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■ 「ピンポン、来ちゃった」襲撃
わたしの短い人生経験の中に、この「ピンポン、来ちゃった」襲撃を実行した ひとは、今までにふたりだけいる。ひとりは、昔付き合っていた年下の恋人。 もうひとりは、妹のように可愛がっている、みっつ下の女の子。
生活の中にこんな不意打ち的要素が侵入すると、ちょっと刺激的だ。 「今からそっちに行っていいですか」とメイルが入った数分後、ピンポーンと呼び 出し音が鳴り、メイルの主がドアの前にへらっとした笑いを浮かべて立っている。 わたしはドアを開き、彼女を部屋の中に招き入れる。
状況によって、紅茶をいれたり、ウィスキーを出したり、お風呂を沸かしたり。 カーディガンを羽織って、ふたり並んでベランダで夜の喫煙を楽しんだり。 相手の緊張がゆっくりと溶けてゆくさまを感じ、私も少し心穏やかになる。 どこか外の雰囲気のよい飲み屋や、居心地のよい喫茶店でなく、この部屋が そういった「くつろぎ空間」を提供するのだとおもう。親密で開放的な空間。
「落ち着けるんです。心が在る場所に、すとん、と落ちるというか」 妹ちゃんはこの部屋で、よくそんなことを言う。 お化粧を落として、私のパジャマを着た彼女の顔は少し幼くみえる。 わたしは何と応えてよいかわからず、曖昧にわらう。そう、と言いながら。
それは、逃げ場所ではないと思う。逸脱、ともちがう。 誤解を恐れずに言うなら、立ち止まる空間、なのだとおもう。 時間的/物理的な意味ではなく、心理的な側面において、自分にとどまるための空間。 そしてこの部屋から出てゆくとき、彼女はみごとなまでに、いつもの彼女になる。 だからこの「ピンポン、来ちゃった」行為には、実際的な意味があるのかもしれない。
いってらっしゃい。 思わず、彼女の後ろ姿にそんな言葉をかけたくなるほどに。
2002年12月20日(金)
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