| 2003年05月02日(金) |
これは果たして黄泉の国の |
ヒールを高くして往く。 軽く風に吹かれて往く。 いつもの角を曲がり、いつもの坂を上り、いつもの垣根を見て踏み切りを渡る。 曲がりくねった道を人とかち合いながら往く。
下北は踏切が多い。 「くるり」と回って幾つ渡ったのか。 それは夢の途中だったのか。 陽炎の音が聞こえたような。 遮断機の降りる音だったような。
瑤子を思い出した。
踵で床を踏み鳴らしていた。 ヒールで床を叩き鳴らす音が高らかだった。 手拍子の音、ギターの音、歌い上げる声。 けれど。
舞っていたのは瑤子ではなかった。
あの日。 汗ばむ陽気の中、気だるく化粧をして街へ出たのは 彼と待ち合わせる為だった。 否。そうではなく。 待ち合わせるのを口実に陽に当たる為であった。 風、心地よく。 時、和やかに。
いつものオープンカフェでトーストとアイスコーヒーを口に運びながら 休日ともつかない平日に行き交う人々を眺める。 果たして彼らは。 「眺められている」とか「観察されている」とか「見られている」とか。
その感覚を抉り出してみたい。 手元のフォークを握り締める。 突き刺したい衝動。 どこに。 だれに。
見えないよう、手首に突き立てるそれはけれどまるであの日の甘噛みのような。
漏れる吐息。 ヒールは木霊する。 ヒールは木霊を呼ぶ。 呼び合って目が合う。
隣の席のコと見詰め合った理由はワカラナイ。
Tシャツを買った。 たまには相手を変えてみるのもいいかな、などと思いながら 買ったばかりのサンダルの足に食い込む痛みを甘く受け止める。
アナタは。 そしてアナタは。 何も知らないのだろう。 吹く風のまま、流されるまま、運ばれるままに。
貴方がどうだったかなんて知らない。 けれど私は確かに愛していた。
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