月のシズク
mamico



 『ほんとうのジャックリーヌ・ディュプレ』

夜、ぽっかりと時間が空いたのでトモダチが録画してくれたビデオを見た。
やけに大袈裟な邦題が付いていたので、ずっと観るのをためらっていた作品だった。

ジャクリーヌ・ディュプレはチェリストだった。
不治の病で42歳という若さでこの世を去ってしまったけれど、
彼女の弾く情熱的な演奏は今も人々の中に生き続けている。

女性だからだろうか、奔放な性格だったからだろうか、
それとも繊細すぎたからだろうか。彼女の弾くチェロの音は、
堅い理性を打ち破り、中に潜む魂をぐらぐらと激しく揺さぶる。
太刀打ちできない情熱を、彼女は正面からぶつけてくる。

私は言葉を使って世の中を説明したがる習性があるけれど、
彼女の音楽をこれっぽっちも表現できない。
どんな美辞麗句を並べたところで、本物の芸術の前で言葉は無力だ。
だから、作り物の映画を見終わったあと、ジャッキーの弾くフランクを聴いた。

その人の「本当の姿」なんて誰にもわからない。
きっと本人だってわからないのに、誰かが作り直すことなんてできない。
私たちは残されたもの---音楽や文章やイメージ---から想像するしかないのだ。



2001年10月04日(木)
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