月のシズク
mamico



 茶色のスリッポン

ショートカッツをするつもりで足早に入ったデパートを、
10分後、私は靴の入った袋を手に出てきてしまった。
近道が寄り道になってしまった。

最近の東京は暑い。4月が始まったばかりだというのに夏日だそうだ。
うすっぺらなピラピラのブラウス一枚で、チクチクと紫外線に突き刺されながら、
スゥエード地の黒いミュールがいかにも重たい。と、足元を見下ろした昼どき。

デパートの1Fの靴売り場には、オモチャのように色とりどりの瀟洒なヒールが並ぶ。
女性の足は美の追究のため、身体の中で最も虐めらる場所かもしれない。
全身のツボが足の裏に集中している、というのに。

ちょこんと鎮座していたレンガ色のスリッポンは、
ウシの一枚皮で造られており、滑り止めが踵までせり上がっている。
疲弊した夕方の足を突っ込むと、柔らかな皮がそっと足をくるむ。
おお、アタシのあんよがほっとしてるじゃないか。
・・・という理由で、そのままレジへ。チャリン。

もしかして、この早すぎる初夏の陽気に踊らされたか?



2002年04月03日(水)
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