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2002年08月30日(金)   チグリスとユーフラテス 上下/新井素子


久々にSF読みましたが、これぞSF!大当たりの作品。さすがSF大賞受賞作。文庫化待ってるの忘れてなくてよかったよかった。氏の作品10年以上(年が…)前に読んだっきりだったのですが、相変わらずの体言止めの文章と女の子な雰囲気の文章。懐かし。
ストーリィは、遠い未来。惑星ナインへ移住した人類は、人工子宮を用いて人類を増やし続けた。しかし、ある時から、人類の生殖能力は減退していく。そして"最後の子供"ルナが誕生する。ついにひとりとなってしまったルナは、コールド・スリープで永い眠りについていた人間を起こし始める。上巻は、眠りから覚めさせられた3人の女性によって、ルナが生まれるまでの惑星ナインの歴史が語られる。下巻では、ルナはついに"ナインの女神"とされ4世紀の昔にコールド・スリープについたレイディ・アカリを起こす。ルナは"最後の子供"となる不幸を予想しながら、なぜ母親は自分を生んだのか、レイディ・アカリに問う。
この話、本当におもしろいです。でもすごく怖くもある。"最後の子供"が決して生まれないとは言い切れないということ、人工子宮の存在、生殖能力のある人間が特権階級となる社会。怖いです。私の生きている社会がこんな社会じゃなくてよかった、と思ってしまいました。読み易いだけに、淡々と怖いというか、この世界と膜一枚くらいしか隔たっていないような気すらしました。そういう環境的なものも怖いのですが、覚醒させられてしまった、マリア、ダイアナ、トモミ、アカリ、起こさなければ自分が保てなかったルナの心境を考えると…。絶望ですよね。
生も死も否定しつつ、それでも受容し、生への希望を捨てない。いい本を読みました。(涙)



「悲惨であろうがなかろうが、人生は生きるに値する(後略)」(略)
「所詮人生は"勝ち負け"だから。勝ちの人生をおくらなければ嘘だ。損か得かで言えば、勝ちの人生を求めなければ損だ。(後略)」(下巻p.356-357)


新井素子:チグリスとユーフラテス 上下,集英社.






ゆそか