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■ 濡れた合羽ズボン
夏の暑いさかり、クリーニング屋さんが玄関のチャイムを鳴らす。 出てゆくと、店のおばさんが「配達に来ました」と当惑気味な声とともに、 びしょびしょに濡れたグレイの合羽ズボンを差し出す。これは?と訊く前に 「お祖母様がこういう形式にしてくれとおっしゃられたので」と弁解する。
水滴のしたたる合羽ズボンを手に、私は途方に暮れ、そして眼が覚めた。 夢か・・・、とぼんやりベットで微睡んでいたら、けたたましい電話の呼び出し音。 時計を見ると 6:56am。ナニゴト? と受話器を取る。
「カーテン開けてみて」 夜勤明けの友の声は弾んでいた。 「ナニ?」 「いいから開けてみて」
受話器を片手にベランダのガラス戸を引く。ひょえーっ、と奇声をあげる私。 外は東京らしからぬ風景が広がっていた。一面まっ白。音すらも消されている。 昨夜、降り始めの頃は、まさかこんなに積もるとは思っていなかった。 夜通しごんごん降り続いたのだろう。なんだか愉快になってきた。
「雪だるま、つくらなきゃ」 気が付くと、やけにきっぱりした口調でそう言い放っていた。 「コートに合羽ズボンはいて、雪だるまつくらなきゃ」 友は笑いながら、早くシゴトに行きなさい、と促し、電話を切った。 夏の暑いさかりに、濡れた合羽ズボンを手にした夢の話は、 あながち遠からぬ現実に即して予知されたものなのかもしれない。
研究室に着いてベランダから外を見下ろすと、小学校のグラウンドで半ズボンの 少年が、ひとりで巨大な雪だるまを制作中でした。お手伝い、いたしましょうか?
2002年12月09日(月)
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