何もする気になれない朝だった。 たったあれだけのことで筋肉痛になって、 空気がのったりと暑苦しくて。
一時間程、 ぐずぐずとあきらめきれずに布団の上で粘った。 寝返り打つことさえ億劫で、 えいやあ、と無理に声にだして起き上がった。
家中の窓を開ける。 簡単に朝ごはんをつくり、 洗濯をして、軽く掃除をする。
生活の、ノイズ。 ここちよい。
一人暮らしのノイズはつまらない。 私がたてた音しかしない。
すぐにつまらなくなって、 車に乗って久しぶりに実家へ向かう。 なつかしい、 昔は当たり前で迷惑なだけだったノイズを聞きに。
窓は全開! 風の音、街の音、空にすいこまれていく。
実家に帰ると母は出かけていた。 父がつくったであろう洗い物がキッチンの流しに幾重にも積まれていた。 適当に昼ごはんをつくって食器を全部洗った。 水が心地よかった。 勢いがついたので実家の猫も洗った。 拭いて日向に置くと、不服そうにいつまでも毛づくろいをしていた。 父は寝そべってTVを見ていたけれど、 私が水遊びをしているのがうらやましかったのか 突然夏の日差しの中で車を洗いはじめた。
柿の若葉越しの午後の光は、 やさしい色を落としていた。 私は嘘みたいにのどかなノイズにあっという間に飽きてしまった。
「古本屋さんに行ってくる。 帰りにアイスかってきてあげるよ。リクエストある?」 父に声を掛けるとそうだなあとあかるく答えて、 少し悩んでかき氷の、みぞれがいいな、といった。 昔から、私が好きなかき氷。 あっさりとした色、すっきりした甘味。
二十歳になるまでの7年間、 口をきくことのできなかった、父。
通勤用に4冊の本を買い込み、 みぞれのカップかき氷を探して店を3軒廻った。 出かけている母の好きなあずきの入ったの。 私のレモンスライスのはいったの。 妹のクッキーアンドバニラ。
余分に買い込んで家路を急いだ。 カンペキにのどかな、 夢のように淡い日曜日。
こんな時間が過ごせるようになるまでに、 たどった平たんではない道のりを、 遠く、近く思った。
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