昔、ほんの子どもだった頃、わざわざ木靴をコツコツと鳴らしては夜の隙間を歩いた。 透き通った瞳に映る月は、誰かの大人びた愛を照らした。 君の居場所は見知らぬ大人の灯り街。 僕は角の長い影を踏み遊びながら 騒がしい店の長椅子に座る君を盗み見た。
君は僕と変わらぬほどの子どもだったけれど その目はとても空ろだった。 視線の向こうでは細やかな宝石のドレスを着る妖艶な女が 烏の濡れ羽のように黒い髪を指先で弄び、 血のような色の唇の間で低く魔法を唱えた。
胸の中でタッタと働く時計の針が弾けとび 秒針が冷たく刺さった。 僕は眩暈を起こし、世界の色が少しだけ暗くなったので 一瞬全てを見失った。
そして女は、悪い風のように僕から君を 奪っていった
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