アイ ナンカ イラナイ。
夏野 空の日記

2002年06月27日(木) 彼女が向かっているところ

美加ちゃんに会ってきた。
一体誰だったっけ、というくらい久しぶりの彼女が
どうしてアタシに電話をかけてきたのかは分らないけれど。
そしてどうしてだか分らないけれど携帯の向こうで美加ちゃんは明らかに泣いていて、
いつ彼女にその場所を教えたのだか自分でも覚えていないのだが、
「麗香さんチのすぐ近くなの」と言う。

今日の病院は混んでいて少し疲れた。
久しぶりにヒールを履いて雨の中傘をさして歩くというのも疲れた。
疲れて帰ってきたばかりのアタシはけれど美加ちゃんを放っておけずに
再び部屋を出た。

同じ靴。
同じ鞄。
同じ傘。

重たいじゃぁないか。


美加ちゃんがいると思しき場所に向かって歩いていると、
路上の車の中から声をかけられた。
「麗香さぁん。こっちこっち。」
どうりで。
表で話しているにしては声の通りが変だと思ったんだ。

美加ちゃんの車に乗り込む。
つい今しがた電話口でワンワン泣いていた彼女はもう泣き止んでいて、
アタシは幾分拍子抜けしたのだけれど、誰かにいて欲しかったから
呼び出したのであろう、と。
落ち着いたところで話でもするかな、と。

「どうする?お茶でもする?」
「ううん。このままどっか行く。」

彼女がどこに住んでいるのかは分らないけれど、
どうやらこの辺りの道には通じているらしい。
まるで決められたレールの上を走るゴーカートのように迷いなくハンドルを切る。

結構なボリュームで音楽を聴くんだなぁ、と。
綺麗な声の女性ボーカリストだなぁ、と。
ふと、何かが混ざって聞こえた気がしたので、アタシは前に向けていた視線を
美加ちゃんの手元に移した。

その手首は濡れていて。
車の中なので明らかに雨ではなく。


美加ちゃんはハンドルにしがみつくようにして泣いていた。


「そんなに泣きながらじゃ前が見えないよ。事故っちゃうよ。」
アタシはきっとこんなこと言わなかった方が良かったのだろう。
美加ちゃんは声をあげて泣き出してしまった。

言わんこっちゃない。
急に車の進路が危うくなる。
もう少しで割り込んできたタクシーにぶつかるところだった。

とりあえず車を路肩に寄せる。
デカいボリュームでかけられた音楽の裏で、
カッチ、カッチ、とウィンカーの明滅する音がする。

音楽なんだかウィンカーなんだか美加ちゃんなんだか。

雨なんだか。


しばらく。
しばーらく。
ひとしきり泣いて疲れたのだろうか。
鼻水をすすり上げながら「帰る。」と言う。

化粧がグチャグチャだ。
このまま人のいるところに連れ出したら可哀想なので、アタシは再び聞く。

「どうする?」
「帰る。」

言われなくても見ただけで分るくらい疲れている彼女の車を
アタシは運転することができないので、少し考える。

ここはどこだろう?

聞いてみたら、彼女の家はもう目と鼻の先だと言う。
どうやらアタシは下北から美加ちゃんの家の近くまで運ばれてしまったらしい。
そして運ばれてしまったアタシは美加ちゃんにウチまで送らせることなど
到底できずに、そこで降りることにした。

なぜ美加ちゃんが泣いていたのか。
結局。
理由は分らない。

話さなかったということは話したくなかったのだろうか。
あるいは話すのが辛かったのか。
話さなくても良かったのか。
涙と一緒に流れてしまったのか。
「アタシ」じゃなかったのか。


ここはどこだろう?





   ↑押すと続きが読める投票ボタン。



〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜〜*〜
愛してくれる?

んで、気に入ったらヨロシク→My追加

 < 過去  INDEX  未来 >
麗香@夏野空 [MAIL] [MILK PITCHER]
 
エンピツ

/FONT