とみぃ嬢のドトールな弟君が姉君と同じ大学にやってくる。
今日は宿舎の入寮日である。 コージ苑やとみぃ姉が住んでいたのは今からざっと8年前のこと。 その時でさえ付き添いの叔父をして「牢獄のようだ」と言わしめた寮であるが、 その古さ汚さは今も全く変わっていないようだ。 (いや、むしろ8年経っているだけに一層ひどくなっているんだと思われる)
大学宿舎は大きく分けて3ブロックに分れる。 とみぃ弟が入るのは北側の一の矢宿舎であるが、ここは「比較的」新しい。 一等古いのは南側にある平砂宿舎である。 そこのある男子棟は、その荒みっぷり故に「スラム」と呼ばれ、 特に1階は「グランドスラム」と特別に名前がつけられている。 以上、大学内スラングの豆知識。
学生寮といえば怪談の宝庫。 コージ苑の大学もご多分に漏れず、色々な話がある。 なんたって荒俣某が雑誌の記事にした位のオカルトな大学、その手の話はてんこもりだ。 中でも「マラソン幽霊」の話は傑出している、と勝手に思っている。 これは怪談というよりもどちらかというと笑える話で、 ある試合でゴール直前に倒れ、そのまま亡くなった体育専門の学生が、 夜な夜な宿舎の壁を突き抜けて走っていく、というものである。 「ええ、どこからともなくこちらへ走ってくる足音がするんです。 で、向こうの壁からすっと彼が現れ、反対側の壁へと消えていくんですよ」(目撃者談) 別段悪さをするわけでもないが、毎夜のことになるとどうにも眠れない。 困った学生のうち、一人が解決策を考えた。 即ち、部屋の壁の前にゴールテープを渡しておくのだ。 そしてその夜、いつものように現れた幽霊君はめでたくゴールし、成仏したという話。
ここまではおそらく真面目に語られていた(そうか?)怪談であるが、 誰が冗談で言い出したか、この話には後日談がある。 しばらくは安眠でき、満足していた学生たちであるが、 彼がもう二度と現れないとなるとやはり寂しい、と思い出した。 豊平川にサケを取り戻そうキャンペーンのごとく、彼等は幽霊君を呼び戻そうとして、 ある夜に、スタート用のピストルを高らかに鳴らしたのである。 すると、どこからともなくタッタッタッという足音が聞こえ、 部屋から部屋へと走るマラソン幽霊は大学に帰ってきましたとさ。
…嘘だろ、どう考えても。
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