月のシズク
mamico



 転がる少年たちよ

過食や拒食のように、天気にも著しい「反動」ってのがあるのだろうか。
今日の東京は暑かった。水分を含んだ空気が太陽に蒸されてじっとしりている。
思わずジャケットを脱いでノースリーブになった(日焼け止め、忘れていた)。

アシスタントの作業を終えたのが6時前だったので、部屋に寄りプールへ向かう。
本日の遊泳者専用レーンのペースメーカさんは当たりで、いい塩梅に流れている。
行きはクロール、帰りは平泳ぎで黙々とターンをくり返す。

夜のプールに反響する水の音が好きだ。
息を吸うために顔を水面からあげると、ぐるんと音世界が反転する。
明瞭、くぐもり、明瞭、くぐもり、耳に水が入って、くぐもり、くぐもり。
指先が水を切り裂いてゆくのもいい。自分が小さな舟になった気がする。

8時前に外へ出ると、夜の空気は昼の体温を残していた。
プールの前庭にできたボード・コーナでは、黄色いヘルメットをかぶった少年たちが、
ずるずるの洋服を着て急斜面をボードで滑り降りてゆく。器用に自転車を扱う者もいる。
彼らが作るガラガラ、ガラッガラという音が街灯に照らし出される。
光を浴びた緑の木の葉が美しかった。

少年たちの健康そうな夜を眺めていると、不意に夏が恋しくなった。
わたしは、夏の夜が織りなすまどろみを、この上なく愛している。


2002年05月14日(火)
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