月のシズク
mamico



 ネオン妖しき風水温泉の巻

昨夜「温泉」で目撃したことを、少しお話しよう。
吉祥寺の住処から少々南下したところに「温泉」なるものが存在すると聞き、
仕事明けの地元トモダチを誘って(とにかく私たちは空腹だったが、それは忘れ
ることにして)調布方面へ車を走らせた。ネットから出力したアバウト極まりない
地図のせいで何度か迷走しながら、目的地にたどり着いたのが午後9時ちょっと前。

神代植物公園を過ぎ、店の灯りを落とした蕎麦屋の集落を抜け、住宅地のド真ん中
にその温泉「ゆかり」はあった。営業は午後10時までなので、在館1時間以内の
「カラスの行水」チケット(1000円)を券売機で購入し、長い廊下の先にある番台
でロッカーの鍵と緑色のタオルセットと交換してもらう。従業員は作務衣を着用
しており、いろんな意味でとてもフレンドリーだった。支度を整え、さて、入浴。

何ごとにおいても、予備知識がないと、未知との遭遇に驚かされるものだ。
まず第一に、温泉の湯が黒かった。第二に、夜の露天風呂(かなり広く敷地が
取られている)は電飾天国だった。風車は豆電球をじゃらじゃら付けて回転し
(いささか目立ちすぎている)、至る所に蛍光グリーンの足元灯が濡れた石畳を
照らし(ここはラブホか?)女性の子宮を模したような「赤銅鈴之助風呂」の内壁
は真っ赤に塗られていた(正直に申し上げてグロテスクである)。

気恥ずかしいを通り越して、呆気に取られ、おかしみがこみ上げてくる。
ひとり女風呂の中でにたにた笑っていても怪しいので、それぞれの風呂にもれなく
付いている「効能云々」看板を黙って読む。適応症。「神経痛、筋肉痛、関節痛、
五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、慢性消化器病、痔疾、
冷え性、病後回復期、疲労回復、健康増進、きりきず、やけど、慢性皮膚病、
虚弱児童、慢性婦人病など」万病に効果がありそうだ、と感心する。

しかし、そこで気になった数々の記述。
どの説明にも「財を得たいなら」とか「貴女の愛の生活により潤いを」とか、
どこかのヤバイ商法戦術のような文句。どんどん読み進めてゆくうちに、
この温泉は風水に則って作られた「風水温泉」だということが判明。
だから電飾? だから蛍光グリーン? だから子宮型? ふーむ。

モチロン、信じるも信じないも個人の自由な判断と選択に託されているが、
「下半身を鍛えるには」「愛をもたらすには」「夜を楽しむには」など、あから
さまな「教え」を頼りに来る人はいるのだろうか。疑問。でも、そこで再びはたと
気づく。こんなに真剣に看板の文面を読んでいるひとは、ぐるりと見まわしても
私ひとりくらいでした。そうね、そんなこと、どうでもいいわよね。気持ちよけりゃ。

温泉は言うまでもなく心身共に効果的で、黒い湯は白い肌をつるつるすべすべに
してくれましたとさ。近場の温泉、今度は昼間に来て、近隣の蕎麦屋を襲撃しよう。


2002年10月03日(木)
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