泡とガラス玉


2005年08月31日(水)      ガイトウ


昔、ほんの子どもだった頃、わざわざ木靴をコツコツと鳴らしては夜の隙間を歩いた。
透き通った瞳に映る月は、誰かの大人びた愛を照らした。
君の居場所は見知らぬ大人の灯り街。
僕は角の長い影を踏み遊びながら
騒がしい店の長椅子に座る君を盗み見た。

君は僕と変わらぬほどの子どもだったけれど
その目はとても空ろだった。
視線の向こうでは細やかな宝石のドレスを着る妖艶な女が
烏の濡れ羽のように黒い髪を指先で弄び、
血のような色の唇の間で低く魔法を唱えた。

胸の中でタッタと働く時計の針が弾けとび
秒針が冷たく刺さった。
僕は眩暈を起こし、世界の色が少しだけ暗くなったので
一瞬全てを見失った。

そして女は、悪い風のように僕から君を
奪っていった


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