月のシズク
mamico



 馨る部屋

寝室からバラの静謐な香りがする。
うすいベビー・ピンクのバラの匂い。
その豪奢な姿に気後れして、自分ではめったに選ばない花。薔薇。
それでも贈られると嬉しい花だということに、今更ながら気付いてしまった。

ふんだんに選ばれた、大きくて、重くて、ゴージャスな花束をいただいた。
白い花が2種類。数えたら10本近くあった。
赤いバラが3本。美しすぎるので、本物かしらと不安になり、花びらに触れてみた。
ひときわ芳しい匂いを放つ、ベビー・ピンクのバラが4本。陶磁器のような艶がある。
青い金魚がたくさん付いているような、露草色の背の高い花。私は名前を知らない。

ぜんぶを一度に活けられる大きな花瓶を持っていないので、色別に3つに分けた。
青い花を食卓に、白い花と赤いバラを組みあわせたブーケを洗面台に。
そして、暗闇でも香り立つベビー・ピンクのバラを寝室に。
花を活けると、部屋の中に色彩と生命がそっと宿ることに、いつも驚かされる。

数日後、茶色に変色した花は、きっと黒い箱の中に捨てられるだろう。
私は花を捨てるときの、あの刹那的な残酷さが嫌いではない。


会社を辞めた私は、雨の中、大きな花束を抱いて部屋へ帰ってきた。



2002年04月30日(火)
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