2004年10月10日(日) |
失うべくもない君へ。 |
昼下がり、深遠なる静けさの中で。
森の真芯に湧き出た泉で、白馬と男は足を休める。
白馬は静かに口を湿らせ、男は素足を泉に浸した。
木漏れ日に男の金糸の髪がきらきらと反射する。
男の瞳は湖と同じ青緑色で絶望を彩る。
騎士の装いをしたその男は、軽く溜息を吐く。
・・・考える。
何時まで追っても追いつくことはない男について。
決して自分の力が及ばないのではない。
言うなれば道が交わらないのだ。
彼には彼の目的が、自分には自分の正義が。
それでも追わずにはいられない。
これは、性か。
よしんば道が交わったとて、何をすると言うのだ。
わからない。
ただ、自分と言う存在を認めさせんが為か。
他に興味を持たない彼の、視界に留まっていたい。
それは愚かなる渇望か。
それでも。
それでも、私は。
白馬が男の下に戻ってくる。
男は泉の中に立ち、白馬に向かい合った。
「それでも私は、彼を求めずにはいられないのだ。」
これを恋だと人は笑うのだろうか。
愛馬の鼻面に顔を寄せる。
だとすれば、私は相当な愚か者だな、と男は自嘲する。
白馬がブルル、と低く気持ち良さそうに嘶いた。
そう。
失うべくもないのならば、
私は私の愛し方で彼を愛し抜くと誓おう。
例えそれが、刺し違える結果になれど。
・・・神よ。
―suzie氏受賞に寄せて。
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