月のシズク
mamico



 菩提樹色の靴

「その靴、新しいの? いい色だね」
喫茶室のソファに座っていたファブリスくんに声をかけた。
「うん。菩提樹色なんだ」
「ん? ボダイジュ色?」

日本文学専攻のファブリスくん(仏)は、私なんかよりぜんぜん日本語が巧い。
漢字もたくさん読めるし、言葉の使い方だって美しい。はっとさせられる。
菩提樹といえば、釈尊がこの樹下に座して悟りを開いたと伝えられている。
花は黄褐色の五弁花で芳香があり、球形の実を結ぶ。つまり、そんな色なのだ。

周囲にいた日本人たちが、うーんと考えながら、負けじとぴったりの色の名前
を探そうとする。芥子色、抹茶に黄味がかった色、黄色のカーキ、などなど。
誰かが、あ、と言った。

「それさ、芋羊羹の色だよ」

皆、そうだ、そうだと一斉に同意する。
でもファブリスくんは、にこにこしながら、「菩提樹色っ」と繰り返す。
芋羊羹色に比べたら、菩提樹色の靴なんて、確かに美しい響きだこと。
でも私にとっては、やはり芋羊羹色の方がイメージしやすい。ごめん(笑)

ちなみに、シューベルト作曲の歌曲集「冬の旅」の第五曲のタイトルも
「菩提樹(Der Lindenbaum)」です。ネーミングって大切ですね。



2002年11月27日(水)
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