなり
捜査本部も
解散のための残務処理に入っている


当初捜査本部に動員した捜査員の
ほとんどは別の事件に回されてしまい
私もその中の一人であった


別の事件を担当し捜査をしていても
私自身明らかに新しい事件に対して身が入っておらず
消化不良のまま終わってしまった


大学生と主婦の事件
というよりあの少女のことが
忘れられずにいた



ふいに携帯電話が鳴りだした


液晶画面には私の仕事場の電話番号が表示されている

『もしもし あぁごくろうさま
 どうした?』


電話は大学生と主婦の事件で
捜査本部にまだ残っている後輩の捜査員からだった


『彼女が見つかった??』


『うん。父親とふたりでいる』

そのとき私のそばを路線バスが通り
エンジン音で後輩の声をかき消してしまった


『あ?ちょっと悪い 聞こえなかったから
 もう一回言ってくれ いまバスの音で・・・・』



『え?遺体が見つかったって誰の?』

『・・・・彼女と父親の』




2012年04月15日(日) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第28話『胸を抑える右手と諦めの悪い左手』



吉田サス劇【夏美】(第3部)

第28話『胸を抑える右手と諦めの悪い左手』


彼女が階段を下りきって1階に辿り着く

足元に向いていた顔は
正面の玄関に向かい


目を閉じ
いつもより長いまばたきで
目を開けたとき


ほんの一瞬

誰もが気付かないくらい短い時間で
口角は上がる

彼女は笑った。


2階から手すりに腕を載せ
彼女と父親が
階段を下りるのを
じっと見ていた私は

彼女の笑った顔を見た瞬間
すぐさま彼女を追いかけた


すれ違うときにぶつかり
驚いた様子で私を目で追う同僚たちに
謝る余裕もないほど
急いで私は彼女を追いかけた

吹き抜けでフロアの中心に位置する階段


ついさっき彼女が下りていった階段に
私は辿り着き

転げ落ちないよう
右手が手すりを撫でている

この年齢になって
私が出せる精一杯のスピードで
階段を駆け下りていく

いま捕まえなきゃ
もう二度と彼女に会えない気がした



やっぱり犯人は彼女だ

ただし【犯人】という言葉が
この場合当てはまるかどうか疑問だ


もちろん大学生殺しという意味では
【犯人】と言えるのだが


ネットの世界に迷い込んだ主婦と大学生から
金を巻き上げ
使い終わったら消し去ってしまうという
殺人を含めたこの完璧な計画

この計画を企てた【首謀者】という言葉のほうが
彼女には適していると言える。



警察に連行され事情徴収を受けることも

結果、
それが証拠不十分で不起訴となることも
彼女の計画のうちだった


転げ落ちることなく
1階に辿り着いた私は
玄関を飛び出すと


30m先に停めてあった乗用車に
彼女と父親が後部座席に乗り込んでいた



追いかける私を知ってか知らずでか
彼女を乗せた車は走り去った



右手は息苦しさで胸を抑え

届くわけもないのに
左手は肘が伸ばせる限界まで
彼女の乗った車を追いかけた


車のナンバーは控えたが
盗難車ということがわかっただけで
結局それ以降彼女の足取りは見つからなかった



彼女はどこへ行ってしまったのか


いまも【夏美】として
ネットの世界には存在しているのか



私は諦められずにいた


仮に目の前に現れたとしても
法律で捕まえることのできない彼女を



私はいつも思い出していた


1階に辿り着いたとき
ほんの一瞬見せた彼女の笑顔を






2012年04月14日(土) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第27話『階段を下りきったとき』


吉田サス劇【夏美】(第3部)

第27話『階段を下りきったとき』


『君が大学生を殺したんだろ?』


少女を逮捕するために
わざと自白させようと私は少女へ問いかけた


問いかけに対する回答までの時間



ほんの数秒の沈黙は
私と少女の心の距離が
いまだに遠く離れていることを
より一層感じさせる


【知りません・・・そんな人】



汚れなく透明感を持った頬が
若干左右に開き
白い前歯の奥から
少しイメージと違った嗄れた声が発せられた



自白しなかったことに
自分でも意外なほど驚かされた


あえて君が能力を使い
我々に対して
【自分が犯人であること】を
知らせている人間は
私の経験上ではあるが
犯人かどうかの問いに対し
あっさりと自白し

犯人まで辿り着く時間が
長かったなどと説教を始め
警察の無能さを上から目線で語り
挙句の果てに
自らのトリックを鼻高々に解説する


要するに
自分の能力の高さを自慢したくてたまらない
ナルシスとな人間が多い


しかし彼女は違う



自分が犯人であることを
我々に告げているにもかかわらず
私の問いに対し自白することはなかった


結局【大学生殺し】としては
連行することはできない


ただし少女は
違法に契約された携帯電話の
重用参考人であることには違いない


協力を要請し
任意同行として署へ連行することとなった


事情聴取に対し
違法契約の携帯電話については
多少なりに答えていたようだが

【大学生殺し】については
終始黙秘を貫き
拘留期間満了となった



違法な携帯電話に関しては
交際相手からもらい
親に隠れて
交際相手と連絡を取るために
使用していたが
違法であることは知らなかったという。


当然交際相手は
違法な携帯電話の売買及び所持等の
容疑で逮捕されたが、

彼女は
違法であることを知らず
未成年ということもあり
不起訴処分となった

結局はトカゲの尻尾切りが
行われただけで
本丸(彼女)の牙城を取り崩すどころか
大学生殺人事件に踏み込むことさえできなかった。



拘留期間が終わり
彼女が自宅へ帰る日がやってきた。


父親と名乗る男性が署に現れ
手続きを済ませ
彼女を連れて
玄関へと続く階段を下りていった。

階段を真横から眺める位置にいた私は
何も考えず
ただじっと二人を目で追っていた。



玄関のある1階まであと5段
・・・4段
・・・3段と

二人はうつむいているかのように
足元を見ながら下っていく。


彼女に声を掛けたあの日から
階段の最後の1段まで
彼女は表情を変えなかった。


それはむしろ
彼女が策士であることの
この上ない証拠だった。


警察に呼び止められ
警察に連行され
警察に拘留される


弱冠15歳の女の子が
表情一つ変えずに耐えうる状況ではない。


そんな彼女が
階段を下りきって1階に辿り着く

足元に向いていた顔は
正面の玄関に向かい


目を閉じ
いつもより長いまばたきで
目を開けたとき


ほんの一瞬
誰もが気付かないくらい短い時間ではあったが
口角が上がった


そう。

彼女は笑った。










2012年04月13日(金) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第26話『震える指先・長い沈黙』


吉田サス劇【夏美】(第3部)

第26話『震える指先・長い沈黙』


背中に
強烈な力が入っている

左手をポケットにしまい
指先が震えていることを
少女に見抜かれないようにした


背筋を一滴の汗が流れおちていく


数分前に少女に話し始めたときと
変わらないように

動揺していることを
悟られないように必死に堪えていた





ミリ単位で狂いなく
同じ場所を殴打する能力


この能力のおかげで
大学生の殺害を主婦になすりつけることができた


ただし
そんな芸当が
誰にでもできるものではないからこそ


大学生殺害の真犯人を狭めていることになる



確かに
主婦が殴打したあとに
ズレた位置を殴打したのであれば

体格の違いが傷跡に表れてしまうので
鑑識に見破られてしまう


でも大学生にとどめをさすのであれば
別に殴打にこだわる必要はない

絞殺でも刺殺でも
比較要素のない殺害方法であれば
主婦が殴打した後に
死に切れない大学生に
とどめをさしたとしか思われない



君の特殊な能力は必要がない


あえて君が能力を使ったのというのは
我々に対して
【自分が犯人であること】を
知らせようとしているとしか考えられない


今にも吹き出してしまいそうなくらい
全身が硬直し

堪え切れない衝動を
くちびるの裏側を噛むことで抑えつけた



犯人はこの少女で間違いはない

ではなぜ
少女が我々に知らせようとしているのか
そんなことはどうでもよかった


証拠がないのである


現場に少女がいたという痕跡はない
動機もなければ
大学生と関係があったことも立証出来ないのである



だからこそここで
少女が【私の問い】に答えることで
【自白】させ
それを証拠に
この少女を逮捕することができるのだ



『君が大学生を殺したんだろ?』



長い沈黙の後に
少女は初めて口を開いた




2012年04月12日(木) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第25話『少女の前に立ってから4話目』



吉田サス劇【夏美】(第3部)

第25話『少女の前に立ってから4話目』



職業として
長年製造業に携わってきた人は
手の感触で
数ミリ単位の加工を施すことができたり


幼い時から
そろばんを習っている少年は
頭の中でそろばんをイメージすることで
数十桁の暗算を可能にする


ミリ単位で狂いなく
同じ場所を殴打するなんて
超能力者のような
類まれな能力に聞こえるかもしれない



ただそういった能力を持っている人間は
決して少ないわけではない



その能力のおかげで
主婦を犯人に仕立て上げることができた




30年以上も前
君と同じ能力で
何度かマスコミに取り上げられている少女がいる


最初は世間を騒がしたが
結局は一過性の流行りで終わり
その後その少女が表舞台に登場することはなかった


時がたち
少女は成長し普通に就職

同じ職場で知り合った男性と結婚し
一人の娘を授かる

ただ不幸なことに
娘を出産と同時にその女性は病気で亡くなってしまう


そのとき産まれた娘は
父親に大事に育てられ
今年15歳の誕生日を迎える


それが君だ


君は母親から
【特殊な能力】を受け継いでいた


母親のようにマスコミに
取り上げられることはなかったが
物心ついたときから
自分の【能力】に気づき
仲の良い友達には手品のように披露していた



チンピラからケータイを売ったリストを没収し
リストにある人間を一人一人調べた

通常の捜査方法では
犯人はもちろん
犯人に結び付く手掛かりすら見つからなかった


困った私は
リストにある人間と
その周辺の人間をインターネットで
何気なく検索してみた


それでもたいした情報が得られず
半分諦めかけた中で

君の両親を検索したとき
30年以上も昔の
【特殊能力を持つ少女】の記事がヒットした



そしていま
私は君の目の前に立っている



もちろん物的証拠はなく
大学生殺しで君を逮捕することはできない

逮捕することが出来ないからこそ
私はあえて君の話が聴きたい


実はこの事件
もうひとつだけ【不自然な点】がある




君は


君はわざと
【自分が犯人であること】を
我々警察に知らせている


ちがうかい?



【糸】を手繰り寄せている実感はあった


ほんの少しずつでも
私と少女の距離は縮んでいる気がした

でもそれは
はた目では気づかないほど
小さな動きであって

たとえば少女の手を握るには
まだまだ遠い存在であることには
違いない


それでも

この小さな動きが
彼女を逮捕するための一歩と信じたかった



2012年04月11日(水) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第24話『大学生は二度殴られる』



吉田サス劇【夏美】(第3部)

第24話『大学生は二度殴られる』



不自然というより
最初は
ちょっとした疑問点にすぎなかった



大学生の致命傷となった後頭部の傷


検死の結果
当初殴られたのは1回と判断された



ただし
実は2回殴られていたことが判明

それはそれは
専門家でも見逃してしまうほど
正確な位置を2回殴られていたそうだ




2度目の殴打が
寸分の狂いもなく
1度目の傷と重なっているという事実


これが最後の【不自然】



ではなぜ寸分の狂いもなく
傷が重なっているのか



理由は単純


【一度目の殴打】が致命傷となって
大学生が死亡したことにしたかったため


ではなぜ一度目の殴打で
大学生が死亡したことにしたかったか


そう


一度目の殴打者と二度目の殴打者が
【別人】だから


つまり真犯人は
一度目の殴打者である主婦ではなく
二度目の殴打者ということ


そして二度目の殴打者である君が
大学生殺害の真犯人

・・・と私は思っている



もちろん


同じ場所を
寸分の狂いもなく殴ることが
そう簡単にできるわけがない



だからこそ警察は
【同じ場所を殴った】という事実を
捜査の中で重要視しなかった


肉体関係のある主婦が
凶器に指紋を残して
自殺を図れば
誰だって主婦が犯人だと思う



【同じ場所を殴れる人間】
そんな特殊な能力を持つ人間なんて
いるわけがない

単なる偶然

と判断したわけだ


そりゃそうだよな
仮に2回殴っていたところで
金属バットに指紋がなければ
物的証拠にならない



ただし・・・


そんな【能力】を持つ人間が
そうそういないのであれば

同じ場所を
寸分の狂いもなく
殴れる人間がほかにいないのであれば



それが【出来る人間】ってのは
裏を返せば
ためらうことなく【犯人】ってことになる




出来るよね


君なら





2012年04月10日(火) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第23話『性癖と通話記録』


吉田サス劇【夏美】(第3部)

第23話『性癖と通話記録』



この事件には
不自然な点がいくつかある

まずは大学生の話をしよう

大学生の部屋には
アダルトDVDやらいかがわしい本が散乱していた

そしてそのほとんどが
【女子中高生】ものばかり

そう

あの大学生の性の対象は
自分より年下ということになる


にもかかわらず
なぜ10歳以上年上の主婦と交際していたか

それが一つ目の不自然



性的欲求以外の目的があったと
考えるのが自然だ


つまり金目当て


ここ数カ月
主婦の口座からは
異例とも言えるペースで引き出されている


主婦の身の回りで
洋服や宝石類が増えた形跡が見られないことから
目に見えないモノとして
消費されたこと可能性が高い


ギャンブル・・・は考えにくいので

大学生へお小遣いとして渡ったと考えて
間違いはないだろう



主婦から金を巻き上げた大学生は
さぞ楽しい大学生活を・・・・


と言いたいところが
知り合いや大学生に周辺に聞いても
大学生の金遣いに変化はなかった


豪遊どころか
むしろ相変わらずの貧乏生活



可能性としては2つ

主婦から巻き上げたという考えが
間違っているか

もしくは

巻き上げた金が
【別の人間】に流れてしまっていたか

どちらが正解かは
言わなくてもわかるはずだ


別の人間というのはもちろん君のこと



ただこの二人

体の関係があるにもかかわらず
お互いのケータイに
連絡先が登録されておらず
通話した履歴もない


単に着信履歴がないだけなら
削除したことが考えられるが
電話会社の記録にも
この二人が通話した形跡がない


2つ目の不自然


一見すれば
この二人は連絡を取ったことがないとも言えるが


この状況下でそんなわけがない

要するに
連絡するときお互いのケータイを
使っていないというだけのこと

とても簡単な話

【連絡する】ことが
【自分のケータイ】を使うという
現代における既成概念に
警察はまんまと踊らされたわけだ



主婦には当然家族がいる

家族が家にいて
食事だなんだと面倒みる時間に
大学生と連絡を取ることは不可能


じゃあいつ連絡が取れる?


夫は会社
娘は幼稚園で
主婦が家に一人となるのは日中


中でも家事が一通り終了し
一息つける時間帯

午前10時から11時頃



この時間帯に
主婦が住んでいる地区と
大学生が住んでいる地区とで
ここ数カ月に複数回
通話した形跡があるか調べてもらった


電話会社も便利なものだよ


各々の地区から
【音声データ】が交信されたという記録が
しっかりと残っていたわけだ


【複数回】という条件では
けっこうな件数が抽出されてしまうが

【10回以上】ではだいぶ候補が絞られる


さらには
【所有者同士が見ず知らずの他人】となると
該当するのはたった1件ということになる


この意味はわかるよね


10回以上通話しているにもかかわらず
会ったこともない赤の他人


調べてみれば
二人ともホームレス


食い逃げや万引きで前科持っているから
居場所は簡単に突き止めることができた


金欲しさに頼まれて
不正にケータイの契約したって
あっさり白状してくれたよ


そこから
ケータイの不正契約を
斡旋にしてるチンピラ捕まえて


犯人・・・つまり君に辿り着くための糸口を見出したわけだ

それでも


それでも
【君】に辿り着くためには
もう一つ
【不自然な点】を
解明しなければならなかった



この最後の【不自然な点】が
今回の事件の重要なカギであることは
間違いない



今の季節にしては珍しく少し強い風が吹き
少女の髪を揺らす


それでも少女は顔色一つ変えず
私を見つめていた


ただじっと私を見つめていた


2012年04月09日(月) 吉田サス劇【夏美】(第3部)第22話『透き通るような白い手を持つ犯人』



35歳の主婦が書類送検されてから数カ月

捜査本部は解散となったが

私は上司の許可を取らずに
この事件の捜査を続けていた


そしてたどりついた


君が犯人だね


大学生を殺害し
35歳の主婦を自殺へと追い込んだのは君だね


私の目の前には
まだあどけない少女が立っていた。



吉田サス劇【夏美】(第3部)

第22話『透き通るような白い手を持つ犯人』



その少女は15歳
高校1年生

こんな少女がなぜ凄惨な事件を引き起こしたのか

透き通るような白い手が
なぜ人を殺めることができるのか


動機なんてものは知らない

この少女の大学生や主婦との付き合いは
決して長くはないはず

長年培われた恨み辛みは考えにくい


それでも
犯人は間違いなくこの少女なのだ


彼女は黙って私を見ていた
背けてしまいそうになるほど
まっすぐに私を見つめていた


なんとお呼びすればいいのかな

本名の○沢○子さん・・・・?
それとも【夏美】さん・・・かな?


もっとも
君が夏美さんとなったのは
大学生と主婦の不倫が始まってからのはず


二人が密会しているときに
わざとメールをすることで
大学生と夏美が同一人物だということを
バレないようにアリバイ工作をしていたわけだ


主婦から金を巻き上げ
利用するための計画を
思いどおりに進めるための布石だったわけだ



説明している間も
少女は表情一つ変えずに
私のことを見つめていた


現代社会において
複雑に絡まった人間関係という名の糸から
私はこの少女までたどり着くことができた


この糸を引っ張れば
少女は私に近づいてくるものと信じていた


それなのに
いくら引っ張っても私と少女の距離は
近づく感じがしなかった


遠のくこともなく
私の足元に糸が溜まっていくだけで
少女は一定の距離を保ちながら
黙って私の話を聞いていた



私のことをまっすぐに見つめながら



2012年04月08日(日) 吉田サス劇【夏美】(第2部)第21話『企み』


吉田サス劇【夏美】(第2部)

第21話『企み』


知り合いに勧められて
とりあえず来てみたはいいけど
誰と話していいかわからず
同性の人がいたから
入ってみたんだそうだ


最初は一回やったら
すぐやめるつもりだったみたいだけど

女のふりした俺との話が
妙にツボに入ったみたいで
仲良くなってね


俺は基本
おばちゃんに興味無いけど
顔見なきゃわかんないし
面白そうだったから
しばらく相手してたわけ


ただ
どこまでこのおばちゃんが
夏美のこと・・・

俺が女のふりしてる時の名前ね

夏美のこと信じてるか
試してみようと
夏美から男を紹介するってことにして
俺が登場するわけ


実際は俺の一人芝居なんだけどさ



最初はね
まじめなおばちゃんだから
不倫みたいでイヤだって
言ってたんだけど


チャットだけって条件で
とりあえず話してみたんだ


でもさあ
こっちは夏美の段階で
おばちゃんの性格から好みや性癖まで
知りつくしちゃってるわけ


あとはおばちゃんの好みどおりに
演じるだけだったから
簡単に落としてやったよ


チャット2回目で
ベチョベチョになってたらしいからね


いまどき中学生でも
こんな純粋な女いないよ



んでまあ
アドレス交換して
あれよあれよと会うことになって
サクッとやれちゃったわけ


とりあえず金は持ってたからね


おばちゃん自身がけっこうお嬢様だし
旦那もバリバリの一流企業だもん


飯だろうがホテルだろうが
一回も金出したことなくてさ


ホテルも知り合いに会わないようにって
郊外まで行くんだけど
おばちゃんが車運転するから
こっちは交通費すらかからないしね


おばちゃんとのセックス
我慢するだけでいいんだから
こんな楽なことないよね


・・・ん?

まあ
カメラとか準備できれば
出来なくはないと思うよ


【挿入】してるときの写メとかあるし


うん

記念にほしいとか言えば
拒否はしないと思うよ


撮ってどうすんの?


マジで?
んな高く売れんの?
おばちゃんだよ


顔広いね〜
その人もチャットで知り合ったの?


違法ケータイ
入手できるだけでもすごいのに


うん 助かるよ
このケータイ


言われたとおりおばちゃんにも持たせたけど
自分のケータイに履歴残らなくていいって
喜んでたよ



んじゃまあ
今度カメラ貸してくれればやってみるよ


あんなおばちゃんでも
まだまだ役には立つんだね





2012年04月07日(土) 吉田サス劇【夏美】(第2部)第20話『夏美』


吉田サス劇【夏美】(第2部)

第20話『夏美』



女性をおびき寄せる方法

それは
俺自身が女性を演じること


男が普段とは違う
理想の男を演じることができる世界

それなら
性別すら隠すことだってできる


女性の名前を決め
【同性で世間話しませんか?】と
待機メッセージを入力


そうすると
男でひたすら待っている時間が
ウソのように
女性が訪れるようになった


こちらが男とも知らず
入ってくる女どもは
アホみたいに本音を話す

女性であることの建前が隠す【女の本性】


その内容に
俺の性癖は激しく搔き立てられた


待ち構える女性が男の俺なら
入ってくる女性も男が演じているってことに気付かず
情けない男たちの
行き場のない性欲が
この世界で消耗されていった


そんな中
俺は一人の女性と仲良くなった


都内に住む35歳の主婦は
特に夫のセックスに
不満があったわけではないが

娘が通う幼稚園で知り合ったママ友から
ストレス発散に使っていたチャットを勧められ

どちらかというと
やりたくはなかったのだが
付き合いもあって断りきれず
来てしまったとのこと


2〜3回やってみて
自分はあまりハマらなかったと
話すつもりだったようだが

チャットで知り合った女性に心を許し

娘のことや
夫への些細な不満
ママ友との付き合い方など
話すようになる


元々人見知りで
付き合いが苦手なタイプだったからこそ

しがらみを気にせず
正直に話すことのできるチャットに
ハマってしまった


もちろんこの主婦は気づいてはいない


チャットという世界で知り合った
【夏美】という女性


彼女を男が演じているということに



それどころか
家族や学生時代の友人より
はるかに心を許せる
唯一の存在として

絶対の信頼を置くこととなる




『じゃあ、その男性と会ってみようかな
夏美さんの紹介ならきっといい人だよね』





2012年04月06日(金) 吉田サス劇【夏美】(第2部)第19話『チャットという世界』




吉田サス劇【夏美】(第2部)
第19話『チャットという世界』




自分の名前と
どんな相手と話したいか入力し
ただひたすら待つ


好みが一致していれば
女性が入ってきて話ができる

仲良くなればメールアドレスを交換


さらに進展すれば
実際に会って関係を持つことができる


【チャット】と呼ばれる世界は
ケータイやPCを媒体として
見知らぬ者同士が
通常ではありえない距離感であっても
出会うことができる


ここでいう【距離感】とは
実際に住んでいる場所の距離だけでなく
年齢にも当てはまる



さらには
顔も素性もわからないため
いか様にも自分を飾ることができる


俺が誰か知る者はいない

俺の過去を知る者はいない

俺の現実を知る者はいない

俺は

俺はこの世界で

俺でいる必要がない


女が喜ぶような

女が喰いつくような

女が満足するような男でいればいい



自分がどんな人間であるかを
どんな身分の人間であるかを
知っているからこそ

たどり着くことのできない
理想の男性像を描き
見え透いたウソを塗り重ねた

一時の快楽を得るために


ただ長くは続かなかった


ウソを塗り重ねは
この仮想現実において誰もが考えし得ること


誰だって楽して女性と付き合いたい


この世界で
男はセックスのためなら
どんなウソでも塗り重ねる



誰もが同じことをするので
競争率は高く
女性を獲得する確率は
現実の自分とそう変わらなかった



なにか違う方法で
女性を引き付け
おびき寄せるしかない


そして【ある方法】で
女性をおびき寄せることに成功した俺は
都内に住む35歳の主婦と親しくなった



交わるはずのない糸はそのとき結びついた




2012年04月05日(木) 吉田サス劇【夏美】(第2部)第18話『尻』



吉田サス劇【夏美】(第2部)
第18話『尻』



注文して牛丼が来るまでの
ほんの数分間をじっと待つことすらできず
とりあえずケータイをいじる



頻繁にメールしてする友達や彼女がいるわけではないので
未読などあるわけもなく
すぐにアダルトサイトへ移行する


【無料】が建前の【有料サイト】が
うじゃうじゃするなか
サンプルくらいなら
本当に無料のサイトで一瞬で終わる動画を見た



牛丼屋で音を出すことはないが
昨夜も同じものを見ているので
女優の口の動きが
男性器を叫んでいることは知っていた


牛丼を持ってきた女性従業員が
厨房へ帰っていく後ろ姿を
いまの動画の女優と重ね合わせ

じーっと尻を見ながら割り箸を割り
牛丼に紅ショウガを載せた



ケータイの画面は動画を終え
広告だらけとなって次の操作を待っていた

牛丼を食べながら
その画面を何気なく下に進めていくと
あるサイトが目に止まった


名前を登録し
あいさつ文を入力し
女性が喰いついてくるのを待つ


女性が入ってきたらその部屋はロックされ
二人っきりで話をするサイト・・・



俗に言う2shot-chatである



俺はこの日をきっかけに
このサイトにどっぷりとハマることとなる



見ず知らずの女性と
時間を共有し

優しさ 金銭 性欲 自尊心など

互いが不足した部分を埋めあう


実際には
なにが埋まるわけでもなく
なに一つ実りがないことをわかりつつ


一瞬の満足を得るために男女が集まっていた



現実を忘れることができる
とても長い一瞬




2012年04月04日(水) 吉田サス劇【夏美】(第2部)第17話『2年の月日、似た生き物、開けた扉』




吉田サス劇【夏美】(第2部)
第17話『2年の月日、似た生き物、開けた扉』



俺の最大の短所は
かっこ良くないというより
かっこ悪すぎないことだろう


黙っていて女の子にもてるほど恵まれず
女の子のいない青春を諦めるほど
かっこわるいわけでもない。



良い意味でも悪い意味でも一番になれない



だから
高校生の頃から思い描く華やかな青春、
キャンパスライフの謳歌を
捨てきれないでいるのだろう



そんな俺がたどりついた
手っ取り早く女の子と仲良くなる方法は
ご飯をおごり、
誕生日でもないのにプレゼントをすることだった。



そうすれば二人っきりになるきっかけは生まれ
10回に1回は【その後】に結びつく


金はかかるし確率も低いが
そうでもしなきゃ楽しい大学生活は成り立たない



不思議なもので、
こういう俺と友達になるのは
やはり似たような人間で
男の俺が見たって女の子にもてそうに見えない。


見た目どころか性格までドングリの背比べ


多少明るいか、多少暗いかのどちらかである。


彼女が欲しい・・・というか
定期的に性欲を満たしたい
満たしたいけどなかなか満たせない


悩みまで似てるため
自分もこんな風に見えるのかと思うと
本当にガッカリすることがある


それでもほかに友達がいないため、
俺は自分に似た生き物と同じ時間を過ごす


気がつけば2年の月日は流れていた


都会に目新しい【モノ】がなくなってきた頃
俺自身には何も残っていなかった


身近にあるのは
【友人】という自分に似た生き物と
消費者金融から借りた金


その金も昨日まではもう少し多かったのだが
時間つぶしに入ったスロットに半分くらい吸い取られた


大学にもしばらく顔を出していない


自分自身が腐りかけていることに気づいていても
それをなんとかしようという気持ちがない



そして今日もいつもと変わらない一日のはじまった



昨晩の酒の臭いを感じつつ、
空腹を満たすために牛丼屋に入る


牛丼を待っている間
何気なくいじったケータイが俺の運命を大きく変えることになる。



軽い気持ちで開けた扉は俺を【ある世界】へと導いた



全ての始まりはここだったのか
それとも【夏美】と出会うまで何も始まっていなかったのか


どちらにしろ
俺が俺のままであれば
金属バットで殴られずに済んだのかもしれない。


死なずに済んだのかもしれない。



2012年04月03日(火) 吉田サス劇【夏美】(第2部)第16話『野球部のマネージャー』




吉田サス劇【夏美】(第2部)第16話『野球部のマネージャー』




分かり切っていたことだが
改めて直面するとテンションが下がる


客観的どころか
主観的に自分の才能を評価したって
プロ野球選手になれないことぐらい分かり切っている


県予選のベスト8をうろついているチームで
レギュラーがとれない自分に
野球の才能があるわけがない。

野球どころか
他人と比べて秀でた部分が有るかどうかさえ疑ってしまう。


そんな向上心もない人間だからこそ
野球をやめて空いた時間を
勉強に費やすようなことをするわけもなく
成績は相変わらず中途半端なラインを
浮き沈みしていた。



それでも大きな都市なら
それぞれの成績に見合った大学があるわけで
国立・私立と贅沢言わなきゃ
誰でも進学できるもの。


都会で一人暮らしがしたい・・・・
たったそれだけの理由で俺は今の大学を選んだ


罪悪感なんてない。


どんな大学を出ようが
高卒に比べたら大卒の方が良い会社に就職出来る。

親がそれを望んでいて
そのとおりにしてあげているわけだから
俺は黙って4年間親の仕送りを食い潰していればいいのだ



大学で野球部入ったのは
野球自体に未練があるわけではない。

入学式で勧誘してきた野球部のマネージャーが可愛かったから
思わずそこで名前を書いてしまっただけ。

手っ取り早く友達作るためには
なにかしらサークル入った方が良い。

女の子の部員が多いバトミントンサークルの方が
よっぱど【出席率】が高い


とりあえずの4年間。
とりあえず俺は4年間大学生をしていよう



そして卒業前に就職活動して
どこか1つに引っ掛かればいい

それまで女の子と遊んでいればいい
黙っていたって毎月親から金が入る。



とりあえずの4年間。





2012年04月02日(月) 吉田サス劇【夏美】(第2部)第15話『魔法のバット』


吉田サス劇【夏美】(第2部)第15話『魔法のバット』



桜が咲き始める3月下旬。


4月から3年生になる俺は
最後の甲子園を目指しグラウンドでバットを振っていた



そんなとき監督に声をかけられる



『悪いけどこの子に打たせてみたいからそこ空けてくれ
 ついでにバットも貸してやってくれ』

監督の横にいたのは
隣町の中学校のユニホームを着た男の子で、
丸刈りで俺より背も小さく華奢な体つきだった


監督に言われたとおり
俺はその場を明け渡し
バットを手渡すと
邪魔にならない位置まで下がり
腕を組みながら何気なしにその丸刈りのことを見ていた。



さっきまで俺に投げてくれていた同級生の木村が
そいつに向けてボールを投げる


年功序列でしかレギュラーを確保できない俺とは違い
木村は去年から2番手ピッチャーとして試合に出て
それなりの活躍をしていた。



そんな木村が放った一つ目のボールは
丸刈りがバットを振った瞬間、
聞いたこともない金属音を鳴らして
グラウンドの外まで飛んでいった・・・。



2球目、3球目、4球目と
中学生相手に
本気の目をした木村が放ったボールも
コースこそ違えど【枠の外】まで飛んでいったことには違いなく
上級生の・・・いや高校生の威厳など全く示すことが出来なかった


さっきまで俺が使っていた普通の金属バットは
どんなボールも飛ばす魔法のバットになっていた



『いや〜
 この打球が4月からうちの戦力になったら
 これ以上心強いことはないなぁ〜
 甲子園が少し近づいたんじゃないか??
 わっはっはっはぁ』


その打球に
上機嫌だったのはうちの監督と
レギュラーが確定しているメンバー。


俺を含めた
年功序列でレギュラーを確保しようとする連中にとって
この丸刈りの出現は
自分の地位を揺るがす不安要素でしかなかった。


4月。


学校のまわりに植えられた桜は
ここぞとばかりに咲き乱れている。


あどけない顔の一年生が
真新しい制服を着て登校している。


前より髪の毛の少し伸びた【あの丸刈り】が
うちの高校に入学し
正式に野球部に入部したことにより
2年間続いた俺の補欠生活は延長確定となった。



甲子園の予選が始まる前に
夏が来る前に
桜が散る前に
俺の高校野球は終わった・・・。




『ポジションはどこがいい?』
監督が聞くと丸刈りは答えた。



『基本はセンターですけど
 中学時代はたまにピッチャーもやってました』



この瞬間、
丸刈りが2番手ピッチャーも任されたため
木村の高校野球もほぼ終わった。




2012年04月01日(日) 吉田サスペンス劇場【夏美】第14話『大学生が殺された日その� 戮里△�

吉田サスペンス劇場【夏美】 第14話『大学生が殺された日その� 戮里△�


※第8話『大学生が殺された日その� 挌歓�


  下着のままだった私は自分の服を着て、
  凶器となったバットはもちろん、
  自分が触った家のモノから指紋を拭き取り、
  布団の上やベッドのまわりにある自分の髪の毛を拾い
  ティッシュにくるんだ。
  最初は動揺していたが髪の毛を拾っている頃には
  思った以上に落ち着いている自分がいた。
  『大丈夫。私と彼の関係がわかる訳ない。』
  自分にそう言い聞かし、
  洗面台の鏡でボサボサな髪をクシでとかした。
  最後に、彼がゴミ箱に捨てたコンドームを取り出し、
  またティッシュにくるんで、
  髪の毛をくるんだティッシュとともにバッグに入れた。
  私は玄関の扉を開け、外に誰もいないことを確認すると、
  彼の部屋から出てエレベーターを使わずに階段で一階まで降りた。


玄関のドアが閉まる音を最後に
大学生の部屋は静まりかえる・・・。


沈黙の時間が過ぎていく・・・。


・・・



・・・



・・・




ギ、ギギギギ・・・・。

鈍い音を立てて扉が開いた。


この家のもう一つの部屋が表れ
中からオレンジ色の西日が差し込む。


となりの部屋の扉を開けた【人間】は
中の様子を確認すると
西日を背中に浴びながら
倒れている大学生にゆっくりと近づく



流れる血をよけながら顔をのぞき込んだそのとき
突然大学生の口が動いた。


『た、たあぅ・・・うぅ・・・・』


空気だけが抜けた聞き取れない言葉であっても
それは明らかに助けを求めているに違いなかった。

いまにも飛び出しそうなくらい眼球に力が入り
言葉以上に助けを求めている。
そして血まみれになった手を
ふるえながら傍にいる【人間】へと少しずつ伸びていく





『死に損ない。見苦しいんだよ』






【人間】は立ち上がるとハンカチを取り出し
床に転がっていたバットをハンカチ越しに持ち上げた

そして狙いを定めると
一気にバットを振り下ろし大学生の頭に叩きつけた



『あぎぃぅ』



大学生の最後の声か
それとも顔面が床に叩きつけられたときの音か


どちらかは不明だが
この異音を最後に大学生はピクリともしなくなる。


【人間】はバットを元の位置に戻し
ハンカチを畳んでポケットにしまうと
隣の部屋から自分の持ち物であろうバッグを肩にかけ
大学生の部屋から出ていった。




そしてこの部屋はまた静まりかえる




数日後、遺体は発見され
大学生は、【自殺した主婦の手によって殺された】
・・・ことになった。


主婦の犯行として決定づけた証拠は
髪の毛、指紋、そして大学生の体に付着した体液などなど
【主婦がこの事件に関わってたこと】を
疑う余地のないモノばかりであった。


そんなこの世に2つとない主婦の一部は多数発見されていたが、
主婦が写っている【画像】や【動画】といった媒体は
何一つ発見されておらず、
捜査した警察ではその媒体の存在すら知るよしもなかった。



それともう一つ
大学生が殺された日、
【バッグを肩にかけた人間】が
この部屋から出ていったという事実も
沈黙という闇の中へと消し去られた。






管理人:吉田むらさき

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