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■ 大菊小説
「大石っ!明日楽しみにしててなっ!」 そのセリフから、自分の誕生日が明日だったことを思い出す。 思い出させてくれた張本人はその言葉をいったあと、駆け出してしまって今はもう見えない。 …どんな祝い方をしてくれるのだろうな… その日の夜は、久しぶりに期待でなかなか寝つけなかった。
「お兄ちゃん、お誕生日おめでとう」 「うん、ありがとう」 15の誕生日の初めてのお祝いをしてくれたのは妹だった。 …去年は「一番にお祝いしたいから」って英二が泊まりに来たんだよな。 「秀一郎、今日夕飯どうする?」 何が食べたい?と聞いている訳ではない。聞いているのはもう一つの質問。 それが分かれば、おのずとメニューは決まってくるから。 「一人分多めによろしく」 「はいはい。エビフライ、腕によりをかけて作るわよ」 それだけですべて通じてしまうのって…我ながら凄いんじゃないかって思う。 それくらい、アイツは俺の生活に深く根を下ろしているから… 本当は、英二に今日泊まり来るかどうか一回も聞いていない。でも、英二だったら泊まりに来てくれるだろうと予想して母親に夕飯を頼む。 「いってきます」 学校へ行くのがこんなに楽しみだなんて。あいつがいなかったら思いもしないんだろうな。
「やぁ、おはよう」 「乾。おはよう」 部室の鍵を開けて一番に現れたのは乾だった。 「今日誕生日なんだよね。おめでとう」 「あぁ、ありがとう」乾からもお祝いの言葉をもらう。 「おはよう」 「………」 「おはようみんな」
続いて不二、手塚、タカさんと続々レギュラーメンバーが到着する。 「大石、お誕生日おめでとう」 「ありがとう」 「これ、俺と不二から」 そういって渡された小さな包み。 「なんか悪いな、気を使わせちゃって」 「ううん、僕たちも楽しんでるから。ね、タカさん」 ちょっと申し訳ないような…笑いをこらえるような顔で「う…うん」と返事を返すタカさん。 その様子をちょっといぶかしがりながら見ていると、「おはよーございまーす!」と威勢のいい声が聞こえてきた。 「桃、おはよう」 「あ、大石先輩おはようございます!それと、ハイ、これ俺たちからです」 そう言ってまたもや小さな包みが渡される。 「…お誕生日おめでとうございます」 越前がボソリとお祝いの言葉を口にする。 「ありがとう」 渡された包みを見ると、大きさは違うものの、包装紙は先ほど不二から渡されたものと同じだった。 「空けてみていいか?」 「駄目っすよ!全部集めてからじゃないと意味ないんですってば」 全部集める?? 「全部集めるって…なんなんだ?これ…」 「桃先輩…バカ…」 越前が仕方ないといったふうにため息をつき、桃のことを罵倒する。 当の桃は越前の言葉に多少むかつきながらも、「あぁ〜っと…わりぃ…」とばつの悪そうにしていた。 ……だから、何なんだ?コレ… 「集めてみればわかるよ。種明かしは後でのお楽しみってね」 不二がニコニコしながら俺に言う。…気になるなぁ… 「…ッス」 「あぁ、来たきた。海堂」 乾が登校してきた海堂をさっそうと捕まえる。 乾が一言何かつぶやくと、海堂は鞄をあさり、例の小さな袋を取り出した。 「ハイ、コレは俺と海堂からな」 「…おめでとうございます…」 ちょっとうつむき加減の海堂から小袋をしっかりと受け取る。 「ありがとう」 何なのかさっぱりわからないが。とにかくみんながこうして一人一人お祝いの言葉を言ってくれるのだから。悪いものではなさそうだ。 「さあ、早く着替えろ。各自準備運動が終わったら一年は基本練習、2、3年はコートに入ってサービス練習だ」 『うぃーーーっす!』 着替えていると、レギュラーメンバーじゃない部員も「おめでとうございます」と声をかけていってくれる。 誕生日をこんなにたくさんの人から祝われたのは初めてだ。 「大石」 「ん?何だ、手塚。」 名前を呼ばれ振り返ると、小さなものをこちらへ向かって投げ渡される。 反射的にそれを受け取ると、意外なその物の正体に目を疑った。 「おめでとう」 …あまりのことに今度は耳まで疑う。 「……何だ?」 呆然とそのまま手塚を見て立ち尽くしていると、手塚から不機嫌そうな声が漏らされた。 「いや…手塚ってこういう遊びみたいの嫌いなのになぁと思って…」 「たまにはいいだろう。こういう趣向も別に嫌いではない」 いつもと変わらない手塚なのに、そういう意外な行動をされて、俺は思わず笑ってしまった。 「はははっ…まさか手塚から祝われるなんて思ってもいなかったよ」 ひとしきり笑った後、俺の笑い声で不機嫌になってしまった手塚にお礼を言った。 「ありがとな」 手塚は「お礼だったら菊丸にいうんだな」とだけ言い残すと、さっさとコートへ歩いていってしまった。
…やっぱり首謀者は英二だったのか、と手塚の言葉で確認をとると、その首謀者の姿を探した…が。見当たらない。 「不二、英二はどうしたんだ?」 クラスの仕事かと思い、不二に問いかける。 「今日はいろいろ準備があるから忙しいんだって。午後の部活も休みを取ってるよ」 準備って…これ以上何をしてくれるつもりなんだろうか?英二は… 「大石も今日は放課後部活でなくっていいからね。手塚の了解ももうとってあるし」 「そうか。わかった」 あの部活大好き人間の英二が、俺の誕生日を祝うために休んでまで用意してくれたんだ。それを断って俺だけ部活に出るなんてできないしな。 「大石」 不二がにっこりと笑っていう。 「ほんと、君って幸せ者だよね」 皮肉でも冷やかしでもない。純粋に俺の幸せを喜んでいてくれているようだった。
クラスに入るなりさまざまな人が俺に向かっておめでとう、と言葉をかけてくれた。俺の誕生日はもぅテニス部だけでなく、クラスの人たち全員に知られているらしい。…コレも、英二の仕業だな…。 英二にお礼を言おうと休み時間や昼休みに探しても、一向に英二を校内で見かけることはなかった。 鞄などがクラスにおいてあることから、学校に来ていることは確かなのだが…。
「大石、誕生日らしいじゃないか。おめでとう。ほい、コレ」 「ありがとうございます、竜崎先生」 数学の時間が終わった後、竜崎先生からもお祝いをされる。 これで、集まったプレゼントの数は5つ。…あと、いったいいくつ集めればいいのだろうか…?
放課後になって英二を迎えにいくけど…そこにはもうすでに英二の姿はなく、鞄すらもなくなっていた。 「不二、英二は?」 「“例の場所で待ってるから”って言って急いで出て行ったよ?」 例の場所…って…。やっぱ、あそこかな? 「プレゼントいくつ集めた?」 「え?ああ、5つだけど」 「そう。じゃああと一つだ。早く英二のところへ行ってあげて」 最後の一つは英二が持っているから、と教えてくれる。 「ありがとう、不二」 「どういたしまして」 走るまではいかないが、結構な早足で。俺は英二が待ってるといった場所へ向かっていった。 やっと…コレで英二に会えるんだよな…。
「大石ーっ!こっちこっちー!」 夕日が映えるコンテナの上…二人がいつも来ていた反省場所へと足を運ぶと、そこには英二が大きな箱を抱えて待っていてくれた。 「ゴール!大石、今日一日どうだった?」 「ああ。たくさんの人に祝ってもらえてうれしかったよ」 英二の隣に腰を下ろす。 「はい、コレが最後のプレゼント。あけてみていいよ?」 そういって英二が抱えていた30センチ四方くらいの箱を手渡される。 包装紙を破かないように注意深く開けてみると… 「…コレ、英二が作ったのか??」 「うんっ。やっぱ手作りのほうが気持ちがこもってると思ってさ」 出てきたのはまあるいバースデーケーキ。かなり本格的といえば本格的だ。 でも、イチゴ以外の飾りが一つもついていない。 「大石、みんなからもらったプレゼントあけてみて?」 いわれてみんなからもらった5つの包みを一つづつ開けていく。 出てきたのはろうそく、名前の書かれたチョコレートプレート、テニスボールとラケットをまねた砂糖のお菓子、星やハートの形をしたチョコレート、ミントの葉… 「あれ?俺こんなの入れてないけど?」 不二からもらった袋に入っているカードを見つけて、英二が不審がる。 なんだろうと思って開いてみると…やられた。 「うわぁ…すっげ。大石、これ感動しない?」 カードに書かれていたのはレギュラーメンバー全員からのお祝いメッセージだった。 「感動したよ。英二がいなかったら多分泣いていたと思う」 あの一癖も二癖もある面子が。俺のためにこんなカードを用意してくれていたなんて、うれしすぎるじゃないか。 「大石、お誕生日おめでと」 そう言って、ほっぺたに軽くキスをされる。 「…ありがとう」 ケーキにろうそくを立て、一息でさっと吹き消す。 そのままカードを眺めながら、英二の手作りのケーキをご馳走になった。 …こんなにうれしい誕生日…。英二がいなかったらきっとありえない。 「おいしい?」と首をかしげて問う英二を抱き寄せて、その唇に熱くキスをおとした。 照れてはにかむ君は、本当誰よりもいとおしい。
「ね、大石。明日芸術鑑賞会で部活ないよ?」 突然英二がそんな話題を持ち出してくる。 「部活ないから…ちょっとぐらい無理したって平気だよ?」
そのセリフに、最高の笑顔を浮かべて。
「英二、今日泊まりに来るだろ?」 「もっちろん!」
夕飯が一食分無駄にならずに済んだな、なんてことを思いながら。
最高の誕生日を強くかみ締めて。
「ハッピーバースディ、大石!」
ーーーーーーーーーーーーーーー--------------- 本当はもっと書きたいのに、大学のメディアセンターがしまってしまうためここで終わりです(汗)今度時間あるときに加筆修正しよ…
2002年04月30日(火)
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