便蛇民の裏庭
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2002年08月12日(月) 手術当日

病室に入ると相方はすでに安定剤で朦朧としていた。
ぼくの顔を見て安心したといい、すぐ眠ってしまった。
その横で手術が始まる時間まで本を読みながら待つ。

夕方5時。
ストレッチャーに乗って運ばれていく相方。

「こうやって運ばれて行く時、天井見てると変な感じだよね」とぼく。
「そうだなー、映画かなんか見てるみたいだ」と相方。
「しかもクスリで少々ラリってますしねー」と看護婦さん。

ラリってますしって・・・

ぼくはエレベーターまでしかお見送りできない。

「そんじゃね、頑張るんだよ」
「うん、待ってなさい」

できるなら代わりたい。
自分の痛みは堪えられても、人の痛みは見守る事しかできなくてつらい。



2時間半くらいと告げられた手術。
それを過ぎてもいっこうに終わらない。

きっと今頃母上は仏前で泣いている事だろう。
電話してみよう。

「まだ終わらないみたいだけど、何も言われないから心配ないからね」
「ああ!心配で今仏壇でお父さんにお願いしてたところなのよ!(涙声)」

・・・やっぱし。

「あのね、おかーさんがいくらオロオロしてもしょうがないの。
 子供たちまでつられてオロオロしちゃうからオロオロするのやめてね」

想像を裏切らない母上だな。
電話を切って溜息をつく。



4時間をまわるころようやく相方が戻って来た。
とっくに面会時間を過ぎている。

ストレッチャーの上でまだ麻酔から覚めきっていない。
知らない人を見ているような気がする。

ベッドに移動させてもらった相方の横に座る。
酸素を吸入し、鼻にはガーゼが詰め込まれている。
唇には血が滲んでいる。

「話し掛けると返事しますよ」

そういって看護婦たちは去って行った。
その途端いきなり目を開けてこっちを見た相方。

「なんだ便か」

なんだってなんだ。
なんか文句あるのかコノヤロウ。

空中に向かって彷徨う手を握り締めるとしっかりと握り返してきた。

「痛ぇーよ。こんなんじゃ飯なんか食えねぇよ」

前夜9時から丸一日なにも口にしていない。
そしてそのまままた眠ってしまった。
そんな相方を見ていてほっとして涙が出そうになった。



医師がやってきた。

「えーと、相方さんのー・・・?」
「家内です」
「奥さん。モノが届いたのでお見せしようと思いましてね」

え。
そのタッパに入ったような代物はいったい。

「コレがですね、鼻の粘膜です。
 大きめに切除して2針縫いました。
 コレでかなり鼻はラクになると思いますよ!」
「はぁ〜そうですか〜」

うぅ、鼻がムズムズする。

「そういう小細工もしつつですねぇ。コレが扁桃腺です!」
「ブッ!」

・・・思わず吹き出してしまった。

「でしょ!?大きいんですよコレがかなり!取るのに苦労しました。
 親指1本分くらい取れましたよ〜しかもコレで1個ですので」

といってもう1個同じようなものを差し出す。
それは桃の種かなにかのような代物。
他の人の切除された扁桃腺を見たことはないが
こんなものが喉についていたのかと思うとシンジラレナイ。

「いやー相方さんにも見せたいなぁ、見せても翌日には覚えてないけど。
 もしもーし、相方さーん、こんなの取れたんですよー、おっきいでしょー!」

切除した扁桃腺を麻酔から覚めない患者に無理やり見せる医者っていったい・・・



母上に無事終わったと電話をいれたあと
しばし相方の手を握り締めたまま付き添う。

「痰出したい」

支えて起こし、ティッシュを渡す。
痰っていうかそれ・・・血じゃん?血、いっぱいじゃん?(涙)

あんなでっかい扁桃腺2個も取ったらそりゃアンタ、
血もいっぱい出ますって。



消灯時間になってしまった。
傍にいてもしてあげられることもない。

「ぼく、もう帰るよ」
「うん、ごめんね?」
「ん?何で謝るの。いいから寝てないさいね?
 なんかあったら看護婦さん呼ぶんだよ?」

相方の頬にキスをして病院を出ると
傘も差さず冷たい雨に打たれながら家へ帰った。





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