nomiの思考

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二つの思い
2004年04月24日(土)

「あのさ、恋人ができたんだ」

良く晴れた昼下がり。いつもと変わらない
景色。街も人も雑踏も、何気なく流れてい
く。

彼女は結婚していた。
 
「それで、相手はどんなひと?」

自分の当惑を打ち消すように彼女に尋ね
る。その瞬間、最近読んだ文章の一部分
が頭をよぎった。

「ひとつの事実、ひとつの現実、などに対
して、ぼくはいつも異なる二つの思い−ア
ンビバレントな感情というのでしょうか、そ
んな感じを抱いていたという自覚がありま
す」<五木寛之「大河の一滴」より>

日常、私の心を揺さぶるような、思わず何
かをいってしまいたくなるような、そんな時
でさえ、アンビバレントな感情というものが
存在する。

あの日もそうだった。
「二つの思い」が交差する。戸惑いは止め
どなく風に流されて、私は答えを探してい
た。

あるんだ、昼ドラのような話。

「そろそろ夕飯の買い物に行かなくちゃ。
母親が旅行中なの。カレーにしようかな」

壊れかけた自転車に急ブレーキをかける
ようにいった。

「何買うの?」彼女は尋ねた。
「ニンジン、ジャガイモ、お肉、かな」
と答える。

「あ!実家から送ってきた美味しいジャガ
イモがある。あげるから、買い物帰り家寄っ
てよ。うちもカレーにする。ニンジン一本く
れる?二人だからそんなにいらないのよ」

「まるで近所のおばさん同士だ」

不意に、何の迷いもなく交わされた笑顔。
さっきよりも優しい風が吹きぬけて行く。

歩いている道を、何回も振り返って、人は
大人になるんだ。

息を切らす前に、彼女ならきっと立ち止ま
れる。

相変わらず答えは見当たらないけど、「じゃ
あね」と別れて歩き出す彼女の後姿が、い
つもより愛しく思えた。



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