月のシズク
mamico



 それにはお灸を据えなさい

もう1年以上も前から、右手の薬指に小粒の納豆くらいの大きさの
イボのような気味悪いデキモノが生息していた。それが時々破裂して、
気がついたらキーボードが血だらけということが何度かあった。

つい最近は、隣りの小指にまで感染して、なんだか右指が見苦しいありさまに。
ずっと気になっていたので、えいやっと近所の皮膚科へ。

イエローページで検索し、地図で場所を調べて辿り着いたのが、
マンションの1Fにあるひなびた病院。すべてのガラスは、
ぶ厚いカーテンで覆われていて内装が何がなんだかわからない。
それでも「こんにちは」とドアを押すと、5つ椅子が並んでいて
3人先客が座っている。

私が4番目の椅子に坐ると、明らかに70過ぎの厚化粧で白衣を着たおばあちゃん
(看護婦さん?)が「まるきり初めて?」と二度も同じことを聞いてくる。
私も「はい、まるっきりはじめてです」と二度答える。

診察室から呼ばれて靴を脱いで部屋へ上がると、明らかに80手前のおじいちゃん
(医者?)がにこにこ笑っている。ゆっくりと前の人のカルテを書いて、畳んで、
のり付けして、私のカルテをじーーっと見つめる。

この間、約3分。3分間の沈黙の後、「それできょうはどうしたのかな」と
初めて私の方を見る。おずおずと右手を出すと、ちらりとその不気味な
突起物を見て、「ミチコさん、もぐさ」と看護婦さんに言う。

ミチコさんと呼ばれたおばあちゃん看護婦は、奥から茶色の袋を持ってきて
手渡す。先生はにこにこしながら、茶色の袋の口をひらき
「ボクがお薦めするのは、これですね」と袋に手を突っ込む。
取り出された手に握られていたのは、茶色のスチールウールのような物体。
あるいは、おぼろ昆布のような、はたまた壁に埋められた防火剤のようなもの。

呆気にとられて先生の手元を見ていると、ようやく説明してくれる。
「これはね、"もぐさ"といって、お灸になるんだよ。これをぐるぐる丸めて
円錐をつくってね。それを、そこに乗せて線香で火を付けるの。線香はある?」
ない、と答えると、「じゃ、ライターでもいいや。燃やさないように、
けむりをもくもく出すの」

話を聞いていると、なんだか余計に訳がわからなくなってしまった。
しまいにこのおじいちゃん先生は、「お灸を据えているときにはね、
気を集中するの。コンセントレイト。これが効くんだよ」と言う。

はぁ、コンセントレイトですか、それで直るんですね?と半ば諦め顔で
聞いてみる。すると、「うん、ボクはそう信じているんだよ」とにっこり笑う。

「じゃ、ミチコさん。730円ね」と言い、私はおばあちゃん看護婦に診察費を渡す。
「内用薬」と書かれた袋(普通に薬を入れる袋)に、もぐさをひとにぎり
入れてもらう。まったく訳がわからぬまま、私は藻草入りの袋を持って家へ帰る。

それで、テーブルの上に置かれた藻草を見つめていたのですが、
ちょっと試しに丸めてみました。
でもこのままだと、ボロボロとこぼれて全然「円錐型」にならないのです。
あの、どなたさまかお灸の作り方をご存知の方、教えていただけませんか?

私も早いとこ、コンセントレイトしてこの奇妙な突起物を
きれいにしたいのですが。





2001年04月07日(土)
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