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■ 隠蔽された夢
あまりにも生々しい感触を残した夢だった。 眼が覚めてからも、私はその風景や色合い、肌触りなどをありありと記憶していた。
それはこんな夢だった。 季節は秋で、私は兄と森の中の部屋に住んでいた。 玄関を上がるとすぐ、中央には長方形のダイニングテーブルがあり、椅子が4脚あった。 その背後はキッチン、その正面はテラスになっており、半野外の外風呂になっている。 ダイニングの奥には、独立した内風呂とトイレがある。そんな間取りだ。
そこへ、まだ会ったことのない女が訪ねてくる。 ダイニングでお茶をのみ、気づくと兄が外風呂に入っていた。 振り向くとキッチンには、四角い形をした赤い鍋がぐらぐらと煮えている。 テラスのガラス戸を引き、兄に「あの鍋は何かしら?」と私が訊く。 「ああ、差し湯のために、湯を沸かしているんだよ」と兄がのんびり答える。 そこで、訪問してきた女の姿が見えないことに、私はひどく胸騒ぎを感じた。
恐怖を纏って、内風呂の戸を引く。 脱衣所には女の衣服が脱ぎ散らかされており、グレイのプリーツスカートが 奇妙な形で放置されていた。恐る恐る風呂のドアを開ける。そこで見たもの。
湯が張られた湯船には、黄色い大判の葉が一面に浮いていた。 「入水自殺だ」と私は瞬間的に認識した。この葉の下に女が沈んでいる、と。 私は兄にそれを伝える。兄はしばらく考えた後、「このことは忘れよう」 と言い、女の衣服や女の死体(私はそれを見ていない)をどこかへ埋めた。 恐怖におののいた私はしきりに「警察へ通報しよう」と兄に言うが、兄は 「大丈夫」と答えるばかりだった。ダイニングにひとり立ちつくし、私は これまでないくらいに混乱していた。私はまだ会ったことのない女の正体を 知っていたからだ。
眼が覚めた。 それから冷静になって、夢の内容を掴もうとした。 いくつかの細部は自分で説明がついた。過去に遭遇したものたちとの関連性。 だが、全体を相対的に見たとき、私は無意識が流した記憶の情報がわからない。 おそらく、夢の意味は、ずっと後になって、ふらりと事後的に襲ってくるだろう。
2002年10月01日(火)
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